昭和学士会雑誌
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原著
自己記入式評価尺度を用いた,自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の臨床症状の相違点と類似点
田中 有咲中川 茜里富田 秋沙幾瀨 大介西川 晶子内田 直樹岩波 明
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2022 年 82 巻 2 号 p. 86-93

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抄録

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum disorder:ASD)と注意欠如・多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)は,基本的な病態機序が異なる疾患と考えられてきた.しかし実際の臨床現場においては両者の特徴をもつ症例が少なからず存在し,2013年のDSM-5改訂においてASDとADHDの併記が可能になった.ASD患者の多くはADHD患者と同様の注意障害を示し,ADHD患者は自閉症症状を呈することも多い.両疾患の相違点や類似点を鑑別することは成人期発達障害の早期介入に不可欠であるが,自己記入式評価尺度を用いて臨床症状の検討をした論文は少ない.本研究では,両者の臨床的な相違点や類似点を検討するため,成人期ASD,ADHD,および定型発達成人において,自閉症症状の程度を評価する自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient:AQ)とADHD症状の程度を評価する自己記入式のコナーズ成人ADHD評価スケール(Conners’ Adult ADHD Rating Scales:CAARS)を用いた自記式の評価尺度を用いて,臨床症状の比較を行った.昭和大学病院附属東病院の精神神経科を外来受診し,DSM-5によって診断されたASD 30名およびADHD 31名と精神科通院歴がない定型発達成人 32名を対象とした.その結果,AQは,ASD群で最も高く,定型発達群,ADHD群に比べて有意に高かった.ADHD群においても,定型発達群に比べて有意に高かった.CAARSの下位項目(不注意・多動性・衝動性)のスコアは,いずれもADHD群で最も高く,ASD群においても,不注意・多動性・衝動性のいずれで定型発達群に比べて有意に高かった.このようにASDにおいてもADHD特性を認め,また反対にADHDにおいても自閉症症状を呈することが判明した.このように,両疾患は臨床症状が類似することで診断が困難になることも多く,さらに双方の疾患特性に関して生活歴や現病歴の聴取,診察時の現症から検討を進める必要があると考える.

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