抄録
フォンタン術後患児における抗血栓療法の安全性情報を提供するため,フォンタン術後患児の抗血栓療法の用法・用量ならびに血液凝固能と出血事象との関係を検討した.2011年3月から2020年9月に,昭和大学病院の小児循環器・成人先天性心疾患センターおよび昭和大学横浜市北部病院循環器センターにてフォンタン手術を受けた患児22例を対象とした.患者背景,抗血栓療法の用法・用量,ならびに術後1年間の血液凝固能の推移を出血群と非出血群で比較した.フォンタン手術時の月齢の中央値は36か月(22-164)であった.術後21例はワルファリンが投与され,その投与量の中央値は0.08mg/kg/日(0.03-0.16)であった.出血事象は9例(41%)に発症し,その発症日の中央値は抗血栓療法開始後10日(1-127)であった.そのうち4例は抗血栓療法の開始日が術後4日目であった.開始時から4週間後までにPT-INR値が2以上の延長を認めた症例は11例,そのうち4例で出血事象が生じ,7例は生じなかった.出血した9例のうち,ワルファリンの投与量は6例が0.1mg/kg/日未満,3例は0.1mg/kg/日以上であり,抗血栓療法開始時と出血時のワルファリンの投与量に大きな違いは認められなかった.また,PT-INR値が5以上の症例は1例であったが出血事象は生じなかった.その症例の投与量は0.1mg/kg/日未満であった.フォンタン術後患児において,ワルファリンの投与量とPT-INR値と出血との関連性はみられなかったが,術後早期はPT-INR値が変動しやすいことが示された.フォンタン術後患児にワルファリンを投与する場合は,抗血栓療法開始2週間以内のPT-INR値に影響を及ぼす要因(ワルファリンの用法用量,アスピリンの併用,術後の循環動態,薬物相互作用)をモニタリングすることが重要である.