2023 年 23 巻 2 号 p. 55-59
神経線維腫症1型はNF1遺伝子に変異をもつ遺伝性疾患であり,悪性腫瘍の合併をしばしば認める.今回,われわれは神経線維腫症1型に合併した高異型度卵巣漿液性癌の1例を経験した.32歳時に神経線維腫症1型と診断され,母親と姉も同様の診断であった.60歳時に呼吸苦を認め前医を受診したところ,卵巣癌による胸水貯留が疑われ当院に紹介受診となった.当院にて術前化学療法施行後に腫瘍減量術を施行した.病理診断は高異型度卵巣漿液性癌であり,術後化学療法を施行するも再発を繰り返し,64歳時に原病死となった.NF1遺伝子はがん抑制遺伝子であることが知られており,その遺伝子病的バリアントにより卵巣漿液性癌を含めたさまざまな悪性腫瘍合併の頻度が増加すると報告されている.今後のさらなる症例の集積による知見が,神経線維腫症1型における高異型度漿液性癌の発生にかかわるNF1遺伝子を含めた分子機構の理解,および有効な治療戦略の開発につながると考えられる.