抄録
地球温暖化に対するアジアモンスーンの応答は,アジアの多くの人々の重大な関心事であるが,数多くの研究にもかかわらず,その応答は未だ明らかではない.低解像度の気候モデルの制限から,特に夏季アジアモンスーンの日降水量の変動や極値の変化に関してごく少数の研究しか行われていない.本研究は,高解像度全球気候モデルを用いて,アジアモンスーンの日降水の変化が気候変動による力学的な場の変化によって生じるのか,それとも同様の力学場が与えられた場合に生じることが期待される降水特性が変化するのか,という観点で解析を行った.
数値モデルは,水平解像度T106(約1.1度グリッド),鉛直56層の高解像度全球大気モデル(CCSR/NIES/FRSGC AGCM)を用い,標準実験5本,CO2倍増実験7本のタイムスライスアンサンブル実験を行った.南アジア地域の地表気温は,CO2倍増時に2度から6度の昇温が予測される.対流圏下層のモンスーン循環の北へのシフトと,南アジア陸上における降水の顕著な増加が予測される.標準実験の日降水は,強い降水強度の頻度が観測に比べて過大な部分もみられたが,概ね良く一致していた.CO2倍増時に非常に強い降水の顕著な強まりが予測される.南アジア夏季モンスーンの陸上における平均降水量の変化は,主に熱力学的な変化によって生じており,力学的な影響は小さく,相関項はほとんど無視できる.日降水は力学場の変化により,比較的強い(弱い)上昇流によって減少(増加)することが予測される.対照的に,熱力学的変化はほとんどすべての場合において日降水の増加へ寄与していた.この地域の極端な降水現象に対しては,熱力学的変化よりも力学的変化が大きく寄与していた.