抄録
冬季に日本の太平洋沿岸から南海上を通過する南岸低気圧に伴う層状性降水システムにより,降雨または降雪が広い範囲にもたらされる.特に日本の太平洋沿岸では,南岸低気圧の進路や大気の状態のわずかな違いにより,地上にもたらされる降水形態が異なる.降水形態の判別には,地上の降水形態の変化と対応づけた層状性降水システムの構造の変動を捉えて知ることが必要とされる.本発表では,2013年2月18日に静岡域で降雨,甲府盆地で降雪から降雨への変化をもたらせた南岸低気圧に伴う層状性降水システムのX-バンドマルチパラメータレーダー(以下,国交省XRAINとUYR)により観測された事例を報告する.
甲府盆地内において,ブライトバンドの地表付近の出現からその高度の上昇が観測された.それに対応するように,甲府での地表での降水形態は降雪から降雨への変化を示した.またブライトバンドは,駿河湾上空で高度2km,甲府盆地上空で高度1~1.5kmと,駿河湾上から甲府盆地に向かって高度が減少する構造をしていたと言える.
以上から,南岸低気圧に伴う層状性降水システム内において,低高度でのブライトバンドの下層での出現とその高度の変化が,地上の降水形態の決定に寄与していると考えられる.そして、そのブライトバンドの変動を盆地内や沿岸の低標高に設置されるX-バンドマルチパラメータレーダーにより捉える事が,南岸低気圧に伴う層状性降水システム中の降雪と降雨の簡易な判別を可能すると考えられる.