水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2013年度研究発表会
選択された号の論文の142件中1~50を表示しています
Ⅰ.口頭発表
【降水,降雪・融雪,雪氷1】9月25日(水)9:30~11:00
  • 近森 秀高, 永井 明博, 増田 直也
    セッションID: 1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    空間解像度が高く対象地域内における全ての観測値の記録長が等しいレーダー雨量計データを利用し,岡山県の高梁川,旭川,吉井川の各河川流域を対象地域として,これらの対象地域内のさまざまな面積の流域における最大比流量を推定する洪水比流量曲線を求めるとともに,各地域における面積雨量に極値統計解析を適用し,流域面積から確率洪水比流量を推定する手法について論じた。まず,高梁川流域,旭川流域および吉井川流域の3個の対象地域それぞれにおけるレーダー雨量計データからDAD関係を求め,これに角屋・永井による洪水比流量曲線式を適用して,流域面積から最大比流量を推定する式を求めている。その結果,各対象地域で求められた推定式を表す曲線は,対象地域内およびその周辺における既往最大比流量を概ね包絡することが確認された。次に,レーダー雨量計データから得られる各対象地域における年最大面積雨量に一般化極値分布を当てはめて確率面積雨量のDAD関係を求め,これに角屋・永井の洪水比流量曲線式を適用して確率洪水比流量曲線を推定している。その結果,求められた100年および200年確率の洪水比流量曲線は,既往最大流量をほぼ包絡することが確認された。  また,これらの洪水比流量曲線は,いずれも小流域において既往最大値に比べて洪水比流量を過大に推定する傾向が見られたが,これは,検討対象流域と同じ面積の流域を対象地域から無作為に選んだときに検討対象流域自体が選ばれる確率が小面積であるほど低くなることを考慮すれば説明できることを示した。
  • 五味 千絵子, 葛葉 泰久
    セッションID: 2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    モノフラクタル,マルチフラクタルなどのscaling 理論にしたがった確率モデル,それを若干改変した著者独自のe-model(指数関数型のフィルターを用いるモデル)の,水文データへの適用性について検討したした.日降水量時系列データについては,フラクタルモデルは適用できず,e-modelが適用できることが分かった.解析雨量の時系列データについては,マルチフラクタルモデルが適用できることを確認した.講演時には,その他の水文量についての検討結果を示す.
  • 古田 康平, 山口 弘誠, 中北 英一
    セッションID: 3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    降水粒子判別は降水過程の理解,降水推定精度向上,雨雪判別による道路管理や河川管理,あられ判別による雷の予測,雹の探知,そして気象モデルへのデータ同化による降水予測精度向上などに役立つとされている.本研究では,偏波レーダーによる粒子判別の情報をデータ同化することによる予測精度向上を目標に,Cバンドレーダーによる粒子判別という定性情報から降水粒子の混合比を導出する手法を開発する.さらに時空間的に高解像度の粒子判別結果を得るためにXバンドレーダーによる粒子判別,混合比導出を行う.混合比推定手法の開発で使用するデータは沖縄集中観測で得られたビデオゾンデのデータを使用する.ビデオゾンデ観測では,ビデオカメラを内包したゾンデを気球につり下げて雲の内部の降水粒子撮影することにより,貴重な雲の内部の降水粒子の種類,大きさ,形,数、濃度などの直接観測値を得ることができる.さらに,既往研究であるCバンド偏波レーダーを用いた降水粒子種類判別の過程で用いたファジー理論評価値Qを利用する.また,この混合比推定手法をさらに時空間的に高解像度の粒子判別結果を得るためにXバンドレーダーに適用する.混合比推定手法の精度検証については,現在高精度の氷粒子の混合比の観測値がないため,今後,実事例を対象にモデルにデータ同化し,解析を行う
  • 山口 弘誠, 古田 康平, 中北 英一
    セッションID: 4
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    近年,記録的な集中豪雨による災害が頻繁に発生しており,より高精度な降水予測情報が求められる.特に,防災の観点から実用的に求められる定量的降水予測のスケールは,メソβスケールと呼ばれる空間的20km~200km,時間的に数時間先~12時間先程度であり、大気モデルに適切な初期値を与えることが予測精度の向上に大きく影響する.さて,積乱雲スケールの短時間降水予測におけるデータ同化に関して、氷粒子に関するデータ同化は進んでいない。山口ら(2009)は氷粒子の混合比の存在比を同化する手法を提案したものの,霰粒子の数濃度存在比のみの同化では氷粒子の量的な修正ができず,モデルの雲微物理の効果的な改善効果は得られなかった.そこで本研究では、別途に開発した偏波レーダーから推定した氷粒子混合比を観測値とみなすことで、積乱雲スケールにおける新しい同化手法を提案し,短時間降水予測の精度向上を図った。2012年7月の京都豪雨の事例に適用した結果、六甲山系上空ではALL同化により,本事例のトリガーとなる上昇流が表現できただけでなく,霰混合比についても増加していた.北摂山系上空ではALL同化の方がdpv- ZHH同化と比べてメソ対流系領域における霰混合比が多く,予測を行ったときに北摂山系上空で粒径の大きな雨滴が形成されると考えられる.北摂山系による強制上昇によって形成された新たな積乱雲を併合することによって,本事例の強化機構に対して効果的なデータ同化を行うことができた.
  • 尹 星心, 中北 英一, 西脇 隆太
    セッションID: 5
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    都市部での突発洪水は急な流域傾斜および排水システムなどの複合的な水文特性を持って発生する。 また、近年の都市部ではヒートアイランド影響により局地的集中豪雨がより頻繁に発生している。従って、人々の余暇生活とも緊密に関わっている都市河川では、5~10分先の洪水予報が最も大事なことになっている。本研究では都賀川流域を対象として効率的な洪水予報を行う目的で、「都市洪水警報基準ノモグラフ」を開発した。また、雨量計観測降雨量、Xバンドマルチパラメータレーダ観測網から観測されたレーダー観測降雨、そしてレーダ予測雨量を用いて適用性を評価した。9個の洪水イベントを用い評価した結果、開発されたノモグラフは都市部での洪水を高い効率で予測することが可能であった。特に、レーダー予測降雨データを用いる場合、より効率の高い洪水予測を行うことが可能であり、避難のための必要時間を確保することも可能にした。今後の課題としては、レーダー降雨予測の精度を改善し、洪水予報の精度を向上することを基にして、局地的集中豪雨の早期探知手法まで考慮することである。
  • 増田 有俊, 中北 英一
    セッションID: 6
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    都市域における局地的豪雨をターゲットとした30分先までの降雨予測手法を開発した。降雨予測には、局地的豪雨の現況監視のために国土交通省が展開しているXバンドMPレーダ(XRAIN)を用いた。本手法の特徴は、「30分程度であれば積乱雲の寿命内であり、運動学的手法をベースとした手法が適用可能であること」、「時間的にも空間的にも高精度なXRANの登場により、個々の積乱雲の識別と追跡が現実的となったこと」に着目し、従来は困難であると考えられてきた「運動学的手法への発達・衰弱過程の導入」を試みた点にある。降雨予測アルゴリズムは「セルの追跡と抽出」と「外挿予測」の2つで構成されている。1つ以上の辺で接続している5mm/h以上の格子の塊とし、2km2以上の面積を有するものと降水セルとして定義してセルの抽出を行った。さらに、時刻tにおけるセルjと時刻t-δtにおけるセルiの重心距離と面積差で定義した指標(Cij)を導入し、Cijの最も小さいセルiを同一のセルと認識することで降水セルの追跡を行った。降水セルを追跡することで、各セルの面積や降雨強度の変化履歴を得ることができる。これらの値を外挿することで、従来手法では困難であった雨域の発達・衰弱を表現することが可能な降雨予測手法を開発した。本手法を2011年8月27日に大阪で発生した局地的豪雨事例に適用した結果、ほとんど位置を変えずに30分程度で急激に発達した降水セルを表現することができた。運動学的手法に発達・衰弱効果を導入した効果を検証するために、発達・衰弱効果を導入した手法と導入しない2手法の予測計算を行い、相対誤差(RE)による比較を行った。雨域の発達・衰弱効果を導入することで、特に強雨時において予測精度が向上することが確認できた。
【降水,降雪・融雪,雪氷2】9月25日(水)11:10~12:25
  • 野依 亮介
    セッションID: 7
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    近年日本では,局地的大雨による被害が問題となっている.首都圏ではその発生要因の分析が行われ都市による加熱や粗度の増加の影響が指摘されているが,京阪神ではそのような分析は十分でない.本研究では,2011年8月27日に大阪での局地的大雨に都市が与えた影響を,観測データの解析と詳細な都市環境パラメータを考慮した雲解像モデルを用いた数値実験により検討した. 現実的な都市考慮した実験(CTRL)と都市を仮想的に水田に変えた実験(PDDY)を行い比較した結果,PDDYで都市域における降水量が減少することが確認された.このことから,この事例では都市の存在によって局地的大雨が強化されたことが示唆される.加えて,京阪神では周囲の山地域で生じた降水からの下降流が,局地的大雨発生の要因として重要であることが示唆された.
  • 中北 英一, 鈴木 賢士, 大石 哲, 坪木 和久, 川村 誠治, 橋口 浩之, 中川 勝広, 鈴木 善晴, 大東 忠保, 相馬 一義, 山 ...
    セッションID: 8
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    昨今、温暖化・都市化と絡んでか頻発化が議論される豪雨災害が目につく。比較的規模の大きな豪雨は最新のメソ数値気象モデルでおおよその予測が可能となってきたが、それより規模の小さな集中豪雨は未だ再現すら難しい。加えて、ゲリラ豪雨災害においては、ほんの5分、10分でも早い避難情報が極めて重要である。このような状況下、雲物理過程のさらなる解明、降雨予測精度・降雨量推定精度の向上、ゲリラ豪雨等の早期探知・予測、急激な出水・浸水の予測、ならびに新たな避難情報発信手法の確立が古くて新しい課題となっている。本研究では、降水粒子の形態に関する観測パラメータを得ることができる最新型偏波レーダー、ならびに上空に存在する降水粒子をカメラで撮影するビデオゾンデを同期させた基礎観測実験をベースに、近年では積乱雲の発生・発達を捉えるための観測へと進化させ、これらの観測を通して、雲物理・大気モデルを改良し、降雨量推定・予測の向上を図りながら、併せて水管理への様々な利用手法の基礎開発を行うことを目的とする。
  • フクス パブロ, 朝岡 良浩, 風間 聡
    セッションID: 9
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    In this study, we applied an enhanced temperature-index model to simulate daily snow and ice melt on two glaciers on opposing slopes of the Huayna Potosi Massif. A simple surface mass balance model taking into account snowfall and melt was used to calculate the monthly and annual balance on both glaciers. We found that the same set of parameters was suitable in both cases although further validation is needed. The altitudinal distribution of balance showed that the equilibrium line lies at about 5200 m asl suggesting that small glaciers at lower altitudes in the region might have greater losses than those located above this threshold.
  • 林 達也
    セッションID: 10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    本研究は,積雪量実測データからSWEモデルに同化手法を導入し流域の積雪推量分布の補正を行った.同化によって推定された積雪深の推定値を実測値で除した値である同化係数を比較し,同化係数の推定方法を検討した.また,山岳域の積雪量分布の推定精度の検証を行った.
  • 渡辺 恵, 瀬戸 心太, 平林 由希子, 鼎 信次郎
    セッションID: 11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    アジア高山域においては,近い将来の氷河の消失に加えて,将来の人口増加と地球温暖化にともなう乾燥化の予測もあり,水資源逼迫が懸念されている.一方で,継続的な氷河質量収支の観測値は極めて不足している.これまでアジア高山域の氷河質量変化量は様々な手法によりその推定が行われてきたが,各手法の推定結果には差異があり,氷河質量変化の推定には大きな不確実性が伴うと言わざるを得ない.本研究ではアジア高山域において,過去から将来に渡って氷河質量変化の算定が可能な氷河モデルによる数値シミュレーションに着目した.モデルのインプットデータである降水量は気温に比べて空間変動が大きいため,算定結果に大きな影響を与える.現存する雨量計データを基にしたデータセットでは山岳地域の降水量の正確な空間分布を表現できていないため,降水量データの改良が求められている.したがって、本研究では氷河の質量変化算定に不確実性の高いヒマラヤとその周辺地域において(1) 衛星レーダを用いて高空間分解能の降水量データセットを作成する.(2) 作成した降水量データセットを用い、氷河質量変化を算定する.はじめに衛星観測と雨量計観測を組み合わせて,空間分解能約0.05°の日降水量インプットデータを作成した.さらにこのインプットデータを利用し,氷河モデルにより氷河質量変化の算定を行った.まず,衛星レーダ観測からは年降水量の10年平均を求めた.衛星観測値は観測誤差を含むため,雨量計観測を用いて雨,雪領域別に年平均降水量を補正した.時系列データには雨量計観測の日降水量の時間変化を適用した.ここでは衛星観測と雨量計観測の年平均降水量の各グリッドの比は常に一定とし,雨量計の日降水量にその比を乗じた.氷河質量変化の算定においては,氷河の涵養と消耗のプロセスを降水量と気温を基に計算することのできる氷河モデルを利用した.氷河モデルでは個々の氷河において,鉛直方向50mの標高帯ごとの積雪と氷河の質量収支の計算を行う.本研究では,雨量計観測の不足していたヒマラヤとその周辺の山岳地域において,高空間分解能を持つ降水量インプットデータを作成した.これをもとに個別の氷河質量収支を計算した.
【流出】9月25日(水)13:30~15:00
  • ユ ワンシク, 中北 英一, 山口 弘誠, キム スンミン
    セッションID: 12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    近年、予測リード時間を延ばすことを目的に、数値気象予報モデルから出力される降水量予測情報を流出予測モデルに直接入力した洪水予測に関する研究が進められている。しかし、数値予報モデルの降雨予測誤差は洪水予測に大きな不確実性をもたらすことがある。このような予測の不確実性に対処するためにアンサンブル予測技術が発展してきており、アンサンブル降雨予測と流出モデルの結合を通じた洪水予測は極めて重要な研究となっている。したがって,本研究では30時間の予測時間と2kmの水平解像度のアンサンブル降雨予測を利用し、流域の空間スケールを考慮したアンサンブル降雨予測から洪水予測への誤差伝播特性を評価した。
  • 高崎 忠勝, 河村 明, 天口 英雄, 石原 成幸
    セッションID: 13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    中小河川感潮域における実時間洪水予測を目的として概念型降雨流出河道モデルの構築を試みた.構築モデルは時系列フィルターの導入を考慮に入れて,モデルパラメータが少なくかつ計算量が少ない特徴を有する.東京の都市部を流れる感潮河川古川に構築モデルを適用し,水位変化の再現性を確認した.
  • 戸田 淳治, 田中 賢治, 浜口 俊雄
    セッションID: 14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    [研究の目的]
    自然災害による犠牲者を一人でも減らすため、洪水災害や土砂災害の予測から避難警報に至るまでのプロセスをシステム化し、防災情報を必要とする人々が避難に対する意思決定を行う上での指針を示すことが最終目標であるが、今回は洪水氾濫シミュレーション部分を中心に述べる。
      
    [システムの概要]
    近年頻発するようになった大雨などによる洪水災害に備えるため、我々は流出予測及び氾濫予測を行うための流出氾濫統合システムを構築した。流出モデル及び氾濫モデルを統合し一元的に扱うため、両モデルの空間解像度、計算時間間隔は同一とする(前者は1km、後者は10分毎)。流出モデルから出力されるメッシュ毎の水位データ等が氾濫モデル入力データとなる。また地盤高データは10mDEMを使用し、下記の佐用川流域での大雨イベントにおける再現計算で使用した降雨データは1kmメッシュの解析雨量である。
      
    [これまでの研究]
    構築された洪水氾濫統合解析システムを実流域にあてはめ、再現性を評価する研究を行った。我々が取り上げたのは2009年8月に兵庫県佐用町で発生した水害である。出力結果(メッシュ毎の浸水深)の評価手法であるが、浸水深実績データとの比較に加えて平面二次元不定流モデルの出力結果と比較することで行った。平面二次元不定流モデルの空間解像度(50m)を基準にして、内・外水氾濫マクロモデルの空間解像度を50m、100m、1kmと変化させて計算精度を比較した。1kmメッシュの浸水深データは50mメッシュにダウンスケーリングした。

     [今後の予定]
    上記システムを用いて2011年8月下旬に発生した台風12号がもたらした紀伊半島豪雨の再現計算を行う。計算対象は十津川流域、降雨データは空間解像度2kmのメソアンサンブルデータを使用する予定である。この事例では洪水災害に加えて土砂災害の影響が大きかったため、洪水氾濫モデルから出力されるメッシュ毎の浸水深データに土砂災害の発生危険度分布を加味したデータ(複合災害に対する危険度を示すデータ)を作成し、避難モデルの入力データとする。
  • 佐山 敬洋, 建部 祐哉, 田中 茂信
    セッションID: 15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2011年タイ・チャオプラヤ川流域の洪水は、平年よりも約1.4倍の降雨が観測史上最大の洪水被害をもたらした。この降雨量を大きいとみるか、小さいとみるかによって、この災害の解釈は大きく異なってくる。例えば、Oldenborghら(2012)は降雨量の年々変動から2011年の降雨量が顕著に大きくなかったことを指摘し、洪水被害の主たる原因は降雨量そのものではなく、洪水管理にあったと結論付けている。一方で、降雨量の約7割が蒸発する環境下では、たとえ1.4倍の降雨量でも流出量は2.4倍になるという指摘もある(小森ら, 2012)。本論はこのような議論をより定量的に行うため、降雨量の変動に対する、河川流量・洪水氾濫量・土壌水分量変化の応答特性を分析した。具体的には、チャオプラヤ川流域に適用した降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)を用いて52年間の連続的な流出氾濫シミュレーションを実行し、その計算結果を水収支の観点から解析した。その結果、6か月降雨の増加に対するピーク氾濫量の増加(dF/dR)が0.3となることが分かった。この値は、流域平均雨量が400mm増加する(平年の1.4倍になる)と、氾濫量が流域全体で120 mm(200億トン)増加することを意味する。この量はブミポン・シリキット両ダムの総貯水量(230億トン)に匹敵する氾濫量の増加であり、2011年洪水をもたらした降雨量とそれによる氾濫量の特異性が明らかになった。
  • Chaminda Samarasuriya Patabendige
    セッションID: 16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    In this study daily runoff depth was simulated   by the validated distributed hydrological model for the period of 1975-2005 for the whole basins in the country. The mean & standard deviation of annual water per capita was derived for 39 basins covering more than 80 percent of the geographical area of the country. Inter and intra annual seasonal variability of water per capita was evaluated in terms of percentage contribution to the annual variations.   Results showed that already six basins located in the wet zone of the country under water stress due to higher population density. The basins which have high water per capita value are less populated and significantly varied its water availability over inter annual and seasonal . Most significant inter annual seasonal changes for all basins have appeared during 2nd inter monsoon . Significant spatial variation in water per capita appeared during southwest monsoon. 
  • 藤村 和正, 井芹 慶彦, 鼎 信次郎, 村上 雅博
    セッションID: 17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    山地流域の低水流出の的確な把握は、地球温暖化による水資源への影響評価、その適応策の検討や、山間部河川の小水力発電による電力供給不足への対処および地域活性化への活用など、これらの基礎資料になり得てその重要性は高い。低水流出を指数型の貯留関数式で表した研究は多いが、貯留関数式に含まれる定数の決定値に言及した研究は少ない。本研究では、自然条件の異なる2つの山地流域、早明浦ダム流域と最上川上流支川の白川ダム流域において、低水流出の貯留関数式に含まれる定数の最適値についての感度分析を行った。つまり、安藤らが提案しFujimura
    et al.により改良された水循環モデルを用いて、モデルを構成する低水流出の貯留関数式について、その定数の値を変化させて水循環解析を行い、日流出量の実測値と計算値の相対誤差を小さくする定数の特性について考察した。対象期間は、早明浦ダム流域は1991年1月1日から2010年12月31日までの20年間であり、白川ダム流域は、流出量の実測値のある期間として2003年4月1日から2013年4月30日までの10年1か月である。ADRE(日流出量相対誤差の平均値)の最小値近傍の値を得る減水定数Auと指数Nについて考察したところ、早明浦ダム流域で最小値33.86%以上36%未満、白川ダム流域で最小値41.85%以上54%未満のADREを表すAuとNの関係は指数関数式として表された。そして、Au-N指数関数式の係数は、流域条件が異なる場合でも、有効数字2桁程度でほぼ同じ値であることが示された。本研究で得られた知見は、低水流出の貯留関数式における定数の決定に寄与できる可能性があるものと考えている。
【地下水,河川・湖沼】9月25日(水)15:10~16:40
  • 阪田 義隆, 池田 隆司
    セッションID: 18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    扇状地河川は扇端から扇頂にかけて流量減少(伏没)が生じる失水河川となる.この伏没量は扇状地の帯水層の主な涵養源である一方、多量な失水が河川の低水環境へ与える影響がしばしば問題となる。本研究では,水温をトレーサーとして,地下水温のピークの移送遅れや振幅減衰から,鉛直・水平方向の地下水流速をそれぞれ推定し,豊平川の伏没機構や扇状地への地下水涵養の実態の理解を進めることを目的とした.地下水面付近の浅層部の水平方向の地下水流は,河川水温から観測孔までの水温ピークの移送速度から推定した.また鉛直方向の地下水流速は,理論解から導いた標準曲線法で推定した.その結果,水平方向の地下水流速は下流測線0.8,中間測線は0.3m/d,上流測線は1.1m/d程度と見積もられた.とりわけ速度が大きい上流地点では,右岸の古期扇状地面で涵養された地下水が豊平川を経由して,札幌面へ流れ込んでいると想定される.すなわち,上流区間では同時流量観測では河川水収支の変化は認められなかったものの,地下水涵養帯として同様に重要な区間であることが明らかとなった.鉛直方向の地下水流速は,上流・下流地点ともに0.01~0.04 m/dで水平方向の流速よりも1桁以上小さい値であった.動水勾配は鉛直方向が水平方向より1桁大きいことから,扇状地礫層中の透水係数分布(特に透水異方性)が地下水流動場の形成に重要な影響を与えていることを示している.
  • Kamal Ahmed, 浜口 俊雄, 角 哲也, 田中 賢治
    セッションID: 19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    本研究はエジプト・ナイルデルタの地下水流動を再現計算することが主目的である.ここでは降雨がほぼなく,地下水位は涵養や揚水に左右されている.既往研究でも同様であったが最も大きな影響を与える不確定要素として河床から地下水への涵養量があり,その件に関して様々に議論されてきている.本稿では既往研究成果において結論づけらた様々に異なる成果から,ある程度信頼できる情報を基に,同涵養量の与え方に対して数パターンを試行し,地下水位の再現において最も近いものを採用することにした.そこでは不圧・被圧地下水のどちらにも対応できる平面地下水モデルを用意してシミュレーションを行う.河川流量や過去に推定された涵養データの情報はすべて年データであり,これを月別データに分解し,更に日データへ平均再配分して計算に用いる.異なるデータのある揚水量もそれぞれを年総量を月別に分解し,日平均値に再配分して用いている.以上のデータに加えて揚水を考慮しないパターンも含め,設定した揚水データに関しても複数パターンを検討対象として,その影響下の地下水シミュレーションを行っている.これらから再現の良好なパターンを見出している.
  • 浜口 俊雄, 角 哲也, かまる あふめど
    セッションID: 20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,帯水層内の塩水侵入の影響特性を把握すべく,まずは定常な状態での鉛直断面での理論展開から検討を始める.そこで得られた理論展開結果を基に広域で適用可能な塩水侵入平面モデルを提案する.本稿は上記特性把握ならびに大きな計算格子での適用性の確保が可能なモデルの開発が主眼であるため,理論展開する上で,塩水と淡水が容易に分散拡散的な混合をせずに淡塩界面が明瞭な状態のままであると仮定して式展開し,実際に分散拡散で生じる淡塩界面付近の混合帯域を特性把握過程を表現しないかたちで検討したことになっても定性的な一般性は失われないため,大きな計算格子での考察も可能となる.塩水侵入挙動は本来鉛直と水平の両方の動きであるが,ここでは広域平面的にその動きを表現したいため,同一地点での平均濃度でその挙動が追跡されるように考える.そこでは淡水圧と塩水圧の釣り合いから,擬似的にその塩淡境界面位置を推定できるものとすることで,塩分濃度の水平移動に併せて塩淡境界面の鉛直位置を表現できる.これによって,ある程度大きな計算領域であっても3次元塩水侵入解析を導入することなく,平面的に数値解を得ることができる.
  • 辛 卓航, 木内 豪, 仲谷 知之
    セッションID: 21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    Water temperature, which is a key characteristic of stream ecosystems, is controlled by various natural and anthropogenic heat exchange processes. The present study assessed the roles of the surface-subsurface water exchange and the anthropogenic discharge from wastewater effluents on surface stream temperature in summer and winter seasons using field measurement data. The analysis of water and heat budgets were carried out to quantify the impacts of each energy component on stream temperature and a 1-D dynamic model for river flow and heat transport was applied to evaluate the influences of wastewater and surface-subsurface water exchange on stream temperature.
  • 笹川 幸寛, 手計 太一
    セッションID: 22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    河川感潮域では複雑な密度流現象が発生している.本研究で対象とする東内川は上下流が海に接続していることにより流速が小さく,水質汚濁が発生している.この複雑な流動を明らかにするため,単純化した海―水路―閉鎖性水域結合モデルを構築しどのような改修をすれば東内川に自然な流速が戻るか検討した.
  • 峠 嘉哉
    セッションID: 23
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    筆者らは,これまでカスピ海流域の東部にあたるアラル海流域で陸面過程モデルSiBUCを用いた水収支解析を行ってきており,そこでは降水量の30%を削減するという大きな仮定を施さなくては河川流量やアラル海縮小を精度よく再現できないという水量過多の問題があった1).使用した降水量データセットと現地観測データを比較した場合に3割にも及ぶ違いが見られなかったことから,モデル内で考慮できていない水の損失があると考えられ,その原因の一つとして,水が地下水として流域外へ流れ出ている可能性がある. 中央アジア東部のアラル海流域は,西部のカスピ海流域より標高が高く,現在のアラル海の海面標高が約30~40m程度である一方で,カスピ海の海面標高は約-30mである.加えて,現在アラル海に流れ込んでいるアムダリア川は2000年程前にはカスピ海に流れ込んでいたという事実等を踏まえると,二つの流域は現在表流水の形では繋がっていないものの,地下水の流れが依然として存在する可能性がある.そこで本研究では,アラル海流域で行ってきた流域水収支解析をカスピ海流域においても行い,アラル海流域側からの流入があり得るかどうかについて検証を行った. 解析は今までアラル海流域で行ってきたものと同様に,陸面過程モデルSiBUCを用いて流域全体の水収支を計算し,その結果から得られるカスピ海の水収支を入力条件としてカスピ海消長モデルを結合させた.このカスピ海消長モデルによって得られたカスピ海領域の変化は,陸面過程モデル内での土地被覆条件にも反映されている.同時に,各年の灌漑面積を統計データを基に修正している.この解析を1961~2000年の40年間で行った. 結果,水量が過大となったため,降水量を3割補正する処理を行った.その原因の一つとしては,SiBUCでは,降水時や積雪が融解した場合に一定量以上の水が地上に溜まると,超過分の水が河川に流れ出るとしている.しかし,流域北部の寒冷地においては,積雪が夏季に融解し湿地帯を形成する場合があり,これを反映できていなかったことで蒸発量を過小評価していた可能性がある.そこで,今後はGRACE衛星を用いて陸水貯水量を評価し,湿地帯と考えられる地域を検出した後,河川流量データから流出率を求め,湿地帯の有無と流出率の関係等を明らかにしていきたいと考えている.  
【気候変動・地球環境】9月26日(木)9:35~11:20
  • ラムザソ メーワイシツユ
    セッションID: 24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    Pakistan has gone through flooding in summer of 2010 and 2011.  But the flood of 2010 gained more popularity as compared to 2011 flood. So our motivation of current research was to compare 2010 flood with 2011 and to see how both floods were different from each other. For this purpose Regional Spectral Model (RSM) was used. The results of model and Reanalysis datasets showed commendable correspondence. 
  • 石崎 安洋, 江守 正多, 横畠 徳太, 高橋 潔, 塩竈 秀夫, 肱岡 靖明, Strassmann Kuno , 小倉 知夫, 吉森 正 ...
    セッションID: 25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    温暖化の影響評価や適応策を考える際には幅広い範囲の排出シナリオの結果が必要となる。大気大循環モデルを用いて様々な排出シナリオの条件下で予測を行うには膨大な計算機資源が必要となる。パターンスケーリングは、このような幅広い排出シナリオに基づいた将来予測を行うために非常に有益なツールである。パターンスケーリングにおいては、簡易気候モデルが大気大循環モデルの全球平均気温上昇量を模倣する性能が持つことが求められる。そこで、本研究では、AIM/impact/policy簡易気候モデルがどの程度MIROC5の結果を再現できるかを調べた。過去の研究から、平衡気候感度、海洋の熱吸収、エアロゾルの放射強制力が重要であることが指摘されている。そこで、本研究では、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて、それらのパラメーターを推定した。初期設定とMCMCにより推定されたパラメーターでは、気候感度や人為起源エアロゾルの放射強制力はそれほど違わない。一方、応答関数の係数については違いが大きい。その結果、初期設定では、MIROC5より昇温量が小さかったが、MCMCによって推定された応答関数では、海洋の熱吸収が少なくなり、昇温量がMIROC5に近づいている。その結果、2100年の差が、初期設定では-0.60であったが、MCMCで推定されたパラメーターを用いた場合、0.10と大幅に減少している。
  • 鳩野 美佐子, 芳村 圭, 沖 大幹
    セッションID: 26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    現在、洪水による損害は自然災害の中でも非常に深刻になっている。洪水が発生する可能性、引き起こしうる被害の推定には様々な手法が用いられているが、中でも社会的性質の統計データを不足している情報の代替指標として補っているものが多くある。これは詳細な数値標高モデルや河川モデルがないことに起因している。よって、本研究ではモデルのみを用いて洪水リスクの実時間算定を行うこととした。
    陸面水文過程を実時間で算定するシステムであるToday’s Earthに河川氾濫モデルCaMa-Floodを導入することにより上記の目的を実現することとした。CaMa-Floodを導入することにより、従来の河川モデルではできなかった氾濫原の物理的表現や高解像化が可能となった。現段階では1日2回84時間先までの予測が行われ、氾濫面積割合・河川流量・影響人口が主な成果物となっている。氾濫面積割合とは集水面積に対する氾濫面積の割合のことである。
    影響人口は氾濫面積を用いて算定された。平年値からの差とグリッド毎の人口データを掛け合わせたものを影響人口とした。これらを観測値と比較することにより空振りなど精度に課題は残るものの、概ね洪水を検知することができていることが分かった。影響人口に関しては過大評価が顕著であったため、国単位の過去の被害データを用いてバイアス補正を行い、過大評価の緩和を図った。
    さらに、本研究を用いて2013年1月に起こった洪水の検知精度を確かめたところ、2.5日前には洪水が起こる傾向を見ることができ、さらなる精度向上により洪水の短期予測・警報に役立つと考えられる。
  • 平林 由希子, マヘンドラン ルーババンナン, コイララ スジャン, 木島 梨沙子, 金 炯俊, 渡部 哲史, 山崎 大, 鼎 信次郎
    セッションID: 27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    気候変動により全球における洪水リスクは増加する ことが懸念されているが、将来の洪水災害リスクは地域ごとに増減傾向が異なるため、その空間分布と時系列変化を適切に評価する必要がある。本研究では、陸面モデルと全球洪水氾濫モデルによる過去再現実験を用いて洪水の確率年数に対する洪水氾濫面積と洪水暴露人口のルックアップテーブルを作成し、バイアス の大きい気候モデルで算定される河川流量からも、洪水暴露人口を算定することができる手法を提案した。20世紀の最後の30年は、平均の年洪水暴露人口は世界人口の0.1%にあたる600万人程度であった。これに対し、21世紀の最後の30年には将来の温暖化シナリオの程度に応じて、3倍から13倍にあたる0.2-0.8億人(世界人口の0.4-1.2%)になることが判明した。また、陸上の世界平均気温が1度昇温すると洪水暴露人口は0.2億人となり、2度で0.3億人、4度では0.6億人となる。洪水暴露人口は年々変動が大きく、同じ世界気温に対するばらつきも大きいことから、気温変化や洪水リスクの増加が顕著になる前に、適切なリスク対策をする必要があることが示唆される。
  • 北側 有輝, 城戸 由能, 中北 英一
    セッションID: 28
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
     近年,集中豪雨等の極端な気象現象に伴う水災害が多発し,地球規模気候変動による水災害の巨大化や頻発化が懸念されているが,地下水環境への影響評価についての検討事例は国内外を通しても少ないのが現状である.本研究では,今後の適正な地下水利用と持続可能な水資源の確保を目的として,揚水量や涵養量を含む流動特性と水質特性を評価できるモデルと全球気候モデル(GCM)の出力降水を用いて,気候変動が地下水環境へ及ぼす影響評価手法について検討している.
     古来より地下水を利用してきた京都盆地を対象地域とし,連続式とDarcy則を基にした飽和平面二次元地下水流動モデルと移流分散式を基礎とした水質モデルを活用し,気象庁気象研究所で開発された超高解像度全球大気モデル(AGCM20)の後期ラン(MRI-AGCM3.2s)における現在気候および近未来気候実験の降水データを用いて地下水位および水質をシミュレーションした.全球気候モデルの空間的再現精度を考慮し,対象領域周辺メッシュの降水量データを入力することにより得た複数の出力結果から,疑似的なアンサンブル予測を行うことにより,地下水環境への影響を不確実性を考慮した確率的情報として表現した.
     影響評価手法として,空間的・時間的の2つの観点から統計確率的に表現する手法を検討した.空間的評価手法では全評価対象領域内における期間平均値が一定値以上の水位低下や水質悪化が現れる面積割合,また時間的評価手法では評価対象領域内において一定値以上の水位低下が発生する時間が全解析時間に占める割合をそれぞれ算出して,気候変動による地下水環境への影響を定量評価した.また,アンサンブルメンバーのうち降雪地域を含み降雨特性が大きく異なるメッシュを除いてアンサンブル出力の分散を小さくすることを試みた.空間的評価の結果,超過空間面積率10%となる水位低下は-0.60mであり,年間平均で1.0m以上の水位低下を及ぼす空間は評価空間全体の約3%程度となった.また,時間的評価ではアンサンブル平均を用いた時間的評価により近未来気候の20%超過時間確率は現在気候に比べて-1.7 mの水位低下が拡大する結果となった.しかし,時間的評価手法における分布関数近似が十分でなく,改善の余地がある.
  • 工藤 亮治, 増本 隆夫, 堀川 直紀, 吉田 武郎, 皆川 裕樹, 名和 規夫
    セッションID: 29
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水資源に対する気候変動の影響は広範囲にわたり,その特徴も地域ごとに異なることが予想される.一方で,同じ地域内でも河川の開発度,社会・経済活動の違いにより水資源が受ける影響は異なる場合がある.本研究では,気候変動による自然条件の変化が最大の利水者である水田灌漑に与える影響のマクロ的評価を目標とし,日本の全河川流域の水田水利システムを導入した水循環モデルの構築と気候変動影響評価事例を紹介する.
  • 吉弘 昌史
    セッションID: 30
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年、世界的な人口増加に伴って食糧需要量は増加し続けており、今後さらなる食糧増産が必要であると予測されている。FAOによると、世界の水消費の70%近くが農業用水であると言われており、気候変動による水資源の変化がもたらす食糧生産への影響評価は、今後の水資源と社会との関係を考えていく上で必要不可欠である。その評価を行う上で、例えば、数種類の圃場への数種類の作物の作付け組み合わせを変化させて気候変動時の致命的なリスクを回避するような組み合わせ最適化問題や、灌漑ルールを最適化することにより農業用水使用量あたりの収量の最大化を目的とする問題等を考えると、こういった組み合わせ最適化問題を網羅的な探索法で解を探索するのは難しいため、発見的探索法を用いる必要がある。 そこで、本研究では作物成長シミュレーションと最適化アルゴリズムを組み合わせたハイブリッドモデルで組み合わせ最適化問題に対する発見的解探索手法を検討し、求解方法やその効率を評価する。
【水資源・水環境政策】9月26日(木)11:30~12:30
  • 平野 淳平, 大楽 浩司
    セッションID: 31
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水害被害額と年超過確率の関係を表す水害リスクカーブにもとづいて東京都市圏における都県毎の内水氾濫による水害リスクを定量的に評価し、その地域性をもたらす要因について考察した。リスクカーブの分析結果から概ね資産価値が大きな都県でリスクが大きい傾向が明らかになった。一方、水害に対する脆弱性が高い地域に多くの資産が集中する県では、結果として県全体では大きな被害が生じやすくなっていることが明らかになった。
  • Bhattarai Rajan
    セッションID: 32
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    The assessment of flood risk is always important not only to the researcher but also to the policy makers. Due to the increase of the property concentration in the cities makes them more vulnerable to the inundation damage. But the low populated regions seems to have higher damage per capita. This shows the robustness of the cities to the disaster. Moreover, we assess that the heavy rainfall event is not only responsible to damage. Our macro level statistical approach gives the probability of damage to every daily rainfall event and thereby calculating the annual damage as a function of population density and GDP. Our result for Japan shows a reasonable for average annual damage for a period. The developed vulnerability function and the damage function for the inundation damage makes this method more flexible to use for future scenarios and expand to the global analysis.
  • 中川 直子, 河村 明, 天口 英雄, 湯浅 信平
    セッションID: 33
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,神田川上流域を対象として,通常時および地震降雨複合災害時における氾濫浸水解析を行うと共に,ノロウイルスおよびコレラ菌の定量的な感染リスク評価を行った.感染リスクの空間分布を示し,マップ化により感染リスクの視覚化を試みた.その結果,地震降雨複合災害時には,通常時に比べ内水氾濫を起こす地域が多くそれに伴い病原感染リスクも上昇するという地域がある一方で,病源感染リスクが低くなる地域もあることがわかった.
  • 橋本 雅和, 末次 忠司, 市川 温, 西田 継, 砂田 憲吾, 近藤 尚己
    セッションID: 34
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    下痢症は肺炎に継ぐ5歳未満児の主要な死亡原因の1つであり,洪水氾濫などの外的な要因によってその被害が大きくなる.そこで,洪水氾濫モデルを用いた定量的な健康リスク評価手法に関する研究が進められているが,関係が複雑であり感染ルートの仮定が難しいという問題がある.感染の原因は浸水との接触機会に加え,浸水の汚染度,生活習慣などの社会的な要因が関係する.  これに対して筆者らはバングラデシュの首都ダッカを対象地域とし,衛生環境が比較的不良であるスラムにおいて,浸水に対して危険意識の低い5歳未満児を対象にし,浸水の物理的接触機会のみを指標に用いた健康リスク評価手法に主眼を置いて研究を行ってきた.  これまでの研究により,雨季の最中での影響度については明らかになっていたが,その影響度が雨季を通して全体で保たれるかどうかは明らかにされていなかった.よって,本研究では浸水との物理的接触機会が下痢罹患リスクに寄与する度合の季節変化を明らかにすることを目的として,ダッカにおいて氾濫解析を行い,2007年の雨季にMollahら(2009)によって雨季始,雨季中,雨季終の三度に渡って調査された健康調査結果との比較を行った.  結果より,雨季で罹患リスクが増える傾向が見られたが,致死リスクにも季節変動があるものの傾向は見られなかった.また,浸水の影響度については,罹患リスクで季節変動は小さかったが,致死リスクで大きく,雨季終の影響度は雨季始の2分の1以下になっていることがわかった.全体での罹患率,致死率が大きくなる季節で浸水の影響度が小さくなっていることから,健康被害が大きくなるに連れて,浸水以外の原因で被害を受ける人が多くなり,浸水の影響度が低くなる可能性が示された.
【研究グループ報告】9月26日(木)15:10~15:55
  • 大楽 浩司, 植田 宏昭, 上野 玄太, 高藪 出, 立川 康人, 田中 賢治, 仲江川 敏之, 中北 英一, 中山 恵介
    セッションID: G1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究グループは, 台風・豪雨などの極端事象の物理機構から水文・水資源分野の影響評価,高度統計数理手法を専門とする様々な研究者により構成され,既存の知見と最新の情報を共有し,防災・環境政策に役立つ高度気候情報の構築・利用のあり方について議論を行うことを目的とする.グループ活動は,気候シナリオ情報の水文・水資源分野への利用・応用における現状についてレビューし,今後の水文・水資源分野における不確実性の幅を含めた高度気候シナリオ情報(特にアンサンブル情報)の高度利活用のあり方について検討・議論した.各メンバーがそれぞれの研究内容や最新の研究の動向をまとめ,研究集会を開催し,今後の研究の方向性について議論した.会議後の活動はMLを利用して継続する予定である.
  • 峠 嘉哉
    セッションID: G2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水文学若手会は,分野の枠を超えた若手研究者間の関係を構築することを目的として2003年に結成され,今年度は水文・水資源学会研究グループ「水文学若手会~学際的な人的ネットワークの確立に向けて~」として活動を行った. 2012年9月には討論合宿を行った.この討論合宿は,若手メンバー間で議論する場を作りたいと言う意見が強くあったために2011 年3 月より始まったものである.修士から博士までの学生が中心だった若手会にとって研究内容に関する議論が難しいことから,開催目的を互いの考え方の共有や討論の練習と設定し,日頃研究を進める中での疑問や悩みについて議論を行っている.本討論合宿を通して,様々な背景を持ったメンバー全員が積極的に議論に参加し,簡単には答えが出ないようなテーマに対しても独創的な討論結果へと収束させ最終発表を行うことができた.そして何より,互いの考え方や人格に触れて合宿終了時には研究に対する高いモチベーションを参加者全員が持つことができた. 本グループは近年学位取得者や他分野からの参加者も増え始めているため,ようやく本来の目標である「分野の枠を超えた」研究の議論が可能になってきた.そこで,本年度は計2 回の勉強会を企画し,互いの研究内容の向上に努めた.第一回勉強会は研究発表の形で行われ,互いの研究に関する理解を深め合うことを目的に開催された.第二回勉強会は「水分野次世代研究探索ワークショップ~まずはI 型からT 型,Π型研究者を目指して~」として開催する予定で,自らの研究と他分野で行われている研究の融合可能性やそのための課題について議論することを通して,他分野の研究者とのネットワーク構築や,新しい研究テーマの発見を行うことを目的とする勉強会を企画した.  本グループは,学際的な人的ネットワークの構築を目的としているため,他分野の若手研究者との交流を深めた.「森林水文を考える若手研究者の会」に参加し,「工学から森林水文学への期待とは?分野統合への挑戦」という題目で話題提供を行った.加えて,他分野との連携を目指して積極的に様々な学会の若手研究者と交流を行った. 以上の活動に加えて,若手会でのweb ページの開設やコンテンツの充実を図る予定である.また,水水学会に併せて若手の懇親会やハイドロカップの開催,北海道において流氷観測や北見工業大学の実験施設の見学も行った.
  • 五名 美江, 篠原 慶規, 小田 智基, 山川 陽祐, 正岡 直也, 若原 妙子, 長谷川 規隆, 鶴田 健二, 平岡 真合乃, 飯田 真一
    セッションID: G3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水文・水資源学は物理的・化学的・生物学的・社会学的側面を持つ学際的な学問であり、それぞれの分野においても、さらに細分化が進んでいる。一方で、森林と水循環に関わる分野に対する社会的な期待は高まっており、この分野に関する研究を志す学生や若手研究者は、将来展望をもって分野内外の現実的な課題やその他の研究課題に取り組む必要があると考える。森林水文学および関連分野の将来を担う学生および若手研究者が研究発表および討論を行う場を提供し、若手間の交流を図るとともに、これからの森林水文学について考え、各自の将来の展望や進むべき方向性を見出すために必要な情報を共有することを目的とし、「第3回 森林水文学を考える若手研究者の会」を2012年12月2日に東京大学生態水文学研究所赤津宿泊施設において開催した。その活動報告を行う。
【流域水管理・開発】9月27日(金)9:00~10:45
  • 浅野 倫矢, 田中 賢治, 浜口 俊雄
    セッションID: 35
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
     現在世界には多くの大規模貯水池が存在しており,我々がこれらの放流量をいくつかの目的のもとで制御することで,河川の流況や流域の水資源管理に大きな影響を与えている. すなわち,現在及び将来の水資源量を評価し,流域スケールでの水資源計画を進める上では,これらの影響を正確に再現することが重要な課題となる.  本研究では,流出モデルの中で貯水池放流量を正確に表現できる操作モデルを構築することを目的とし,流入量時系列データを用いた偏差回帰式による貯水池モデルを提案し,いくつかの大規模貯水池を例としてその有効性を確認した.そして,回帰式の決定に用いる期間の取り方について考察を加え,今後の課題を示した.
  • 小川 厚次, 手計 太一, 呉 修一
    セッションID: 36
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    タイ国における大規模貯水池の新たな最適運用法の検討を目的とし,
    チャオルラヤー流域のプミポンダムとシリキットダム貯水池を対象として
    検討を行った. 
  • 嶋寺 光, 近藤 明, 勝 駿宇, 井上 義雄
    セッションID: 37
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,ダム放水制御およびダム内水質を予測する簡易ダムモデルを組み込んだ水文・水質モデルを開発した。また,その水文・水質モデルを2007年の淀川流域圏に適用し,モデルの再現性を評価した。河川流量については,淀川流域内の各河川において,計算期間を通じてピークの出現および平水時流量がモデルによって良好に再現された。一方,SS濃度については,濃度レベルおよび濃度変動がモデルによって良好に再現される場合もあるが,河川によってモデルによる濃度再現性は大きく異なった。したがって,現在の水質モデルによるSS濃度の再現性は十分とは言えず,モデル改善が必要である。
  • 五十嵐 剛, 藤原 賢也, 坂本 洋二, 宇野沢 剛, 土屋 十圀, 山田 正
    セッションID: 38
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年の地球温暖化対策やエネルギー政策の転換により,自然再生エネルギーへ注目が集まっている.山間地域では,砂防堰堤の落差を利用した小水力発電に期待が寄せられている.小水力発電の開発には,過去10年間の流量観測データが必要となるが,その条件が揃っている地点は稀である.安定した発電使用水量を決定する上で重要なことは,検討地点の流況図を作成する必要があることである.したがって,小水力発電の普及・進展には,過去10年間の流況を精度良く推定出来る流出モデルが必要である.また,小水力発電の適地検討においては,任意の砂防堰堤地点での流況をもとに比較検討できることが望ましい.本研究では,融雪,蒸発散量を考慮した分布型流出モデルを適用することにより,山間地域における任意の砂防堰堤地点での流況を精度良く推定し,安定した使用水量と発電ポテンシャルを算定することを目的とする.対象とする地域は,群馬県川場村を含む薄根川流域とする.本研究の結果,任意地点での過去10年の流況推定を可能とし,検証結果から精度のよい結果が得られたと考えている.従来,観測データが少なく小水力発電の申請が難しかった地域においても,本手法を適用することにより,過去の流況データと発電量を推定し,小水力発電施設の検討への足がかりとなることが期待される.また,分布型流出モデルを適用することにより,複数地点の発電ポテンシャルを同一条件で精度良く比較検討することが可能となった.これにより,小水力発電の候補地の検討をより合理的かつ根拠のあるものとすることができると期待している.
  • 呉 修一, ムハリ アブドル, 福谷 陽, ブリッカー ジェレミー, 有働 恵子, 真野 明
    セッションID: 39
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2013年1月15~18日にかけて,インドネシアの首都ジャカルタで熱帯モンスーンにともなう豪雨により洪水氾濫が生じた.この洪水により,40人以上の死者,41km2の地域の冠水,45,000人以上の避難者が生じた.ジャカルタでは,大規模な洪水が2002年,2007年にも発生しており,流域の都市化や地球温暖化に伴う豪雨の増加により,今後も洪水の規模や頻度が増加するものと懸念されている.ジャカルタ洪水は,地球温暖化,地盤沈下,上流域の都市化,都市排水能力の不足,土砂・ゴミの水路への堆積による洪水疎通能力の低下など様々な要因が複雑に絡みあい生じている.ジャカルタの洪水の発生メカニズムを解明するとともに,各種洪水対策を提案する事は非常に重要である.よって,著者らは,2月10日~14日にジャカルタで洪水調査および情報・データの収集を行った.本報告では,洪水調査結果より明らかとなったジャカルタ洪水の諸問題に関して報告する.
  • フジャナザロフ ティムール, 田中 賢治, Toderich Kristina
    セッションID: 40
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    Zeravshan River basin is the origin place of the ancient agricultural and urban civilization of Central Asia. It is transboundary river originating in Tajikistan mountains and flowing to the Uzbekistan. The climate is sharply continental, mostly arid and semi-arid in downstream. The river flow highly depended on the glacier-snow melt. Zeravshan river basin has no significant tributaries and water is mostly used for irrigation. Previously it was a part of the Aral Sea basin, however due to intensive irrigation use, nowadays it disappears in the Kyzyl kum desert sands. The Soviet development plan for the basin was focused on increasing yield production through extensive irrigation (Saiko and Zonn 2000). This plan caused irreversible damage in terms of water quality and ecosystem degradation and biodiversity. The water diversion for irrigation is almost equal to the total water flow of the river. Nowadays downstream oases are irrigated from the Amu Darya River supplied by Amu-Bukhara canal. This phenomenon is result of poor watershed management, water consumption increase for irrigation and misuse for leaching of the salt affected lands. Among Central Asian rivers Zeravshan River basin is one of the most profoundly affected by mismanagement of the water resources. Considering Central Asian is landlocked it is greatly vulnerable to the climate variability with scarcity of water, drought and temperature extremes above global average, study on remediation strategies and adaptation measures are important factor for the agriculture and economic growth in the region. This study is focused on the results of the water monitoring analyses and adaptation measures.
  • GILBUENA, Jr. Romeo, 河村 明, MEDINA Reynaldo, 天口 英雄, 中川 直子
    セッションID: 41
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    Sustainable development essentially involves the understanding and management of the relationship between humans and the environment. In recent years, the interest on sustainable flood risk management has grown due mostly to the developments in storm water management. In highly urbanized areas, structural measures are often used to alleviate floods, but can cause direct impacts to the ecological and socio-economic environments, which raises the question of whether the planned structural measures are environmentally sustainable within the sphere of sustainable flood risk management. This study explores a rational mathematical approach to evaluate the environmental sustainability of planned structural flood mitigation measures (SFMMs) in Metro Manila using a geocybernetics model coupled with an environmental impact assessment technique. Results show that the planned SFMMs are likely to be environmentally sustainable. However, the degree of sustainability is weak, which can be attributed to the highly urbanized conditions within the study area. 
【森林水文・農地水文】9月27日(金)10:55~12:40
  • 村上 茂樹
    セッションID: 42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    1.はじめに  樹冠遮断による蒸発(I)は雨量(R)の大小に関わらず平均でRの約2割となることが知られており、そのほとんどは降雨中の蒸発が占めているが、そのメカニズムは解明されていない。本研究では、林分構造の変更が容易な模擬木(プラスチック製クリスマスツリー)の林分で水収支的にIを測定し、1)どの程度のIが観測されるか、2)樹高と林分密度の変化とI関係、3)時間分解能を高くして解析した場合にRとIの間に比例関係が成立するかどうか、について検討した。
    2.方法 屋外に集水面積177.6cm×177.6cmの2つのトレイ(トレイ1、トレイ2)を設置した。これとは別に集水面積360cm×360cmのライシメーターを設置してトレイ3とした。これら3つのトレイに模擬木を並べてIを測定した。Run 1では、トレイ1に樹高(樹冠最大直径)65cm(30cm)の模擬木を、トレイ2にトレイ1の模擬木の樹高を90cmにしたものを、トレイ3に150cm(75cm)の模擬木をそれぞれ設置した。Run  2 ではトレイ2とトレイ3の樹高を高くして実験し、樹高がIに及ぼす影響を検討した。Run 3ではトレイ2とトレイ3において間伐を行って林分密度を減らし、林分密度がIに及ぼす影響について検討した。トレイ1は基準トレイである。降雨はすべて自然降雨で、一降雨の区切り時間は6時間である。Run 3で最大の83.5mmを観測した降雨イベントについては、別途降雨区切り時間を20分として解析を行った。
    3.結果と考察  トレイ1は基準トレイであり、樹冠遮断率(I/R)が12.1%~13.3%とほとんど変化しなかった。Run 1とRun 2を比較すると、Run 2で樹高を増加させたことによりトレイ2と3でI/Rがそれぞれ16.5%から19.7%、14.4%から20.0%へと増加した。Run 2とRun 3を比較すると、Run 3で間伐を行ったことによりトレイ2ではI/Rが19.7%から22.8%へと増加、トレイ3では20.0%から13.8%へと減少した。Run 3で最大の雨量83.5mmを観測した降雨イベントについて、降雨区切り時間を20分として時間分解能を高くして解析してもRとIの間に比例関係が成り立つことが分かった。これは降雨中に蒸発が起きていることを示している。
  • 南光 一樹
    セッションID: 43
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    日本のヒノキ人工林における林内雨の運動エネルギー研究の7つの計測例をまとめ,林内雨の運動エネルギーを雨量1mm当たりに正規化した運動エネルギーに対する樹高・生枝下高・樹冠長の影響を評価した。運動エネルギーは樹高・生枝下高と正の相関を持ち,樹冠長と負の相関が確認された.雨滴の落下高の上昇に伴う滴下雨滴速度の上昇と,樹冠長の増大による滴下雨滴の飛沫化機会の増加の影響が表れていると考えられた。
  • 鶴田 健二, 小松 光, 久米 朋宣, 篠原 慶規, 大槻 恭一
    セッションID: 44
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    森林管理は林分構造を変化させ,蒸散量ひいては流出量に影響を及ぼす.水資源に配慮した森林管理を行うためには,林分構造と蒸散量の関係を知っておく必要がある.そこで本研究では,日本の主要な人工林樹種であるヒノキを対象とし,林分構造の変化が蒸散量に及ぼす影響を定量化する方法を確立することを目的とした.様々な林分構造を持つヒノキ人工林において樹液流計測を実施し,DBHから単木蒸散量を試験プロット横断的に推定可能であることを示した.これは,DBHと単木蒸散量の関係が試験プロットによらず一定であったためである.この単木蒸散量の推定法に加え,林分収穫表の林分構造データを併せて用いることで,ヒノキ人工林における林分構造の変化が林分蒸散量に及ぼす影響を定量化することが可能となった.
  • 勝山 正則, 齋藤 有, 小杉 賢一朗, 正岡 直也, 堤 大三, 宮田 秀介, 舘野 隆之輔, 福島 慶太郎, 中野 孝教, 谷 誠
    セッションID: 45
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    森林流域における水循環・水収支において、基岩内を含む地下水の挙動の重要性が指摘されている。この地下水の挙動は、水量や水質に大きな影響を与えるとともに、斜面崩壊などの自然災害とも密接に関わり、その実体解明が強く望まれる。しかし、直接的にこれを把握することは技術面やコスト面からも容易ではなく、トレーサー適用による水移動経路の推定が有効である。本研究では、地下水流動のトレーサーとしてストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)の有効性を検証するとともに、渓流流下過程において源頭部で基岩へ浸透した地下水がどのように寄与するかを明らかにする。観測は滋賀県南部の桐生水文試験地、岐阜県高山市京都大学穂高砂防観測所ヒル谷流域、および北海道東部の京都大学北海道研究林標茶区にて行った。各流域で、源頭部の湧水地点から河道流下過程で採水し、同位体比変化を調べた。また桐生試験地では源頭部流域で地下水の採水も行った。均質な花崗岩からなる桐生試験地の地下水を見ると、土層内では深部ほど87Sr/86Srが高くなった。渓流水では上流に位置する支流ほど値が低く、下流ほど高くなり、流域末端の渓流水の値は土層最深部の地下水の値とほぼ一致した。その後の流下過程では値の変動が見られなくなった。このことは透水層内に存在する地下水が全て流出に寄与することを示している。Sr同位体比は河川流下過程における地下水の寄与を示す指標となり、流量に対するREA (Representative Elementary Area; Woods et al., 1995)を容易に判断できる可能性がある。火山灰土が厚く堆積する北海道研究林では87Sr/86Srの変動幅が小さかった。この流域は河道の勾配が緩く、また渓畔は湿原が広がるため、比較的均質な地下水帯が土層内に広がっていることを反映していると考えられる。一方ヒル谷流域では値の変動幅が3流域で最大であった。源頭部では支流と本流とで地質が異なることを反映し、値が大きく異なった。合流後の流下過程では流域末端に近づくにつれて側壁斜面からの湧水が増加するとともに値が上昇した。これは流域界を越えた地下水の影響が強いことを示している。渓流水流下過程のストロンチウム同位体比をトレーサーに適用したところ、地質特性や地下水流動特性を強く反映し、各流域の集水構造の違いが示された。
  • 小俣 哲平, 木内 豪
    セッションID: 46
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震に起因する福島第一原子力発電所の爆発事故により飛散した放射性セシウム(主に137Cs)は半減期30年と長いため、長期的な環境中での挙動を予測することにより、地域の安全や生態系への影響評価に役立てる必要がある。放射性セシウムは細かい粘土粒子に吸着するという特性がある。そこで、上記の特性を考慮しながら、土砂流出に伴う水循環内の放射性セシウムの移行を、分布物理型水循環モデルであるWEPモデルに新たに土砂の輸送モデルとそれに伴う放射性セシウムの輸送モデルの2つを加えることで、新たなモデルを構築し移行の再現計算を試みた。土砂の輸送には濃度の移流方程式と雨滴の衝撃による剥離、表面流の掃流力による地表面からの浸食を考慮して表現し、放射性セシウムの輸送も同様に、濃度の移流方程式と土砂生産に伴う放射性セシウムを考慮して表現した。モデルは、福島県内を北上し太平洋へと流れ込む一級河川である阿武隈川の支川・移川の上流域に位置する口太川流域を対象に適用した。モデルによる計算結果は、口太川下流における流量および土砂量は概ね良好に再現でき、観測データとも一致した。しかし、放射性セシウム濃度の結果は、計算初期が過小評価になってしまった。モデルの改善には放射性セシウムが有機物に付着して流れる部分があることや吸着する粘土粒子の粒径分布などを考慮していく必要がある。
  • 飯田 俊彰, 久保 成隆, 溝口 勝, 西村 拓, 登尾 浩助
    セッションID: 47
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/01
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    東日本大震災時の原子力発電所の被災後,降下した放射性物質による強い放射線のため,多くの人が避難生活を強いられている.空間放射線量を低減させて一刻も早く帰宅できる環境を再生することが,強く望まれている.被災地の居住域周辺には基本的に水田が広がっているが,水田に湛水すると広い範囲の地表面が湛水に覆われるため,水による放射線の遮蔽効果が得られると考えられる.しかし,湛水が水田周辺への空間放射線量へ及ぼす影響について,定量的に明らかにした研究例はこれまでに無い.そこで,本研究では,被災地の現場水田における現地実験とモデル計算により,水田湛水による土壌からの放射線量低減効果の定量的な検討を行った.福島第一原子力発電所から約44.6キロの福島県相馬郡飯舘村佐須に実験圃場を設け,2012年秋に約1ヶ月間かけて,水田へ給水して湛水深約20㎝を維持し,その後排水する過程で,放射線量と湛水深の変化を測定した.短辺約30m,長辺約75mの長方形水田区画の長辺の中点と3つの頂点の計4箇所で地上高さ1mにガイガーミュラー計数管を設置し,放射線量を1時間ごとに測定した.一方,土壌,水,空気の三層の遮蔽体による1次γ線減衰式を用いて,ある高さの空中の測定点における放射線量を計算するモデルを作成した.現地実験では,実験開始時の放射線量は測定点によって異なっていた.湛水深が増加すると各測定点で放射線量が減少し,湛水深をほぼ20㎝に保った間の放射線量の変動は各測定点とも小さかった.湛水深が減少すると,各測定点の放射線量は増加したが,湛水深がゼロになっても実験開始時の放射線量までは戻らなかった.これらにより,湛水による放射線量低減効果が確認できた.モデル計算による検討と併せて,水田土壌内の放射線物質濃度がばらついている可能性があること,散乱放射線が放射線量の影響範囲を広くしている可能性があることが考えられた.今後,自然崩壊を考慮してモデル化を行う,もしくは現地実験データを補正する必要性が指摘された.
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