水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2016年度研究発表会
セッションID: P65
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【農地水文】
米収量分布の詳細化に向けた天水田水循環に基づく作物生産モデル
*田中 健二吉田 貢士前田 滋哉黒田 久雄
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抄録

本研究が対象とするメコン川流域は,天水田稲作により発展してきた地域である.しかし近年では気候変動により米生産量の低下と急激な人口増加により需要量の増大が予測され,食糧自給バランスの不安定化が懸念されている.米生産量に関する全球・大陸スケールを対象とした研究は多く行われているが,生産潜在量を評価したものが主であり,農業水利用に関して現地の営農体系を反映していない点に課題がある.一方で圃場群スケールでの解析では,地下水条件が根圏水収支に影響を及ぼすなど,天水田地域特有の水循環の存在が指摘されている.先行研究では収量分布の解像度が入力データの解像度に依存することが課題として挙げられた.そこで本研究では米収量分布の詳細化に向け,農地の水文環境に大きく影響を与える地形データを活用することで天水田地域特有の水循環を再現することを目的とする. 本研究で構築したモデルは水循環モデルと作物生産モデルを結合したものである.水循環モデルは完全分布型TOPMODELを用い,地形的な差から生じる水文環境の違いを表現可能なモデルである.作物生産モデルは収穫面積モデルとしてFAO33,作物生長モデルとしてMonteith型の炭素同化モデルを用い,2つのサブモデルで構成されている. 本研究では天水田地域特有の水循環を下方浸透水量を計算する際の浸透補正係数Kperiにより表現した.浸透補正係数Kperiは地下水位が基準となる高さ(変位点)に達した際に小さくなり,変位点から地上面で変動する際に下方浸透が抑制される構造である.この地表面からの地下水位にTOPMODELの浅層地下水位に相当する項が用いられる. モデルの推定結果は統計値の単収の1.50t/ha程度の値で得られ,経年変化を良好に再現した.モデルの再現性を,RMSEを用いて評価すると,一部の県を除き0.20t/ha程度であり,十分な精度で推定できたといえる.単収の空間分布図を比較すると,先行研究の解析結果は55kmから110kmの範囲で同じ値が出力されるが,本研究の解析結果は細かい空間スケール(10km)で表現している.モデルから詳細な米収量分布を得ることにより,自給バランスを地域スケールで評価することが可能である.

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© 2016 水文・水資源学会
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