水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2016年度研究発表会
選択された号の論文の144件中1~50を表示しています
Ⅰ.口頭発表
【気候変動・地球環境(1)】9月15日(木)9:30~11:00
  • 庄 建治朗, 荒神 勇太, 佐野 雅規, 中塚 武
    セッションID: 1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    過去の古気候研究により江戸時代の中でも気候の特異性が指摘されている享保期(1716-1735年)前後の時期について、年輪酸素同位体比の年層内変動を測定し、梅雨季を中心とする季節についての気候状況を検討した。滋賀県太神山産のヒノキ2個体を用い、1704-1757年と1968-1994年の期間について、年層を12分割(幅の狭い年輪では6又は2分割、特に広い年輪では24分割)してセルロース酸素同位体比を測定し、近年部分について相対湿度の観測データと比較した。その結果、試料木の成長期はほぼ5月から10月であり、7月下旬頃に年輪幅のほぼ半分まで形成されていることが分かった。また、年輪の前半部(早材側)についての酸素同位体比平均値の経年変動は、5月1日から7月20日の平均相対湿度の変動と非常に良く対応しており、1720-1730年頃に酸素同位体比の変動が他の時期より激しい期間があることが見出された。この時期には、数年に1回程度の頻度で非常に乾燥した梅雨季が出現していたと考えられる。
  • 井芹 慶彦, 北村 颯生, 岩﨑 明希人, 鼎 信次郎
    セッションID: 2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    従来の研究では,熱帯低気圧による全球的な経済損失の推計は決定論的なモデル式を用いて行われている.その一方で,熱帯低気圧による被害が生じるプロセスには,ある程度の確率的な要因が含まれている.更に,強度の変化による不連続的な被害の増大や地理的な要因も被害推計の際に考慮する必要があると考えられる.そこで本研究では,熱帯低気圧による経済損失の確率分布を推計するためのベイズ型回帰モデルを全球規模で構築した.これにより,先行研究では考慮されなかった,熱帯低気圧被害の確率的な変動幅が表現された.また,熱帯低気圧の強度別,地域別のパラメータを持った階層ベイズモデルを構築する事で,熱帯低気圧被害の確率分布の予測精度が向上した.
  • 大楽 浩司, 上野 玄太, 石﨑 紀子
    セッションID: 3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    異常気象に伴う風水害の頻度や規模など気候変動リスクについて評価・分析を実施するための基盤的情報を創出することが急務となっている.増加する気候シナリオアンサンブル実験の不確実性を確率的に評価・表現することが可能な評価手法の開発が必要である.本研究は,多数の気候モデルによるシナリオ実験の信頼性を確率的に定量化する手法を開発し,基盤的な確率的気候ハザード情報の創出を行うことを目的とする. 本研究では, 気候シナリオアンサンブル実験の信頼性を定量化するために,確率分布を推定する手法(回帰モデル)を検討・開発し,確率分布の推定を行った.本研究の手法は,モデル誤差や観測誤差を予め設定する必要がなく,エミュレータ等の構築が不要で,他地域・他物理量への適用や空間詳細化への応用が容易である.CMIP3の21モデルを用いて東アジア域にこの手法を適用した結果、タイやベトナム,パプアニューギニアなど一部地域を除きほとんどの地域で,20世紀末から21世紀末にかけて月平均気温が2℃以上上昇する確率が70-80%であった.夏期より冬期の方が2℃以上上昇する確率が高い.一方,月平均気温が4℃以上上昇する確率は,熱帯地域ではほぼ10%以下であった.中緯度地域では,30-60%であり,冬期には60-70%の確率を示す地域が広がっていた.
  • 仲江川 敏之, 日比野 研志, 高薮 出
    セッションID: 4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    本研究では、現在気候観測値と大気気候モデルによるアンサンブル実験結果を用いて、ノンパラメトリックな方法で、オーストラリア主要都市を対象に、今世紀末における気候を、現在気候の条件の中から最適なアナログ地を探索した。17都市のうち、10都市の将来気候に類似した気候を持つ場所は、オーストラリア大陸内に同定されたが、それ以外は大陸外に同定された。本手法では、気温の将来変化が、アナログ地同定に大きく寄与していた。これらの結果は、温暖化対策をする際に、有用な情報を提供することが期待される。
  • 花崎 直太, 吉川 沙耶花, 鼎 信次郎
    セッションID: 5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    全球水資源モデルH08は世界の水資源と水利用を高い時空間解像度でシミュレートすることができ、温暖化影響評価や水のフットプリント推定などに利用されてきた。より現実的に世界の水利用を表現するため、取水に関するモデルの大幅な拡張を行い、2000年頃の世界の水資源と水利用の再現を行った。
  • PAVETTI INFANZON Alicia, TANAKA Kenji, TANAKA Shigenobu
    セッションID: 6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    Regional atmospheric models coupled with land surface models are capable to characterize more precisely the land-atmosphere interactions and feedbacks. The role of land surface conditions on the land surface-atmosphere interactions, and their relations to the water and energy cycles can be of considerable importance for characterizing the behaviour of regional weather. Paraguay, a landlocked country in South America has suffered dramatic forest cover losses as a consequence of the expansion of the agricultural frontier, resulting in a fragmented landscape with highly altered surface conditions that could hinder the effectiveness of climate models to accurately simulate precipitation and temperature in the region. Thus, This study has the main objective of comparing simulated precipitation and temperature obtained with the CReSiBUC model in order to find the most suitable model settings that would lead to an improvement of the simulated precipitation and temperature over Paraguay.
【気候変動・地球環境(2)】9月15日(木)11:10~12:40
  • ウ インシン
    セッションID: 7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    In this study, we assess environmental impact of debris flow hazards in Imgi Mine, located at northern part of Busan Metropolitan City in South Korea and very close to water supply plant of Busan. From field surveys in the last decade, surface erosion has become more and more severely, and have transported a great volume of sediments in and contaminated the mountain stream. Besides, during 1973-2005, annual precipitation in Busan area had a significant positively-increasing trend. Presumably, under the geological and climatological conditions, Imgi Mine is prone to happen large volume of mass movements, which may seriously threat human life and property as well as clear source of water supply. Therefore, to assess the possible future hazards, we conducted numerical simulation of debris flow to analyze the possible affected area and environmental influence at Imgi Mine under different scenarios, which include present and extreme conditions. 
  • 松井 佑介, 田中 茂信, 田中 賢治, 浜口 俊雄
    セッションID: 8
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    日本の山岳域において,積雪は「天然のダム」と言われているように,春先の融雪水は貴重な水資源となっており,特に灌漑用水の重要な供給源となっている.温暖化等の気候変動に伴う降雪,積雪量の減少や融雪時期の早期化は,下流域の農業用水の利用に大きな影響を及ぼす可能性がある.そのため,積雪水資源量の空間・時間分布の将来評価が必要とされている.
    気候変動リスク情報創生プログラムで提供されている気候モデルには,60km,20km,5kmといった様々な解像度のモデルがある.多くのアンサンブル数を有する60kmGCM出力を有効活用し,水資源量の将来予測における不確実性の幅を定量化することが求められている.2015年に公開されたd4PDFは,多数のアンサンブル(最大100メンバ)を活用することで,気候変動による影響について確度の高い結論を導くことを可能とした.
    本研究では,創生プログラムで提供されるd4PDFを活用して,将来の積雪水量及びその不確実性を評価する方法について検討した. 
    最終的に得たいのは,細かな解像度で評価された年最大積雪水量及びその不確実性の情報である.以下の流れでアプローチする.
    ・d4PDFの60kmGCM出力値(冬期平均気温,冬期降水量)と20kmまたは5kmの標高データから,年最大積雪水量を推定できる方法を検討する.
    ・60kmアンサンブルメンバーから得る冬期平均気温,冬期降水量の頻度分布を活用し,年最大積雪水量の頻度分布に変換する方法を検討する.
      将来の積雪水量推定におけるd4PDFのアンサンブル情報の活用法を検討した.
    今後,さらなる検討を行い,将来における積雪水量の不確実性の幅を定量化する
  • 石﨑 紀子, 大楽 浩司, 上野 玄太
    セッションID: 9
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    本研究では、線形重回帰を用いた手法により複数の全球気候モデルの結果から日本域の確率的な気候シナリオ情報の推定を行った。確率モデルの検証には観測との平均二乗誤差の比較の他、クロスバリデーションを行った。
    CMIP5の月平均値の地上2m気温と降水量に適用したところ、昇温量は南部よりも北部、夏季よりも冬季の方が大きい結果となった。関東域における昇温量が4度を超える確率は、RCP4.5では約30%であるのに対し、RCP8.5では60%以上であった。冬季降水量は日本海沿岸で減少する推定結果となった。平均気温の上昇もあることから、積雪の減少やそれに伴う水資源の変化が懸念される。また、夏季降水量は、現在気候でも降水量の多い関東以西の太平洋側で降水増加が高い確率で予測された。より時間スケールの細かい降水量の確率情報の創出と合わせて、洪水リスクの評価が求められる。温暖化気候に適応するために、様々なリスク評価を行う上でこの確率モデルの活用が期待できる。
  • 森元 啓太朗, 中北 英一, 峠 嘉哉
    セッションID: 10
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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     近年我が国では豪雨災害が多発しており,温暖化の影響が指摘されている.都市域ではゲリラ豪雨による鉄砲水などの被害が報告されるが,温暖化に伴ってその発生頻度がどう変化するのかは明らかでない.本研究では,5km解像度の領域気候モデルRCM5の出力を用いて,近畿地方周辺における8月のゲリラ豪雨の生起頻度の将来変化推定を目的とし,降雨と大気場の双方の観点から基礎的な解析を行った.降雨の観点では,国交省XRAINによるレーダー降雨分布情報(250m解像度・1分ごと)からゲリラ豪雨の降水分布を平滑化することにより,RCM5出力の解像度(5km解像度・30分積算)で再現されるゲリラ豪雨の降水分布を把握した.これをもとにRCM5の降水分布から目視により,ゲリラ豪雨の発生頻度の将来変化の推定を行った.増加の有意性をT検定によって評価したところ,8月において10%の有意水準で,8月下旬において5%の有意水準で有意な増加がみられた.一方で大気場の観点では,「15JSTの近畿地方周辺におけるSSIのメッシュ値のxパーセンタイル値」をSSI1%ileと定義し,ゲリラ豪雨事例と晴れ事例についてヒストグラムを作成したところ,SSI1%ile=-1において変化がみられた.そこで,SSI1%ileが-1以下となる日を大気不安定日の条件に設定し,将来変化の推定を行った.T検定の結果,大気不安定日の日数は8月全体において5%の有意水準で,8月下旬において10%の有意水準で増加がみられた.以上の結果から,ゲリラ豪雨事例日数と大気不安定日の日数は,将来変化の傾向に関して対応がみられた.したがって8月下旬において,SSIの増加に伴ってゲリラ豪雨の生起頻度が増加する可能性が示された.今後は,雨域の大きさやライフタイムに着目して,RCM5の降雨分布からゲリラ豪雨に対応する対流性降雨の客観的な抽出を試みる.そのうえで,そういった降水セルの発生頻度の将来変化を推定していく予定である.
  • NAYAK Sridhara, DAIRAKU Koji, ISHIZAKI Noriko, TAKAYABU Izuru, SUZUKI- ...
    セッションID: 11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    Recent studies have argued that the extreme precipitation intensities are increasing in many regions across the globe due to atmospheric warming, which may cause the natural disasters such as floods, coastal erosion, landslides, water hazards etc. more frequently. In our study, we analyzed multi-model experiment results to investigate the individual model behavior as well as the model uncertainty in reproducing the extreme precipitations and their relationship with temperature. We found that the 90th and higher percentile precipitations are ~10mm/h over Japan and occurrence of short duration (up to 2 hours) rainfall is more compared to longer duration. Simulated relationship of extreme precipitations with temperature from ensemble experiments agrees well with the observation that a peak occurs around 19-22°C for all percentiles of extreme precipitation. Extreme precipitation intensities are projected to increase by 5 mm/d in a future climate for temperatures above 21°C.
  • 内海 信幸, Kim Hyungjun, 鼎 信次郎, 沖 大幹
    セッションID: 12
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    気候変動によって将来どのような気象システム(熱帯低気圧や温帯低気圧等)がその重要性を増すかを判断するためには、様々な気象システムに由来する降水の割合の変化を知ることが必要である。本研究では気象システムの客観検出手法を用いて第5期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP5)で提供される気候モデル出力から複数の気象システム(熱帯低気圧、温帯低気圧中心、前線、その他)を検出し、各気象システムに由来する降水の割合の将来変化(現在気候1980-1999年から将来気候2080-2099年までの変化)を定量化した。
    各気象システム由来の降水の割合が大きく変化する地域が主に亜熱帯を中心とする低緯度に見られた。また、そうした地域は現在気候において複数の気象システムの影響を強く受ける地域であるという共通点をもつことが分かった。降水がどのような気象システムによってもたらされているかは、その場所の気候的な特徴を決める一つの要因である。その意味で、今回確認されたような降水割合の変化が大きい地域は、気候変動により気候的な特徴が大きく変化する地域であると言える。
【降水・降雪】9月15日(木)13:50~15:05
  • MADAKUMBURA Gavin, WATANABE Satoshi, TANOUE Masahiro, HIRABAYASHI Yuki ...
    セッションID: 13
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    Indian Monsoon Rainfall (IMR) which impacts on a large number of people is significantly important in terms of prediction. Identification of attributing climate factors of Indian monsoon rainfall is extremely important to achieve this target. The inverse relationship between winter Eurasian snow cover and the subsequent IMR is a famous hypothesis which has been studied for over century in order to facilitate better prediction capabilities for the Asian monsoon rainfall. This study was conducted to investigate the above inverse relationship which affirms in Bamzai and Shukla (1999), and to extend the results for using extensive observational data. The present study further analyses the relation of IMR and winter Eurasian snow cover using a 100 ensemble of historical climate experiment, named 'database for Policy Decision making for Future climate change' (d4PDF). The study especially focuses the Western Eurasian winter snow cover (WESN) where a high correlation have been recorded.
  • 山口 弘誠, 高見 和弥, 中北 英一, 井上 実, 相馬 一義, 須﨑 純一
    セッションID: 14
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    積乱雲の発生する前の段階を着眼点とした都市気象LESモデルを用いた積雲シミュレーションを行った。鉛直シアで形成された渦管が都市によるサーマルによって持ち上げられ、正負ペアの渦管が鉛直方向へ伸びていく様子を計算することができた。
  • 佐藤 悠人, 中北 英一, 山口 弘誠
    セッションID: 15
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    2008年神戸市都賀川で豪雨による突然の出水により5名の方がなくなるという悲惨な事故が起こった.河川付近にいる人々をゲリラ豪雨から安全に避難させるため,わずか数分でも早いゲリラ豪雨の予測技術の確立,高精度化がより一層急務であると言える.中北らはゲリラ豪雨に発達するタマゴ内部に高い渦度が見られることを発見し,渦度がゲリラ豪雨の危険性予測に極めて有効な指標であることを示しゲリラ豪雨の予報システムを開発した.しかしなぜ高い渦度を持つ積乱雲が発達するかというメカニズムについては未だに明らかでない点が多く,メカニズムの解明が重要である.そこで本研究では渦度とタマゴ発生・発達の理論的背景を解明するために積乱雲初期の渦度分布構造を詳細に解析し,新たな知見を得ることを目的とした.中北らはゲリラ豪雨のタマゴが鉛直渦管構造を持っていることを発見し,これはスーパーセル発達過程初期に見られる渦管構造と類似していることを示した.これによりスーパーセル初期の渦管の発達を表現する流体力学の理論を用いて上昇流の位置を推定できると考えられる.そこで本研究では観測されたレーダー反射因子差ZDRを用いて上昇流の位置を推定し,理論から導かれる上昇流の位置と一致するか検証を行った.鉛直渦度方程式から上昇流の両脇で正負の渦度が形成されることがわかっており,上昇流がゲリラ豪雨の事例で確認できるかZDRを用いて検証した.融解層以上のZDRに注目したところ,HighZDR Columnが確認された.これにより本事例に上昇流が存在しているということがわかりHigh ZDR Columnの位置と理論から推定される上昇流の位置を比較したところ,上昇流と渦度が対応していると考られるという結果を得た.しかし下層に雨粒がなければ上昇流があってもHigh ZDR Columnが見られないこと,強い上昇流の位置を正確に知ることができないことからより詳細な上昇流解析を行うためには実際に鉛直風速を算出する必要がある.そこで清水らの手法を用いたTriple Doppler手法から鉛直風速を算出した.ペアーの渦管の間には周囲と比較しても強い上昇流が存在しており,ZDRによる上昇流部推定の結果と矛盾しないことがわかった.
  • 大宮 哲, 國分 徹哉, 松澤 勝, 山田 朋人
    セッションID: 16
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    XバンドMPレーダによって得られる高解像度データを用いた吹雪検知の可能性を探るため、レーダによる上空観測結果と地上観測結果の関係について解析した。
    本発表では、研究概要ならびに観測結果の一例について報告する。

  • 鈴木 賢士, 中川 勝広, 金子 有紀, 沖 理子, 中村 健治
    セッションID: 17
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    リモートセンシングによる降水量推定の精度向上のためには降水のフェーズ(固相,液相)の知見が重要である。また,降水雲内においては融解層内の微物理構造の理解のためには降水粒子の相変化(氷粒子,融解粒子,雨滴)や鉛直密度分布の知見もまた重要である。本研究では,降水粒子の液相と固相を映像として区別でき,さらにはそれらの重量も計測できる地上設置型降水粒子撮像・重量計測システム(G-PIMMS)による降水粒子の連続直接観測から,雨,雪にみぞれ状態を加えた雨雪+みぞれ判別の温度特性,および0℃付近でみられた降水の密度特性について報告する。 2014年11月26日および2015年3月4日は,気温変化に伴い融解層高度が上下しG-PIMMSが融解層内外を観測した。雨滴の存在比が50%であることは雨と雪(みぞれを含む)が半分ずつになること(つまり雨雪判別の閾値)を意味しているが,このときの湿球温度はおよそ0.9~2.1℃であり,降水の相変化は湿球温度の変化と明瞭な関係がみられた。また同時に,降水の密度ともよい関連性が示された。降水の密度と気温との関係は降水雲内の融解層付近の密度鉛直分布を意味しており,今回の観測からさらなるデータ収集によってより精度のよいプロファイルが決定できると,融解層(ブライトバンド)内の鉛直密度分布の知見,しいては降水量推定精度の向上に貢献できるものと考えている。
【リモートセンシング・技術開発】9月15日(木)15:15~16:00
  • 樋口 篤志, 広瀬 民志, 豊嶋 紘一, 牛尾 知雄, 妻鹿 友昭, 重 尚一, 山本 宗尚, 谷田貝 亜紀代
    セッションID: 18
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    GSMaPに代表される広域・高時間分解能の衛星推定降水プロダクトの精度向上のためには,複数の静止気象衛星群で網羅された高頻度観測の利活用が不可欠である.本研究では,ほぼ全ての静止気象衛星搭載センサにある赤外1チャンネル (IR1)および水蒸気チャンネル (WV)の組み合わせとTRMM/PR, GPM/DPRとの同期観測より降水確率(降水ポテンシャルマップ)を作製した.加えてひまわり8号の多チャンネル情報を活用したランダムフォレスト法による降水関連情報(降水域,層状性・対流性,及び降水強度)抽出に取り組んでいる.これら一連の研究は,GSMaP精度向上に資するのみならず,雨量計ベースの降水プロダクトの高時間分解能化,あるいは日界補正等に応用可能であると考える.
  • 広瀬 望, 阿川 遥哉, 吉田 和也
    セッションID: 19
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    本研究では,陸域放射率推定のための基礎的検討として,公開されている放射率データセットを用いて,日本域の放射率の変動特性を検討した.その結果,季節毎に大きく異なり,年変動があることがわかった.今後は,陸面過程モデルと放射率推定モデルを組み合わせて,放射率の推定を行い,その傾向を検討する予定である.
  • 佐々木 寛介, 河見 博文, 町田 駿一, 小島 啓美, 井上 実, 辻本 浩史, 渡辺 豊, 名取 悦郎, 平坂 直行
    セッションID: 20
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    近年,マルチコプターに代表されるドローン(UAV; 無人飛行体)が,災害地域における上空からの写真撮影や人が立ち入れないような橋梁部などの保守点検に活用される事例が急増している.本研究では,UAVを用いて上空の気温や風の観測を行うことを想定し,強風時の姿勢安定性の検証を実施した.また,風速とUAVの傾斜角の関係を整理し,姿勢データから風向風速を推定する手法について検討した.
    本研究から高層気象観測にUAVを活用するにあたり,1)最大風速が約15m/s以下の条件下で運用する必要がある 2)テレメトリー等でリアルタイムデータを送信する場合は木製ブレードの使用が望ましい 3)UAVの姿勢データからの風向風速推定の可能性などが明らかとなった. 
    今後はUAVの耐風性能については, 乱流強度依存性や気温依存性の把握, 風速とUAV傾斜角の関係についてはフィールド調査での実証などが必要であると考えられる.
【河川・湖沼・水質水文】9月16日(金)9:35~10:50
  • 公江 仁一, 嶋寺 光, 近藤 明
    セッションID: 21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    近年,琵琶湖の底層の溶存酸素濃度が低下していることが問題となっている.この底層の溶存酸素濃度の低下傾向の原因として考えられるのが,過去20年間の降水量の減少(約100mm),気温の上昇(約1~2℃),風速の減少(約5%)などの気候変動である.特に,気温の上昇や風速の減少は湖水の鉛直混合を弱め,底層の溶存酸素濃度が低下する原因となる可能性がある.水温の成層構造の季節変化を詳細にモデルで再現できれば,物質循環の変動も明らかにできる.
    本研究では,将来的に温暖化に伴う成層構造の変化がどの程度,貧酸素化に影響があるのかを明らかにしていくために,観測された水温鉛直分布を再現できるモデルを構築することで,湖内の水温成層構造の季節経年変化が再現できることを示している.3次元流動場モデルを構築することで,流動場,物質循環の挙動を時空間的に詳細に解析することができる.また,3次元モデルで,冬季の鉛直混合が再現でき,夏季における表層に存在する環流についても再現できた.
  • 井手 淳一郎, Cid-Andres Abigail P., 石田 卓也, 陀安 一郎, 奥田 昇
    セッションID: 22
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    近年,河川水のリン酸の流出起源を探る方法としてリン酸-酸素安定同位体比(δ18OP)を用いた解析手法が注目されている。本研究では土地利用構成と地質構成の異なる2つの河川流域間において河川水のδ18OPの値を比較・検討し,それらの特徴を明らかにすることを目的とした。
  • 久保田 富次郎, 申 文浩, 人見 忠良, 濵田 康治, 宮津 進
    セッションID: 23
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    2011年3月に発生した東日本大震災に起因する東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い放射性物質の拡散が生じた。地上に沈着した放射性物質は、水の動きを通じて移動することが考えられた。そこで、被災直後から、多くの大学や研究機関において、福島県を中心に拡散した放射性物質の水系における動態について精力的に調査、研究がなされているが、本報では、阿武隈川水系広瀬川における調査研究のうち、2012年から2013年の結果について紹介したい。
  • 河野 葵, 高見 京平, 近藤 明, 嶋寺 光
    セッションID: 24
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う津波によって全電源が損失し,福島第一原子力発電所(FDNPP)事故が引き起こされた。FDNPPから大気中に放出された大量の放射性核種は,大気拡散に伴って輸送され、湿性・乾性沈着によって広範囲へ降下したことが明らかとなっている。50年間積算実効線量について,放射性セシウム(134Cs, 137Cs)の線量が非常に大きいことが確認され,今後の被ばく量評価の際には,放射性セシウムに着目していく必要がある.放射性セシウム沈着量のモニタリング結果から,原子力発電所から80 km圏内を中心に多くの放射性セシウムが沈着したことが明らかとなり,土壌に沈着した137Csは,比表面積の大きな粘土やシルトなどの微細土壌粒子に偏在していることが明らかとなったため1),FDNPP事故後の放射性セシウムの環境動態プロセス全体を予測し,将来の健康影響を評価する上で,水循環に伴う侵食土壌粒子の挙動を推定する必要がある.  そこで,本研究では,流域が福島・宮城・山形3県にまたがる阿武隈川流域を対象として,降雨流出過程に伴う土壌粒子流出量を推定することができる水質モデルを用いて,2012年12月までの阿武隈川流域における放射性セシウム動態の再現を試みた.計算領域の格子解像度は3次メッシュとし、計算期間は,2011年から2012年の2年間とした。なお,放射性セシウム輸送解析については第2次航空機モニタリングの最終測定日である2011年5月26日から行った.  2011年5月26日から2012年12月までの浸食土壌粒子輸送に伴う放射性セシウム積算流出量は、78.4 TBqであると推定され、先行研究報告値と概ね一致したことから、本研究における水質モデルの妥当性が示された。今後の課題としては,将来における放射性セシウムの環境動態プロセス全体を予測し,将来の健康影響を評価するために,阿武隈川流域の過去における降水パターンから将来における降水シナリオを作成し,降雨流出過程に伴う放射性セシウム動態の現況再現から将来予測へと移行することとする.
  • 原田 茂樹
    セッションID: 25
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    丸森町の筆甫地区は宮城県の中で空間線量率が高い場所だが、特に筆甫地区の森林エッジでは国の除染目標を超える場所がある。森林エッジから下流の受水域への影響を知る、および、森林エッジ付近では人間活動があることから、空間線量率をモニタリングし、その変化の機構を解明し、除染計画の立案に役立てる必要がある。筆甫地区森林エッジの牧草地と樹林帯で形成される小流域における空間線量率と、その小流域からバイオマスが流出するとみられる渓流部でのバイオマス態セシウム濃度のそれぞれの継続的観測から、バイオマス態セシウムの動態が重要であり、それを左右する一つの因子として水文流出現象の重要性が示唆された。
【地下水・土壌水分移動】9月16日(金)11:00~12:15
  • 中川 啓, 天野 弘基, 高尾 雄二, 細野 高啓
    セッションID: 26
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    硝酸性窒素により汚染された地下水に対して効果的な対策を講ずるためには,その汚染源を推定する必要がある.汚染源として主要なものは,化学肥料,家畜排せつ物,生活排水などが考えられる.本研究では,それらの汚染源を推定する方法として,糞便汚染指標として用いられるコプロスタノール濃度を利用する方法を提案し,長崎県島原市における硝酸性窒素により汚染された地下水への適用したところ,その利用可能性が示唆された.
  • ブイ ティ ヌオン, 河村 明, 天口 英雄, ブイ ドゥ ズン, ツウオン ゴック トウ
    セッションID: 27
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    AHP法 (階層分析法)を利用してハノイの地下水資源の持続可能性を評価するために,本研究では,持続可能性目標に寄与する一連の主要な構成要素の枠組みを示した.本研究では特に3つの主要な持続可能性評価の基本理念の一つである社会的視点より,地下水持続可能性評価のためのフレームワークを示す.ハノイの地下水資源の持続性評価基準として,量,質,そして管理の3つ評価基準を定義する.そして,それぞれの評価基準における具体的な構成要素を抽出選択し,社会的持続性評価のための指標とした.これらの指標を用いてハノイの地下水資源の社会的持続性を量,質,管理の評価基準で数値化し,総合的な持続性評価のためのフレームワークを示した.の主な判定基準として定義される.それらは社会的持続可能性の枠組みにおいて最も高い水準となる構成要素であり,それぞれ最も低い水準の構成要素となる3~5つの中心的な指標を含むと考えられる.これらの中心的な指標と判定基準は,主に現地の地下水問題と社会的視点からの情勢を含んでおり,定義された枠組みはさらに進んだ地下水資源の持続可能性評価のための基礎手順であると言える.
  • 取出 伸夫, 松岡 健介
    セッションID: 28
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    土中の有機物分解過程において生成するNH4+やNO3-などの可溶成分は土中水と共に移動し,CO2などのガス成分は気相中を拡散する.生成されるCO2,NH4+やプロトン(H+)の放出を伴う硝化反応は土中水のpHを変化させるが,同時に変異荷電の発現・消失による土のpH緩衝能が働く.また,NH4+やNO3-の移動はイオン交換を伴う.本研究では,プロトン反応とイオン交換反応を考慮した窒素・炭素循環モデルと土のpH緩衝能として変異荷電モデルを用いた有機物分解モデルをPHREEQCによるモジュールとして表現し,HP1プログラムを用いて土中の水分・熱・溶質・ガス移動プログラムHYDRUS-1Dと結合した.そして,pH緩衝能の異なる土中の有機物分解に伴う窒素・炭素成分の移動とpH変化について検討した.
  • 坂井 勝, 岡橋 卓朗, 取出 伸夫
    セッションID: 29
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    畑地における土中水分移動のシミュレーションを行うためには,蒸発を地表面境界条件,蒸散にともなう根の吸水を吸い込み項として,それぞれ与える必要がある.ここで,気象条件で推定される可能蒸発散ETpを蒸散割合SCFを用いて,可能蒸発Epと可能蒸散Tpに分ける方法がある.植物が十分に繁茂した条件に対しSCF = 1を用いた研究例はあるが,生育過程のSCFの変化は明らかではない.また,蒸散速度の測定に基づいてSCFの変化を推定した例は少ない.そこで本研究では,土中水分変化に基づいて蒸散速度を求め,蒸散割合を推定することを目的とした.地表面にマルチを施したダイズ圃場の土中水分変化を測定し,水収支式から生育過程の蒸散速度Taを求めた.そして,土が湿潤条件下のTaTpとし,気象データに基づくETpとの比から蒸散割合Tp /ETpを推定した.さらに,蒸散割合とダイズの草高,LAI,地表面被覆率の関係から,簡易的な蒸散割合の推定方法を検討した.
    三重大学附属農場のダイズ畑で現場測定を行った.ロッド長30 cmのTDRセンサーを地表面と30 cm深から鉛直下向きに設置し0-30,30-60 cm深の平均水分量を測定した.フクユタカを6/1に播種し,6/22以降はマルチで地表面蒸発を防いだ.また,草高,根密度分布,LAI,被覆率といった生育データを定期的に測定した.被覆率は,上方5.4 mから圃場を撮影し,写真を画像解析することで求めた.得られた60cm深までの平均土中水分量変化を用いて水収支式から蒸散速度Taを求めた.測定した気象データとFAO推奨のPenman-Monteith式でETpを算出した.
    土が湿潤条件下のTaTpとすると,Tpはダイズ生長にともない増加してETpに近づいた.得られたTpETpの比Tp /ETpは播種以降増加し,8月後半には1に近づいた.値が大きくばらつくのは,ETpの計算値が放射の測定値に影響を受け大きく変動するためと考えられた .草高とTp /ETpの関係は2014年と2015年で異なり,生育の違いで葉の広がりが異なったためだと考えられる.被覆率とTp /ETpは,ばらつきは見られたがおおよそ一致した.LAIの測定と異なり被覆率の測定は,植物株の採取を必要とせず非破壊で行えることから,SCFを得るために有効であると考えられる.
  • 吉田 奈津妃, 沖 大幹
    セッションID: 30
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水文シミュレーションにおける不確実性の低減には、土壌水分分布や地下水位深さの初期状態を的確に与える必要がある。それに対して、初期化に要する計算時間を減らす試みがなされ、ハイブリッド法により初期化の時間を劇的に減らしうることが先行研究により示されている。これまで、土壌水分の平衡状態に達したかどうかの判断には年間の変化率が閾値以下である格子点が特定の割合以下である、といった判定基準が広く用いられてきた。しかし、そもそも土壌水分の平衡状態は気候条件によってどのように決まっているのだろうか。本研究では、地下水位の動的表現を組み込んだ陸面水文モデルMATSIRO(MAT-GW)を用いて、土壌水分の平衡状態や地下水位深さの分布について議論する。広く用いられている判断基準をもとに、MAT-GWにおける土壌水分が平衡に達するまで、スピンアップを行った。その結果、乾燥地域では、平衡に達するまでに1000回程度のスピンアップを要することがわかった。そこで、中国に関する土壌水分の年間の変化率を用いて関数化を行ったところ、平衡に達したとみなせる(1000回スピンアップした場合)土壌水分の年間の変化率と整合したことから、MAT-GWにおいてもある程度スピンアップの期間を減らしうることが確かめられた。次に、この平衡土壌水分に達した際の地下水位深さの空間分布とヒストグラムを調べると、ある特定の深さに分布のかたまりが見られた。Y.Fan et al.,2013による地下水位深さの分布と比較しても、分布のかたまりはMAT-GWに特徴的で、地下水位深さについても深くなりすぎている可能性がある。そこで、土壌タイプごとに地下水位深さの分布を調べると、特定の土壌タイプの地下水位深さのヒストグラムに同様な分布のかたまりが見られたことから、土壌タイプごとに与えている透水係数やマトリックポテンシャルなどの土壌パラメタに分布のかたまりが起因していることがわかった。また、湿潤地域では地下水位深さが平衡に達するまでにそれほど時間を要しないが、乾燥地域では長期間を要する一因として、乾燥地域では地下水涵養量が負であり、それに加えて常に微量の基底流出があることによって、地下水深さが下がり続けるということが挙げられる。今後、地下水涵養量の推定に用いられている透水係数の見直しや基底流出に限界値を定める必要があると考えられる。
【研究グループ報告】9月16日(金)15:55~16:35
  • 丸谷 靖幸, 田上 雅浩, 田中 智大
    セッションID: G1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水文水資源学若手会(以下若手会)は,主に水文・水資源学会に所属する博士課程学生・20代から30代の若手研究者を中心に構成されている研究グループである.本若手会の前身となるグループの活動は1990年頃から行われており,その時代に所属するメンバーの趣向に応じて活動が行われてきた.若手会は2009年から活動を開始しており,過去5 年間は,分野を超えたネットワークの構築を目指し,他分野交流を目的として活動を行ってきた.一方で,主目的が他分野交流に集中しており,交流後の連携を見据えていなかったため,互いの研究グループや学会への参加といった部分まで結びつけることが出来ていなかった.しかし,現在の我々若手会の多くの主要メンバーが学位を取得し,研究者として歩み始めたこともあり,研究者間での研究面での交流やコラボレーションに積極的な参加者が多く,最近では”水文・水資源研究”をキーワードとして研究に取り組む者が集まることで出来ることなどを模索しながら,活動を行っている.そのため,今後は,”水文・水資源研究”をキーワードとする現在未参加,未加入の研究者がより魅力を感じられる,次世代の水文水資源学を創設することが重要であると考えている.我々若手会は,水文・水資源研究をキーワードにして研究者が集まることで出来ることや得られること,また,それらの成果をより高めるための方策について検討することを目的とする.これらの背景,目的を踏まえ,本要旨では,本年度我々若手会の活動について報告する.
  • 五名 美江, 中村 晋一郎, 乃田 啓吾, 木村 匡臣, 渡部 哲史, 西原 是良
    セッションID: G2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究グループは、森林水文学、農業工学および河川工学分野の若手研究者による議論を重ね、中山間地域の水害に焦点を当て、分野の枠組みを越えた治水計画の在り方について検討することを目的とし設立された。本年度は農業経済学分野の若手研究者にメンバーに加わっていただいた。これまでの活動としては、2013年度に3回、2014年度に7回の勉強会および、2015年度に3回の現地調査を、2009年に大水害が発生した兵庫県佐用町を対象に実施した。第1回調査では、本研究グループの活動内容およびアンケート調査への協力を依頼するため、佐用町役場で定期的に開催されている地域リーダー会議に出席し、趣旨説明を行った。会議後、カウンターパートとなって下さる地域リーダー(大西氏)と出会い、幕山地区の地域づくり協議会の取り組みについて説明を受けた。翌日には、2009年に大水害の影響を強く受けた佐用地区(中心市街)および農家を再び訪ねて、現在の生活および水害後の変化についてヒアリングを実施した。第2回調査では、住民の生活満足度に関するアンケート配布を実施するとともに、カウンターパートの大西氏の案内で幕山地区における中山間地域としての課題について現地調査を実施した。分散分析の結果、地域内における生活満足度に対して、地域差や生活の変化による影響があることが確認された。生活の変化としては、特に職場環境・家族構成の変化の影響が確認できたが、自然災害による満足度との直接的な関係は本アンケート結果では見いだされなかった。職場・家族構成の変化は、地域経済の変化との連動によって引き起こされるものであり、その原因については、さらなる調査・分析が必要といえる。第3回調査では、地域リーダー・自治会長参加のもとワークショップを開催し、佐用町幕山地区における水文学・水資源に関する問題の抽出を行った。その結果、2009年水害以降、「水害」はインシティブな問題となったこと(集落ごとに温度差)、いずれも市民・行政・研究者の協働でしか解決できない問題が多々存在することが明らかになった。今後の展開としては、持続可能な地域の在り方に関する検討には、水害だけでなく水資源全般に関する中山間地域の実態を把握するために、例えば、水資源量とその伝統的水管理法の調査などの実施も視野に入れていく必要性を感じた。
  • 木村 匡臣, 安瀬地 一作, 五名 美江, 田中 智大, 中谷 加奈, 山崎 大, 吉岡 秀和
    セッションID: G3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水文・水資源学に関連するあらゆる学術分野において,河道や湖沼,水路内などに生じる地表水流れの計算を研究手法として利用する,あるいは数値解析法そのものを対象とする研究が数多く行われている.例えば,自由水面を有し,流れが1次元あるいは水平2次元の方向に卓越した地表流の非定常な動態に対しては,水位・流量の時空間的な変動を記述する浅水流方程式,またはその簡略化された微分方程式系が採用されることが多いが,その非線形性や計算の発散しやすさといった技術的な困難を克服するため,研究分野ごとに多様なアプローチがなされている.すなわち,計算の対象とする基礎方程式は同じでも,離散化や数値積分の手法は研究分野ごとに異なり,要求される精度や計算コスト,工夫や注意点も多岐にわたると考えられる.本研究グループは,地表流を対象とした数値解析手法に精通し,その開発や活用に携わる若手研究者,建設コンサルト業務経験者,学生等がさまざまな研究分野(河川工学,森林水文学,砂防工学,農業土木,グローバル水文学,環境水理学)から集まり,各分野で多く用いられる数値解析の技術,計算上の工夫,学術論文には載ることの無い失敗談などの貴重な情報をメンバー間で共有し,その内容に関する報文を学会誌へ投稿することや,新たな共同研究への糸口の探索を目指すものとして設立された.
    これまでに計2回の勉強会を開催し,各メンバーの研究内容の紹介および情報交換,各分野での地表流数値計算の技術開発の動向や最先端,常識とされている事項,未解決問題などの情報共有を行った.本研究グループの設立および活動により得られた大きな成果の一つは,異分野間の若手研究者の人的ネットワークの形成であろう.参画メンバーは,地表の水の流れまたはそれに付随して生じる物質輸送現象を対象とした数値解析に携わる点では共通しているものの,取り扱う現象の生じる場所や内容,スケールが大きく異なり,主に活動している学会もさまざまであるため,今回の勉強会の開催で初めて顔を合わせたメンバーも多かった.分野横断型の共同研究の糸口が見えてきたことも貴重な成果であるといえる.これまでの勉強会での議論を基に,各分野の地表流計算の数理モデルや数値解析技術の特徴,求められる要件,取り入れられている工夫や注意すべき点,研究の最前線や未解決問題などを俯瞰的にとりまとめ,学会誌への投稿を予定している.
  • 小野寺 真一, 開發 一郎, 林 武司, 近藤 昭彦, 中川 啓, 齋藤 光代, 清水 裕太, 白 佳卉
    セッションID: G4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2011年度に実施した本学会の「東日本大震災対応地下水調査研究グループ(代表;開發一郎)」による活動を母体として,多くの学会,組織との連携によって,多くの速報的な成果にともない貴重な提言がなされてきた.さらに,その後の5年間で,さまざまな調査研究が実施され,津波災害の地下水資源に対する影響についての成果が集積してきた.2016年4月14日以降相次いで発生した熊本地震では,幸いにして津波は発生しなかったものの,被災住民の水不足問題は記憶に新しく,上記の得られた学術的知見をはじめとする研究成果は東北被災地のためだけではなく,今後起こりうる南海トラフ,東海沖などでの巨大地震などに対する備えとしても普遍的に共有されるべきものである.本ワーキンググループでは,これらの成果を取りまとめるとともに,東日本大震災の被災地の一つであり,これまで調査を継続してきた岩手県釜石市において開催された公開ワークショップ(広島大学 大学院総合科学研究科 主催)をサポートし,アウトリーチに貢献することを目的とした.ここでは,本グループの2015年度における活動内容について報告する.
【水災害・流域水管理】9月17日(土)9:00~10:30
  • 岡地 寛季, 山田 朋人, 渡部 靖憲, 猿渡 亜由未, 大塚 淳一, 森 信人, 馬場 康之, 水谷 英朗, 久保 輝広, 二宮 順一, ...
    セッションID: 31
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    地球温暖化に伴う海面の上昇は,台風の頻度と強度,及び他の極端現象と関係を有する.既往研究は,海上に生じる飛沫が台風の発達に寄与することを示した.しかし飛沫の影響及び発生メカニズムは不明点があり,現在広く使用されている気象モデル及び天気予報には飛沫の影響は考慮されていない.そこで発表者らは飛沫の正確な観測データから解析を行い不明点を解明するべく,ピストン式造波装置付き水路を用いた風洞実験を行っている.しかし実験室スケールの実験は台風のスケールと異なるので,台風を直接観測したデータを利用して比較解析する必要がある.本研究は発表者らによる和歌山県近郊の田辺湾に設置した飛沫の粒径観測の結果をレポートするものである.今回の使用した観測機器パーシベルは本来雨滴観測用に用いられる観測機器であるが,観測粒径範囲が他の観測機器より比較的大きいため今回の観測に利用した.上記の発表者らの観測地では,2015年の台風イベント発生時において,1.5~5.510mm粒径の飛沫が観測された.発表時には,観測地に基づく強風下における飛沫と風速の関係を議論する.
  • 石塚 悠太, 芳村 圭
    セッションID: 32
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    洪水の数値予報は,数値モデルに予報値としての入力を与えることで未来の河川状態を推定する手法である.これによって,解析降雨や観測水位による予報と比べ飛躍的に長いリードタイムを持った洪水予報が可能となる.一方で数値モデルを用いた予報には入力値やモデルパラメタリゼーションに起因する不確実性が内在し,これを考慮するためにアンサンブルシミュレーションの必要性が示唆されている.
    そこで本研究では,降水入力値の不確実性を考慮した日本域アンサンブル洪水予測システムを構築し,実際の洪水イベントのハインドキャストを行う事で その性能を試験した.実際の洪水予報への適用を考えれば,空間解像度および時間解像度は可能な限り詳細な事が望ましい.今回構築したシステムでは空間解像度は0.05度,時間解像度は1時間とした.
    構築したシステムは3つの要素から成る.1つ目は数値気象予報データであり,これを後続のモデル群に与えることで水文過程を予測する.さらに,降水量に対する数値気象予報データとしてECMWFアンサンブルデータを用意し,これによって 降水入力値の不確実性を考慮した全51メンバーのアンサンブルシミュレーションを行った.2つ目は陸面物理過程モデルMATSIRO(高田ら, 2003; 新田ら, 2012)であり,降雨の初期損失や有効降雨等を物理過程に基づいて再現する.3つ目は河川モデルCaMa-Flood(山崎ら,2011)であり,流量計算及び洪水氾濫を再現する.
    構築したシステムに観測降水量を入力した検証実験では,利根川流域において年間水収差は-7%にとどまり,流量ピークを良好に再現した.さらに,2015年関東東北豪雨における鬼怒川洪水のハインドキャストでは,洪水発生を35時間前から示唆することができた.また,洪水発生を予測するメンバー数は予測初期時刻が更新されるごとに増加し,洪水発生35時間前には17/51メンバーであったのに対し,11時間前には43/51メンバーが洪水発生を予測する結果となった.
  • 中村 要介, 近者 敦彦, 土屋 十圀
    セッションID: 33
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,平成27年度9月関東・東北豪雨を対象とし,水理解析モデルを構築して,茨城県常総市の若宮戸地先における溢水量を推定することとした.水理解析モデルは,河川シミュレーションソフトiRICのNays2DHを利用し,水海道水位観測所から鎌庭水位観測所までの約16.4kmをモデル化した.利用したデータは,国土地理院数値標高モデル5mメッシュとし,低水路の粗度係数を0.020,高水敷を0.025,また,被災直後のオルソ画像より植生を考慮した.水理解析モデルは,洪水痕跡水位と計算水位を比較し,誤差の平均値が0.3m以下,自然堤防の溢水時刻が国土交通省の調査報告資料とほぼ一致しているため,その妥当性を示すことができた.
    上記の水理モデルを用い,当時の再現計算を行った結果,若宮戸地先の上流側25.35k(背後地にソーラーパネルが設置されている地点)でピーク102m3/s,下流側24.75kでピーク380m3/s,若宮戸地先全体として481m3/sと推定された.このとき,国土交通省の資料より,常総市の氾濫水量が約3,400万m3と推定されていることから,概ね1/3が若宮戸地先からの溢水によるものと考えられる.
    一方で,今次災害では河川管理者によって25.35kに大型土嚢が設置されており,その効果を把握するために,大型土嚢がなかった場合を想定して,再計算を行った.その結果,大型土嚢がない場合には9/10 4:50から溢水が開始され,大型土嚢がある場合(実際)には9/10 5:50から溢水が開始され,その差1時間浸水開始時刻を遅らせる効果があったものと考えられる. 
  • 田中丸 治哉, 小澤 亮介, 鎗本 賢太, 秋山 由樹, 多田 明夫
    セッションID: 34
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    兵庫県では,総合治水手法の一つとして,営農に支障がない台風期の9,10月(事前放流期)にため池水位を下げ,11月~翌年3月(水位回復期)にため池を満水まで回復させる事前放流に取り組んでいる.本研究では,丹波篠山地区及び淡路地区を対象として,長期流出解析で推定した水位回復期の確率流入量に基づくため池事前放流の手法を適用し,事前放流によって確保できる地区全体の雨水貯留容量を推定した.さらに,ため池規模と事前放流で確保できる雨水貯留容量の関係を検討し,規模の大きなため池に限定した事前放流によって効率的に雨水貯留容量を確保できることを明らかにした.
  • コウ ロ, 吉川 沙耶花, 井芹 慶彦, 鼎 信次郎
    セッションID: 35
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水は人間の生存と経済活動に対して、必要不可欠な自然資源である。世界では水資源不足問題が発生しており、深刻な問題となっている。海水は淡水と比較し無尽蔵な水資源であり、海水淡水化技術の占める役割は、貴重な水資源を製造する手段としてますます重要になりつつある。ここ数年、世界では100~200万m3/日 造水規模の設備が建設されており、現在は年間20km3ほど造水されている。  海水淡水化は水不足解消の有効な方法のひとつであるが、海水淡水化プラントの導入コストと維持運営コストの高さが普及する上での障害となり、産油国と先進国でしか導入できていないという現状がある。それ故、海水淡水化の導入可能性を評価するために、まず導入コストと便益を明確にする必要がある。 本研究では、海水淡水化の経済性および全球への導入可能性を明確にするため、費用便益分析手法を用い、2050年まで海水淡水化が経済に与える影響を評価する。手法としては、既存データに基づき、定量的に海水淡水化の費用および便益の変動状況を分析した。さらに、将来社会経済シナリオ(SSP)を用いて、将来の費用および便益を推定した。結果として、生産コストの減少に伴い、今まで経済的理由から導入できなかった地域である発展途上国で、今後、海水淡水化設備を導入できる可能性を明らかにした。
  • 浜口 俊雄, 角 哲也, 田中 茂信
    セッションID: 36
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    重力コンクリートダムの設計時には,まず基本断面を考え,そこに転倒安定性/滑動安定性/許容応力耐性を満たすよう同断面形状が設計される.その際に地理的・経済的理由から上流側法面にフィレットを導入すると,フィレット高と堆砂高の大小関係によって静水圧や堆砂圧の鉛直作用力が重線形となるため,フィレット高と堆砂高のいずれかがダム設計諸元になった場合には静水圧や堆砂圧の鉛直作用力式が連続であっても微分不可能なものとなる.その導関数の不連続性から従来の最適化手法の適用は難しくなることが多かった.本研究では第一に0-拡張論を用いて上記作用力式とその導関数を1つに表せるようにした上で,その式に対して,導関数の利用が不要なミツバチコロニー最適化手法を用いてダム設計諸元の最適化を行う方法を提案した.事例として挙げた現存ダムはフィレットのないダムであるが,仮想的にフィレットを有する断面として断面設計の最適化を図った.その結果,基本断面の断面積を約21%減少させることに成功した.その他の粒子群最適化手法の結果とも比較したところ,計算効率や結果の精度の面で本提案手法は優位性があることがわかり,ダム断面設計だけでなく水文モデルパラメータ同定などへの応用性が非常に期待できる結果となった.
【流出(1)】9月17日(土)12:45~14:15
  • 佐山 敬洋, 田中 茂信, 寶 馨
    セッションID: 37
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    平成27年9月関東・東北豪雨を対象に鬼怒川上流域における洪水流出解析を行った。鬼怒川上流に位置する湯西川ダム流域では、140 mmの前期降雨が降った後、約20 mm/hの降雨が10時間以上降り続いた。102 km2のダム流域に10時間以上の降雨が降り続くことによって、降雨流出現象は概ね定常状態に達していることが想定された。実際に観測されたダム流入量は、約6時間にわたって流量がほぼ一定となっていた。ただし、降雨強度20 mm/hに対してその期間の観測流入量は5 mm/h以上小さくなっていた。この現象を分布型モデルで再現した結果、土壌から基岩への浸透など、主要な流出経路から損失を考慮する必要があることが分かった。さらに流出の時空間起源をモデル分析した結果、定常状態とみられる期間中に流域の遠方に降った雨水の流出成分は、同期間中にも増加していることが確認され、理想化した斜面からの定常状態とは異なっていることが分かった。
  • 山崎 祐介, 岩見 洋一
    セッションID: 38
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    平成27年9月関東・東北豪雨による洪水により、鬼怒川の堤防が決壊して氾濫が生じたため、被害の大きな災害となった。この時の氾濫や浸水の状況を知るためには、鬼怒川下流の常総市までの降雨流出および河道流下過程、堤防の決壊による河道からの流出過程、決壊箇所からの氾濫浸水過程の3つを明らかにする必要がある。本研究では、鬼怒川流域全体を対象として降雨流出氾濫解析を行い、鬼怒川の堤防の決壊地点の流量を推定し、それを1次元の洪水流解析に入力して、決壊による氾濫流量を推定する。 本検討に用いた流出氾濫解析モデルは、土木研究所/ICHARMにより開発されたRRIモデルである。河道の洪水流解析には、1次元の力学波近似を適用したものを用いている。流出氾濫解析の結果、鬼怒川における氾濫はあまり見られない。これは、堤防の決壊過程を考慮していないため、堤防の越水だけが生じたので、氾濫がそれほど生じなかったことを示している。鎌庭地点における計算水位と観測水位を見ると、最高水位の発生時刻と値は概ね一致しているが、計算結果のほうが、立ち上がりが早く、また水位上昇が急であり、減水も遅い。 また、鎌庭における計算ピーク流量は4400m3/s程度である。 1次元洪水流解析による洪水ピーク時刻の水面形をみると、堤防の決壊が生じた21km地点の他にも水位が堤防高まで上昇しているところが見られる。決壊による河道からの氾濫流出量の総量は40.4x106m3程度である。
  • 牛山 朋來, 佐山 敬洋, 岩見 洋一
    セッションID: 39
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
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    激甚化する豪雨にともなう洪水被害を効果的に軽減するため、半日以上の長いリードタイムを確保した洪水予測の開発を行っている。降水量予報については、予報の不確実性を考慮したアンサンブル予報を用いる。得られた値を降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)に導入し、流出予測を行う。この手法を2015年鬼怒川洪水事例に適用し、流域上流の4つのダムや中流の石井地点における流出量を求め、予測可能性を議論した。予測リードタイムは30、24、18、12時間の4種類について行った。基本的に予測リードタイムが短くなるにつれて、流出予測精度も向上した。また、リードタイム24時間の予測を除いて、ほぼすべての地点で、少なくともいくつかのアンサンブルメンバーは洪水ピークを予測した。また、リードタイム12時間の場合多くのアンサンブルメンバーが洪水ピークを予測することができ、またアンサンブル中央値も観測洪水ピークに近づいた。一方、気象庁の現業予報で使われているメソモデルMSMによる予報降水量を用いると、ほとんどの場合洪水ピークを予測できなかった。また、アンサンブル予報にみられるような、リードタイムと予測精度の関係も見られず、予報のばらつきが大きいことがわかった。以上の実験により、アンサンブル洪水予測手法の有効性について確認した。
  • 一言 正之
    セッションID: 40
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー


    全国の一級河川で洪水予測システムが稼働しているが,住民の適切な避難判断には予測精度が不十分な場合が多い.河川の水位予測には様々な手法が提案されており,その一つにニューラルネットワーク(Aritificial Neural Network;ANN)がある.様々な河川においてANNの適用性が報告されているが,他の手法と比べた優位性は明らかではなく,実用事例は少ない.またANN水位予測モデルの弱点として,未経験の洪水規模に対する予測精度が担保されておらず,防災上の観点から課題となっている.以上を踏まえ,本研究ではANN水位予測モデルの適用性向上を目的として,分布型降雨流出モデルと組みあわせたハイブリッド予測モデルを開発し,大淀川水系の樋渡地点流域に適用した.

    基本モデルとなるANNは,入力層・中間層2層・出力層からなる4層の階層型ネットワークとした.入力層は各観測地点の時間雨量(5時間分),水位変化(3時間分),および予測地点の水位(2時間分)とした.出力層は,現時刻から予測時刻までの水位変化とし,予測時間ごとにネットワークを構築した.学習には確率的勾配降下法を用い,誤差関数の勾配の算出には誤差逆伝搬法を用いた.勾配消失問題への対応として,自己符号化器による事前学習を適用した.

    降雨-流出モデルとして,一次元鉛直浸透流,飽和側方流,表面流および一次元河道流で構成される分布型モデルを構築した.構築した分布型モデルに,流域内の観測水位データを用いて,粒子フィルタによる土壌水分量の同化手法を適用した.粒子数は96とし,フィルタリングは1時間ごとに行った.

    続いてハイブリッドモデルを構築した.貯留関数などの流出理論によれば,河道への流出量を規定するものは,降雨ではなく流域の水分貯留量である.そこで,ANN水位予測モデルの入力層に,雨量の代わりに水分貯留量の変化に相当する値(有効雨量-流末からの流出量)を用いた.学習時には実測データを用い,予測時には物理モデルによる流出計算結果から貯留量変化を求め,入力層に用いるものとした.

    ハイブリッドモデルの結果は,元のANN水位予測モデルおよび分布型モデルを上回る精度となった.特に,予測が過大となっていた2005年の期間最大洪水で大きな精度向上が見られ,開発したモデルの適用性を示唆する結果となった.
  • Hu Maochuan
    セッションID: 41
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    This Study developed a water management module (WMM) to be coupled with hydrological models for discharge simulation. A case study was applied in the Kamo River Basin to evaluate the performance of WMM by comparing the observed basin outlet discharge and simulated data. Four indices were used including RMSE, MAE, MRE and NSE. The resulst show WMM has a good performance coupled with the hydrological predictions for the environment (HYPE) model in the Kamo River Basin. However, the transferability of WMM requires more demonstration in other basins using different hydrological models.
  • 間地 暁洋, ジョン ジュンチャン, 瀬戸 心太
    セッションID: 42
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年,日本各地で水害の被害が見られる中,地球温暖化の影響により豪雨の強度や頻度は上昇し,将来に発生する洪水や河川の氾濫などの災害は激しくなると予想されている.そのため,気候変動の影響を踏まえた将来の河川流量の状況を把握することは今後の河川管理において重要であると考えられる.そこで,九州の一級河川に見られるダム,農業や生活・工業用水といった人間活動が河川に与える影響を考慮し,気候シナリオを基にした環境省の地域気候変動予測データを用いて将来の河川流量を算出する.
【流出(2)】9月17日(土)14:25~15:55
  • 工藤 俊, 萬矢 敦啓, 小関 博司, 笛田 俊治, 中津川 誠
    セッションID: 43
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー


    本研究はメコン川下流域を対象として,氾濫原上を流れる水の流量(以下,氾濫流量)を推定するものである.洪水氾濫による被害を軽減するためには,氾濫原の水の挙動を理解し,浸水深や浸水継続時間等を適切に把握した上で対策を講じる必要がある.これらの情報を推定,予測する上では流出氾濫現象を再現するモデルを構築することが重要である.一般的に降雨流出過程を表すモデルの妥当性を精査するには,河道の水位や流量を観測値と比較する場合が多く,氾濫を表現するモデルの場合は衛星情報や現地調査から推定した氾濫域を計算結果と比較する場合が多い.一方,洪水中の浸水深や浸水時間など被害に直結する情報を扱う上では,氾濫域のみならず,氾濫原の水の量及びその挙動も検証する必要がある.そこで本研究では,氾濫流量に着目してモデルで計算した氾濫流量と衛星情報から推定した氾濫流量を比較する.
    本研究では,降雨流出氾濫モデル(以下,RRIモデル)を用いて流出氾濫シミュレーションを実施する.また,MODISから得られる情報を用いて氾濫域を推定し,DSMと氾濫域から氾濫水の水位分布を推定した.さらに流速場を推定するために,水位分布から求めた水面勾配分布,水位とDSMから求めた水深分布を用いて,等価粗度係数を0.4m-1/3sとしたマニング式から流速場を推定した.そして,流速分布と水深分布から,断面を定義した上で氾濫流量を推定する.今回設定した4断面のうち,3断面ではRRIモデルで計算した氾濫流量と,MODISから推定した氾濫流量が良好に一致した.一方で,氾濫原内を流れるトンレトーチ川が位置する周辺の断面においては,RRIモデルで計算した氾濫流量が過少となった.今後の課題としては,トンレトーチ川による本川から氾濫原への導水を計算に反映させることで,計算精度の向上を進めて行きたい.
  • 谷 誠
    セッションID: 44
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    森林およびダムの洪水緩和効果について説明する.これにより,今後の課題を提起するとともに,学際的議論を期待する.
  • 小島 永裕, 谷 誠
    セッションID: 45
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    滋賀県南部の堆積岩地域の山地森林渓流で観測してきた約15年間のデータを詳細に見直し,さまざまな降雨規模に対する流出特性の情報を帰納的に引き出した。
  • 吉田 武郎, Troch Peter A.
    セッションID: 46
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    現在の流域の姿(地形,土壌,植生)は,地質,気候,地殻変動の相互作用により形作られ,その発達過程は流域の水文特性に影響を及ぼす.このようなパターンを見つけ,それらを支配する法則についての仮説を検証することは,未観測流域での水文予測に役立つ.ただし,発達過程が複雑であることや初期条件が不明確であることから,その因果関係の検証は難しい.また,そもそも水文指標は気象の影響も受けるため,それらと流域の内的特性の関係が不明瞭である場合も多い.一方,物理的水文モデルは流域内部の過程と現れた水文特性の因果関係を推定できる利点がある.
    この研究では,火山岩流域における流域の発達過程とその水文特性への影響を調べるため,物理的水文モデルを用いて流出過程(内的特性)と水文指標の関係を明らかにした.その結果,基盤岩への涵養量,不飽和帯の水の通過時間等のモデル特性が流況曲線の勾配を決定づける因子であることを示した.また,それらの特性の地質的な時間スケールでの変化は,流域の発達過程に関する仮説と整合的であった.
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