畑地における土中水分移動のシミュレーションを行うためには,蒸発を地表面境界条件,蒸散にともなう根の吸水を吸い込み項として,それぞれ与える必要がある.ここで,気象条件で推定される可能蒸発散
ETpを蒸散割合SCFを用いて,可能蒸発
Epと可能蒸散
Tpに分ける方法がある.植物が十分に繁茂した条件に対しSCF = 1を用いた研究例はあるが,生育過程のSCFの変化は明らかではない.また,蒸散速度の測定に基づいてSCFの変化を推定した例は少ない.そこで本研究では,土中水分変化に基づいて蒸散速度を求め,蒸散割合を推定することを目的とした.地表面にマルチを施したダイズ圃場の土中水分変化を測定し,水収支式から生育過程の蒸散速度
Taを求めた.そして,土が湿潤条件下の
Taを
Tpとし,気象データに基づく
ETpとの比から蒸散割合
Tp /
ETpを推定した.さらに,蒸散割合とダイズの草高,LAI,地表面被覆率の関係から,簡易的な蒸散割合の推定方法を検討した.
三重大学附属農場のダイズ畑で現場測定を行った.ロッド長30 cmのTDRセンサーを地表面と30 cm深から鉛直下向きに設置し0-30,30-60 cm深の平均水分量を測定した.フクユタカを6/1に播種し,6/22以降はマルチで地表面蒸発を防いだ.また,草高,根密度分布,LAI,被覆率といった生育データを定期的に測定した.被覆率は,上方5.4 mから圃場を撮影し,写真を画像解析することで求めた.得られた60cm深までの平均土中水分量変化を用いて水収支式から蒸散速度
Taを求めた.測定した気象データとFAO推奨のPenman-Monteith式で
ETpを算出した.
土が湿潤条件下の
Taを
Tpとすると,
Tpはダイズ生長にともない増加して
ETpに近づいた.得られた
Tpと
ETpの比
Tp /
ETpは播種以降増加し,8月後半には1に近づいた.値が大きくばらつくのは,
ETpの計算値が放射の測定値に影響を受け大きく変動するためと考えられた .草高と
Tp /
ETpの関係は2014年と2015年で異なり,生育の違いで葉の広がりが異なったためだと考えられる.被覆率と
Tp /
ETpは,ばらつきは見られたがおおよそ一致した.LAIの測定と異なり被覆率の測定は,植物株の採取を必要とせず非破壊で行えることから,
SCFを得るために有効であると考えられる.
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