水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2016年度研究発表会
セッションID: P69
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【水環境経済学】
将来の水資源量変化による経済影響はいくらになる?:メタアナリシスによる検討
*吉川 沙耶花井芹 慶彦鼎 信次郎
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抄録

水危機は、今後10年で地球が直面する最も大きなリスクのひとつである。これらの淡水資源に関連するリスクは、今までのところ、全球において水逼迫が発生する地域人口の推定が水文学系研究者にとっては主流であった。しかし、政策決定者が緩和・適応策を考える際に他分野との比較ができないため、これらのリスクに対してどの分野にどの程度投資すべきかなどの判断はかなり難しくなる。そこで、多分野間で相対的比較や総合的評価が可能な金銭換算評価がひとつの方法としてあげることができる。IPCCに代表されるような温暖化系研究が多くなり、全世界的な水資源問題への関心が深まることで、水資源を経済学の分析手法に応用した研究が経済学のみならず理工学系などの他分野においても行われ始めている。今までのところは、主に経済学系研究者によって気候変動により水資源量の変化による経済影響が様々に推定されてきた。そこで、本研究では、将来の水資源量変化による経済影響 (直接的および間接的な損失と利益) を推計した研究について現状の問題点を整理し、今後の課題を明らかにすることを目的とする。
本研究では、将来の水資源変化による経済影響の推計に関して、4つの視点からその問題点を整理した。ここでは、推定手法の根本的違い、経済影響額に含まれる項目および定義の違い、推定式内において根本的な尤もらしい水利用量予測が考慮されていないということが明らかとなった。一方で、Hanasaki et al. (2013) で推定されているように気候変動のみ発生した場合の水逼迫人口に比べて、将来の人間活動を考慮した場合の水逼迫人口の方が気温上昇による増加率が高い。これは、気候変動のみならず、人間活動が水循環へ与える影響をより正しく経済影響評価へ考慮することで、その推定額が大きく変わる可能性があることを示している。今後の経済影響推定において、今こそ経済学と水文学分野の協働が不可欠ではないだろうかと考える。

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© 2016 水文・水資源学会
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