抄録
近年、地球温暖化の影響により大雨や台風の異常発生などに起因する自然災害が懸念されている。このような状況下で、長期的な洪水対策として長期確率雨量や流量に基づいたダムの施工や河川堤防の整備などが有効である。確度の高い長期確率雨量・流量を求めるためには、長期間にわたる雨量や流量の観測値の収集が必要であるが、十分に長期間の雨量・流量観測が実施されている例は多くない。そこで本研究では、限られた気象データから多数年におよぶ流量データを擬似的に作成する手法の開発に取り組む。 まず、連続時系列データである気象場に対して、時間相関を調べる。そして、ある時点の前後で気象場に時間相関がないと判断できるような特定の時点とその時間スケールを求める。その時点以前の気象場はそれ以降の気象場に影響しないと考えられるため、ある年のある時点以降の気象場を異なる年の気象場で組み換えることができると、本研究では考えることにする。この考えに基づけば、その時点を境にあらゆる年の気象場を組み合わせた、多数年におよぶ気象場を擬似作成できる。擬似作成した気象データは物理法則で表現される分布型水循環モデルに入力し、流量に変換する。 気象場として、気象庁55年長期再解析JRA-55を用いた。流量の推定に大きな影響を与える降水量と気温について時間相関を分析した。その結果、降水量と気温の偏差の相関は8月と9月の間が最も小さかった。以上より、本研究では8月と9月の間で気象場を組み換え、多数年におよぶ気象場を作成した。 JRA-55の2003年から2012年までの気象再解析データを入力とし、分布型水循環モデルを用いて流量計算を行った。JRA-55は連続時系列データであるので、通常は2003年から2012年までの10年分の計算が行われる。しかし本研究では、8月と9月の間で気象場を組み換え、1月から8月までが10年分、9月から12月までが10年分の合計100年分の気象場を作成している。よって、作成した気象場を入力として分布型水循環モデルによる流量計算を行い、100年におよぶ流量データを擬似作成した。 疑似作成した流量データから求めた年最大日流量と、非超過確率の関係を調べると100年分の擬似流量データは10年分の実時系列流量データを補完するようなデータとなっていた。