抄録
流域の持つ水害リスクを適切に評価することは,流域の健全なリスク管理にとって重要である.特に大都市圏では,人口や経済的資産が集中するため,ハード対策とソフト対策を効果的に組み合わせてリスクを軽減させる必要がある.水害リスクの中でも,特に本川からの越水・破堤等による外水氾濫は甚大な被害が予測され,気候変動によってそのリスクが高くなることが懸念される.しかしながら,これまで本線からの外水氾濫の被害件数は極めて少なく,数百年,数千年の1度の水害の規模を推定することは容易でない.近年,気候変動条件下での気候予測を多数のアンサンブルで実施するという目的から,地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)が作成され,超多数のアンサンブル(日本域で現在気候が3000年分,将来気候が5400年分)が利用可能となった.これによって,数百年に1度の大規模な外水氾濫による被害を降雨データから降雨流出モデルおよび洪水氾濫モデルを介して推定することが可能となった.そこで本研究では,愛知県庄内川流域を対象とし,d4PDFによる現在気候および将来気候の降雨量データを用いて計算された庄内川流域枇杷島地点の年最大ピーク流量の上位10事例を対象に降雨流出・氾濫計算を行い,庄内川流域の最大クラスの外水氾濫を分析することを目的とする.計算の結果, d4PDF過去実験,4℃上昇実験の上位10各事例による氾濫面積が過去に同地域で見られないほど大きくなった.これは,上位10事例,すなわち再現期間数百年に相当する豪雨は総雨量が著しく大きいことが原因であると考えられる.ただし, 本研究で構築した洪水氾濫モデルでは,庄内川付近の木曽川・日光川を考慮していないため氾濫面積を過大評価している可能性がある.また,枇杷島地点の洪水ピーク流量に関して第3位の事例の方が,過去実験および4℃上昇実験のいずれの実験でも第2位と比べて浸水面積が大きい.この結果から,洪水ピーク流量に加えて越水時間も浸水面積を決める重要な要素であることが分かった.今後は,本研究で考慮していない庄内川付近の木曽川・日光川の影響を考慮した分析を行う予定である.さらに,上位10事例以外の豪雨事例についても氾濫計算を実施し,多数の被害額のサンプルから水害リスクカーブを作成して庄内川流域の水害リスクを評価する予定である.