近年,ひまわり8号の打ち上げによって静止気象衛星の性能が飛躍的に向上し,時間・空間ともにゲリラ豪雨のような短時間かつ局地的な現象を解像できるようになってきた.加えて,偏波機能を有するKaバンドレーダーが開発され,雲粒子に関する知見がますます増えていくと期待されている.
そこで,将来,静止気象衛星ひまわり8号やKaバンドレーダーから得られる観測情報に気象モデルをデータ同化することを想定し,本研究ではその第一段階として理想実験の枠組みでアンサンブルデータ同化実験を行い,ゲリラ豪雨の発達初期段階の情報を同化することによって,ゲリラ豪雨の発達期や成熟期に対してどのような影響があるかを明らかにすることを目的とした.
観測システムシミュレーション実験(OSSE)のもと,実際に夏季沖縄で発生した大気不安定による対流性降水システムを対象として,真の大気場を作成した.同化する疑似観測値を作成するにあたり,ひまわり8号で観測される輝度温度およびKaバンドレーダーで観測される雲水混合比を想定した.同化無し予測,雲頂温度CTTの同化,雲水混合比
qcの同化,CTTと
qcの両者を同化,の計4つの予測計算を行い,真の大気場との比較を行った.また,データ同化システムとしてCReSS-LETKFを用いた.
地上降雨開始のタイミングの再現性を最も向上することができたのはCTTのみを同化した実験であり,地上降雨強度の最大値の再現性を最も向上することができたのはCTTと
qcを同化した実験であった.
CTTを同化したことによって雲頂部における温位が減少し上昇流が発生するという関係性を再現でき,また
qcを同化したことによって積乱雲のコア部で凝結が発生して温位が上昇し同時に上昇流が発生していることを再現することができた.さらにCTTと
qcの両者を同化した実験ではお互いの良い面が反映されて,上述したように地上降雨強度の再現性が高くなることを示した.
今後の課題として,本研究で明らかにしたことを実際の観測値を用いてデータ同化実験を行い,ゲリラ豪雨予測精度の向上をはかる.特に,放射計算といった効果的な観測演算子の構築が大きな課題である.
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