抄録
タイ国チャオプラヤ川流域においては、地球温暖化と森林伐採によって洪水が増加するという懸念から、適応策の一つとして植林に期待する声がある。本研究では植生キャノピーを陽に考慮した陸面水文過程モデルを用いて、現在気候と温暖化時の気象データを与えた実験を行った。さらに、温暖化時の条件で、耕地の一部を自然植生に変更(植林に相当)した実験を行って、温暖化と植林に対する流出量の変化を調べた。最も温暖化が大きくなる気候シナリオにおける21世紀末の気象データでは、降水量が350~430mm/yr増加し、流出量は200~280mm/yr増加した。そこから約20%の耕地を自然植生にしたところ、温暖化による流出量増加は1.8~5.5mm/yr低減した。年間流出の植林による増加量は、Bhumibolダムの集水域でダム容量の0.4%、チャオプラヤ川の全集水域ではBhumibolダムとSirikitダムを合わせた容量の1.2%に相当していた。また、植林面積1km2あたりの年間流出低減量は、約65~75KCMだった。