水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2018年度研究発表会
選択された号の論文の148件中1~50を表示しています
【気候変動・地球環境(1)】9月12日(水)9:30〜10:45
  • 小槻 峻司, 黒澤 賢太, 三好 建正
    p. 2-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    データ同化は、数値モデルと実測データを最適につなぐ、統計数理や力学系理論に基づいた学際的科学である。数値天気予報においては根本的な役割を果たしており、大気の観測データを同化する天気予報技術は高度に発展・改善してきた。一方で、水文観測データは現業の数値天気予報では十分に活用されていない。本研究では、数値天気予報に水文モデルを含んだ統合的なデータ同化システムを構築し、水文観測データの同化による中期天気予報、及び、河川流量、旱魃指数、穀物収量等の水文予測精度の改善を目指す。大気・陸面は互いにフィードバックするため、両者を統合した結合モデルによるデータ同化により、大気・陸域水循環の状態推定を相乗効果的に改善することを狙う。
  • 新田 友子, 竹島 滉, 鳩野 美佐子, 八代 尚, 荒川 隆, 山崎 大, 芳村 圭
    p. 4-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    陸モデルは,約50年前の気候モデルに地表面水文過程を取り入れた試みから,主に気候モデルの一部として開発が続けられてきた.現在解決すべき課題のひとつとして長期に渡って解決されていないバイアスが挙げられるが,適切な格子系による高解像度化の実現,よく検証された要素モデルの簡素な導入の実現により,改善する可能性がある.そこで,これらを実現し,大気・海洋モデルやその他のモデルと物理的に整合した形での結合の実現を目指して,統合陸域シミュレータ(ILS)の開発に着手した.現在,プラットフォームの整備,結合に用いるカップラー周りの整備,I/Oモジュールの作成,要素モデルの開発,境界条件作成ツールの整備,陸域モデルの結合,大気・海洋モデルとの結合等について開発を進めている.本研究ではその第一報として,ILSの構造について説明し,陸面モデルMATSIROと河川氾濫モデルCaMa-Floodを結合したオフライン実験と計算性能評価,MIROC6 AGCMとの結合に向けたテストついて報告する.
  • 渡部 哲史
    p. 6-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)は,過去再現実験60年×100アンサンブル実験,将来予測実験60年×90アンサンブル実験と,大量の予測結果が利用可能である.このような大規模アンサンブル実験は,気候変動下での洪水リスク推計のような低頻度事象を解析する上で有用である.気候変動予測結果を基に水災害の影響評価を行う際には,モデルバイアスの処理が重要な課題であることは既に多くの研究により指摘されている.バイアス補正手法開発という側面からも,大規模アンサンブル実験の特徴を考慮した補正手法の検討が必要であるが,これまでのところ,従来と同様の,単一の予測実験結果に対する補正方法が用いられていることが多い.そこで,本研究では日本域の降水量を対象に大規模アンサンブル実験結果に用いるのに適したバイアス補正手法を開発し,アメダス観測点を対象にd4PDFに基づくバイアス補正済み大規模アンサンブル降水量データセットを作成した.データセットの精度ならびに将来予測傾向を確認するために,雄物川ならびに肱川流域を対象に補正した降水量の検証を行ったところ,それぞれの流域において約5%の誤差で極値統計により求めた値を再現できることが明らかとなった.適切な補正手法を用いることにより,大規模アンサンブル実験結果による結果から,過去の低頻度の事象を再現することが可能であることが示され,このデータを用いることで低頻度事象の将来変化を明らかにすることが可能であることが示された.本データセットで用いている補正手法は,過去および将来の両方で多数のアンサンブル実験結果が使えるという前提の下開発されたものであり従来よりも詳細な将来変化ならびにモデルバイアスを考慮することが可能となっている.本データセットは日本全国を対象としていることから.今後さらに広範囲の地域を対象とした検証を進めていく予定である。
  • 安富 奈津子
    p. 8-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    地上平均気温は、地球温暖化を評価する重要な指標であり、特に寒冷地や標高の高い地域では氷河や積雪の有無、河川洪水や水資源管理にも大きく影響を及ぼす変数である。地上平均気温の長期的な変化を知るために、地上観測を基にしたデータセットが活用されている。長期間の観測は、古くからある都市、ヨーロッパやアメリカ、植民地など限られた国の、平地の地点データが主であり、山岳地帯などアクセスが悪く、周辺環境が苛酷な地点での観測は限られている。

    観測値に基づく日平均気温グリッドデータセットAphroTemp (Yasutomi et. al., 2011)を用いて、気候平均気温が高地のデータ入力数の多寡/有無によってどの程度の違いがでるのかを評価した。

     本研究では、インド、ブータン、モンゴルなどから新たに提供を受けた観測データを追加してAphroTempV1801を作成し、高解像度の日平均気温データの気候値を作成し、その特徴を紹介する。
  • 原田 央, 芳村 圭, 水谷 司
    p. 10-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    近年人間社会において深刻度を増す異常気象は気候変動の一部として捉えることが可能である. しかし気候 変動への理解は完璧とは未だ言い難い. 古気候研究は気候変動への理解を補完するものとして進められてきた が, プロキシデータを用いた古気候復元の既往研究ではその対象が局所的であることや気候変動の非定常性を 考慮していない, などの問題が存在している. 本研究では全球のプロキシデータを長期間に渡って扱い, 適切な 信号処理手法を用いることで 古気候変動の定量的評価を目的とする. まずプロキシデータの周波数の非定常性 に着目し短時間フーリエ解析(Short-Time Fourier Transform)を用いる. この手法は卓越した周波数が時間的 に変化する非定常な波形に有用である. また同時にSTFT の結果から自動的に卓越した周波数を検出するアルゴ リズムを提案した. その結果信号処理に基づいた古気候変動の再現に成功し, 既往研究で示されているような変 動を捉えることができただけでなく, 周期成分の非定常性が周期の長さで分けた区分ごとに異なる変動パ ターンを見せることも明らかにした. 同時に既往研究では曖昧にされてきたプロキシデータの空間相関につい て, 空間代表性という値を定義し定量的に示した. 空間代表性を検証したところ, 既往研究で扱われている範囲 に比べてよりローカルなプロキシデータの適応性が示唆され, 相関の偶然性を排除する閾値を具体的に提案す ることに成功した. またプロキシデータの突発的な変化を定量的に示す特異性強度を, ”時間マルチフラクタル 解析”と呼ばれる手法によって時系列データとして分析した. それによって特異性強度の変動パターンがプロ キシデータ間で類似していることに加え, 歴史的イベントとの関係性も確認できたため, 古気候変動の研究手法 として有用である可能性が示唆された. 本研究の結果は, プロキシデータを用いて古気候変動を再現する上での 信号処理の位置付けを再確認する助けになるのに加え, より定量的な評価を下す基盤になると考えられる.
【気候変動・地球環境(2)】9月12日(水)11:00〜12:00
  • 大楽 浩司
    p. 12-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    気候変動の影響の「幅」の評価に寄与するため,代表的な統計的ダウンスケーリング手法(BCSD(Bias-Correction and Spatial Disaggregation)法, Wood et al.,2004など)を適用した1km水平格子間隔の高解像度日本全国アンサンブル気候予測データベースを創出した.CMIP5の37モデルを用いて統計ダウンスケーリングを行った地域気候シナリオの年降水量の将来変化(現在1950-2005年,近未来2026-2050年)について,個々の気候シナリオが示す増減の傾向や程度は必ずしも一致しないが,日本の多くの地域で年降水量の増加傾向を示すモデルの割合が多く,北海道地域では8割を越えた.多数のアンサンブル情報を扱うことによって,より客観的に気候シナリオの確実性について評価することが可能となる.WCRP CORDEX Asia ESDの国際的な枠組み・連携の下,開発した地域気候シナリオを創出する手法をアジアへ展開していく.
  • 橋本 郷志, 中北 英一, 森元 啓太朗, 小坂田 ゆかり
    p. 14-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    近年ゲリラ豪雨による水難事故などの災害が多発している。また、地球温暖化に伴う気候変動により、降雨の特性が変化するとも言われている。気候変動がゲリラ豪雨に及ぼす研究として、中北ら(2017)は5km解像度領域気候モデルRCM05を用いて、気候変動下の将来気候8月においてゲリラ豪雨の発生頻度が増加することを示している。本研究では、この中北ら(2017)の結果を踏まえて、なぜ8月にゲリラ豪雨の発生頻度が増加するのかを環境場の観点から明らかにすることを目的とする。本研究で注目するのは、地球温暖化に伴う大気の安定化と、下層水蒸気量増加による大気の不安定化という相反する2つの効果のトレードオフ関係である。
  • 小坂田 ゆかり, 中北 英一
    p. 16-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    近年,梅雨期の集中豪雨が頻発している.そもそも梅雨豪雨は西日本で多く発生する現象であり,これまでも甚大な梅雨豪雨の多くは西日本,特に九州地方で発生してきた.2017年7月には九州北部豪雨が発生し,土砂災害や流木流出,中小河川の氾濫など甚大な被害をもたらした.このように,近年あまり経験したことのない梅雨豪雨災害が発生するたび,地球温暖化と梅雨豪雨の関連に注意が払われるようになり,梅雨豪雨の詳細な将来変化予測の実現は喫緊で取り組むべき極めて重要な課題として浮き彫りになってきた.しかし,未だに地球温暖化と梅雨豪雨の関係は明らかになっていない部分も多く,詳細な将来変化予測は実現していない.
    その結果,2017年7月の九州北部豪雨のような甚大な災害をもたらし得る西日本型の梅雨豪雨が,将来気候において西日本以外でも新たに発生し得る危険性,そして将来気候において降雨持続時間あたりの積算雨量は増加し,九州北部豪雨の積算雨量に近い豪雨も多く発生し始める危険性を示した.すなわち,将来気候では九州北部豪雨のような甚大な被害をもたらし得る梅雨豪雨が頻繁に発生し始める危険性があり,なおかつその発生地域が九州・西日本以外の地域へも拡大していく可能性がある.そのため,今後はより一層,梅雨豪雨災害への適応策を全国で講じていく必要がある.
  • Julien Boulange, 花崎 直太
    p. 18-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    This study evaluates whether at identical levels of global warming, extreme precipitation and extreme discharge events are identical for transient and stabilized climates.
    Using four Global Circulation Models and a global hydrological model (H08), four extreme-value series were computed on the 0.5 by 0.5 resolution grid, for all land surface. The series were then individually fitted to generalized extreme value (GEV) distributions using the L-moments method.
    The statistical behaviors and the GEV distributions fitted to the extreme-value-series revealed that globally, all extreme indices presented large deviations. Differences in extreme indices between the transient and stabilized climates where small but significant while considering the influence of natural variability.
    Since differences in extreme indices between the transient and stabilized climate are rather small and only affect a marginal portion of the land surface, relying on only the transient climate for assessing the impact of climate change on extreme events seams acceptable.
【気候変動・地球環境(3)】9月12日(水)13:30〜14:30
  • 合田 昌弘, 嶋寺 光, 松尾 智仁, 近藤 明
    p. 20-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    森林植生は,降雨遮断や地下水涵養など,水循環において重要な役割を果たしている.そのため,気候変動による植生の変化は,水循環にも影響を及ぼす.これまで,気候変動が水循環に及ぼす影響の評価を目的として多くの研究が為されてきたが,植生の変化が水循環に及ぼす影響を考慮した研究は少ない.本研究では,気象モデル,動的植生モデル,水文モデルを用い,植生の変化を考慮して淀川流域の水循環に対する気候変動影響を評価した.また,気象モデルと水文モデルのみを用いる従来の手法との比較を行い,植生モデルの適用による効果を評価した.
  • 胡 茂川, 田中 賢治
    p. 22-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    This study evaluated the changes in river discharge due to climate change using an integrated water resource model. This model, a combination of Simple Biosphere Model(SiBUC), Rainfall-Runoff-Inundation Model (RRI) and Reservoir Operation Model (ROM), considers the impact of reservoirs on the hydrological cycle and allows description of water and energy at the basin scale. The results annual River discharge trends to decrease. But there are no obvious changes in winter though precipitation trends to decrease. The probable reason is an increase of snow melting. In the heavy rainfall season from June to September, the average monthly discharge will decrease from present to future excluding July. There is an obvious decrease in August from present to future. Peak flow in September seems to move forward from late of the month to early of the month. Extreme flow (daily maximum) tends to increase during the projected period. Generally, the decrease in total discharge and increase in extreme discharge will bring large challenges to future water resource management.
  • 橋本 健, 牧野 博昭
    p. 24-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    近年,計画規模を超える豪雨による被害が頻発している.現状においても計画規模の確率雨量等の計画値だけでなく外力には不確実性があることを認識した超過洪水対策検討の重要性が高い.この傾向は今後の気候変動により外力の規模と不確実性が増加することが想定される。このため,治水計画において合理的な方法により外力の不確実性を設定した新たな計画論の必要性が高い.本論文では,利根川流域を対象としてd4PDF降水量データを用いた不確実性の検討から超過洪水対策規模の提案を行った.(1) 確率分布の違いによる不確実性の評価:アンサンブル全体の適合度は,将来気候ではとGEV分布の適合度が高くなる割合が多い.これは,現象が極端化する気候変動後の将来気候ではGEV分布の適合度が高くなる傾向を示していると評価した.(2) 超過洪水対策としての不確実性の評価:GEV分布を採用した場合は,不確実性の幅がGumbel分布に対して大きく気候変動を考慮した場合想定最大降雨と比較して大きくなることが分かった.大規模アンサンブルデータを用いることがリサンプリングの影響を表現していると考えると「適合度の基準SLSC<0.04として推定誤差が小さい分布を選定する」という考え方に従う必要は無い.この観点では,適合度が相対的に高いGEV分布を用いた不確実性を評価して超過洪水対策の検討を行う方法が有力であると考えられる.
  • 高田 久美子, 花崎 直太
    p. 26-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    タイ国チャオプラヤ川流域においては、地球温暖化と森林伐採によって洪水が増加するという懸念から、適応策の一つとして植林に期待する声がある。本研究では植生キャノピーを陽に考慮した陸面水文過程モデルを用いて、現在気候と温暖化時の気象データを与えた実験を行った。さらに、温暖化時の条件で、耕地の一部を自然植生に変更(植林に相当)した実験を行って、温暖化と植林に対する流出量の変化を調べた。最も温暖化が大きくなる気候シナリオにおける21世紀末の気象データでは、降水量が350~430mm/yr増加し、流出量は200~280mm/yr増加した。そこから約20%の耕地を自然植生にしたところ、温暖化による流出量増加は1.8~5.5mm/yr低減した。年間流出の植林による増加量は、Bhumibolダムの集水域でダム容量の0.4%、チャオプラヤ川の全集水域ではBhumibolダムとSirikitダムを合わせた容量の1.2%に相当していた。また、植林面積1km2あたりの年間流出低減量は、約65~75KCMだった。
【リモートセンシング・水資源・水環境政策】9月12日(水)14:45〜15:30
  • 松島 大
    p. 28-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    熱慣性は、体積熱容量と熱伝導率の積の平方根と定義される物理量である。土壌の体積熱容量も熱伝導率も含水率が高いほど単調に増加する性質を持っている。この性質を利用して熱慣性の推定値から土壌含水率を推定する研究が種々行われてきた。本論文は、熱慣性による土壌水分推定法の概略を示すとともに、この方法の今後の展望と課題について論じることを目的とする。
    熱慣性を求めるための基本方程式は熱拡散方程式である。地表面温度の日周期解と半無限深さにおける温度が一定であることを境界条件とする。これにより地表面における地中伝導熱を地表面温度のみによって表現できる。初期のモデルは地表面温度の時間変化について日最高・最低地表面温度差を地表面の境界条件とともに用いた。
    Xue and Cracknell(1995)地表面温度の日変化についてフーリエ級数展開を導入し、その第1及び第2成分に地表面温度測定値等を代入することで熱慣性値を算出した。
    一方、Matsushima(2007)~Matsushima et al.(2018)は強制復元法を用いた。強制復元法を用いると任意の時刻の地表面温度を用いることができる。一方、詳細な気象データの時系列を入力する必要がある。
    熱慣性と土壌水分の関係式としてJohansen(1975)による熱伝導率モデルの類推により提案された同型の熱慣性モデルがある。一方、Matsushima et al.(2017)はNoilhan and Planton(1989)のモデルに基づいた異なる関係式を提案した。本式は土壌の種類を推定できる可能性がある。
    XCモデルに基づいた一連のモデルとMatsushimaを中心に開発されてきたモデルについて、土壌水分推定精度に有意な相違はない。各モデルとも密な植生における推定精度の向上が課題である。土壌が凍結した場合の検証も特になされていない。土壌融解初期は土壌飛散が発生しやすく、その発生予測への応用にとって重要である。マイクロ波データと陸面過程モデルや衛星の可視・赤外データとの同化を目指した研究は熱慣性研究と競合するだろう。
    一方、衛星地表面温度の空間分解能の改善や、曇天時におけるマイクロ波輝度温度による熱赤外地表面温度の補正法の提案は好材料である。GSMaPによる降水量データと組み合わせた水収支解析に適用できる可能性がある。
  • ウェンディ ハルジュパ, 中北 英一, 隅田 康彦, 増田 有俊
    p. 30-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    The Guerilla-heavy rainfall (GHR) occurrence has increased in numbers. In 2008, five people died due to the occurrence of GHR in Toga River, Japan. It is very important to GHR and predict the occurrence of The rapid scan observation (RSO) of Himawari-8 is very useful to investigate the cloud development process because of its fine temporal and spatial resolution (0.5 - 2 km, 2.5 minutes). To maximize the utilization of RSO of Himawari - 8 data, in this study we utilize some of the parameters to investigate the relationship between cloud top condition and hydrometeor type aloft. The preliminary investigation shows a potential correlation between hydrometeor types aloft and cloud top conditions.
  • 遠藤 崇浩, 柿沼 薫, 吉川 沙耶花, 鼎 信次郎
    p. 32-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    世界規模での将来の水逼迫の増大は世界的な関心事だが、複数の解決策を必要とする地域的問題でもある。水取引はこのような地域的な問題に対して適用可能なソフトな対策として政策立案者等の関心を集めているが、その適用性に関する研究は世界的にもほとんど進んでいない。本研究では、296の国と地域にて水の再利用のための最小限のルールを中心に水利転用制度の有無、土地利用権と水利権の分離、水利権没収規定の有無などの水法を詳しく調査することにより、水取引が法的に確立される可能性のある国及び地域の世界的分布を提示する。また、灌漑期間の前に利用可能な水の予測可能性と、その管轄区域を通じた地下水の公的管理という2つの追加的な前提条件も示した。
【水災害】9月13日(木)9:00〜10:00
  • 中村 要介, 牛山 朋來, 阿部 紫織
    p. 34-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    本研究は,出水が起こる可能性を数日前に検知できていたのかを明らかにすることを目的として,領域気象モデルWRFとRRIモデルを用いて検証した.
    予測雨量はWRF-LETKFを用い,6時間毎に72時間先までを33個のアンサンブルメンバーで計算する.対象流域において見逃すことのないように空間分布の45kmを上限として平面的に雨域を移動させた.水文モデルはRRIモデルを用い,空間解像度が2s(50m)メッシュとした.
    WRF-LETKF×RRIモデルを用いて2017/7/4 9:00と15:00時点における72時間先の予測水位を計算した.
    まず2017/7/4 9:00では,全33メンバーのうち避難判断水位の超過を予測したのが4メンバー,うち2メンバーが氾濫危険水位を予測できている.しかしながら,7/6 12:00付近にも多くのメンバーが存在しており,発生確率は2倍であった.
    2017/7/4 15:00では,全33メンバーのうち避難判断水位の超過を予測したのが2メンバー,うち1メンバーが氾濫危険水位を予測できていた.
    以上より,本研究ではアンサンブル予測を行うことで21時間前に出水の可能性を検知することができることがわかった.
  • 佐山 敬洋, 三宅 慎太郎, 山本 浩大, 近者 敦彦, 寶 馨
    p. 36-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    水災害に対する自治体の緊急対応や住民の安全な避難を実現するうえで、洪水予測は基本的なソフト対策の一つである。現行の洪水予報(指定河川洪水予報)は、主として河川水位の観測地点を対象に、今後数時間で河川水位がどのように変化するかを予測する。詳細な地形データやレーダ雨量の定量性の向上から、近年では分布型モデルを用いた洪水予測の実用化も進んでいる。ただし、現行の洪水予測には、以下の二つの課題が残されている。一つは、観測地点以外の河川区間が予測の対象外であること、もう一つは、氾濫や集中豪雨で発生する浸水の状況が予測の対象外であることである。本研究では、中小河川を含めて河川流量、水位、浸水を流域で一体的に予測するための技術開発について報告する。具体的には、兵庫県千種川流域(対象範囲 777.6 km2)を対象に進めてきた一連の研究結果を報告するとともに、全国レベルの適用も含めた今後の展望を述べる。
  • ジャムレス エイリフ, 小森 大輔, Nakaguchi Kota, 風間 聡, Suhadak Suhadak
    p. 38-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    Topographical characteristic, meteorological characteristics, and artificial characteristics (human activities) cause flooding in urban areas. Jakarta rapid development gives an urbanization impact to its suburbs. Accordingly, Tangerang city, as a suburban area of Jakarta, facing that effect. The proposed methodology in this research is based on GIS computation of the frequent inundation areas in Tangerang between 2008 and 2015. We extracted its topographical characteristics and analyzed it to find a correlation between topographical elements and frequent inundation areas. Thus, we applied its topographical element score for all mesh across the city. As a result 78. % of Tangerang city area is classified as high-risk topographical inundation, then only 54. % of the frequently inundated areas and 85. % of ordinary inundated areas are considered to be in high-risk zone. The result indicates that topographical characteristic alone is not sufficient to explain the emerging of an inundation area.
  • 小森 大輔, 助川 友斗, Thapthai Chaithong
    p. 40-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    川における流木は主に,枯死,風倒,河岸侵食,斜面崩壊,土石流及び森林施業といった生物的・物理的・人為的要因が複合的に作用し流出する(芳賀ら, 2006).例えば,流木の発生源である日本の山林は,森林量は年々増加しており着実に樹木が生育している一方,林業従事者の減少により十分な手入れがなされず荒廃が進み,従来山林が有していた洪水抑制機能の低下,土砂災害防止機能や,水源涵養機能などの低下による被害が報告されている(恩田,2005).さらに,地球温暖化に伴う時空間的に集中した豪雨の頻発が重なり,例えば,2014年広島土砂災害,2016年北海道・東北豪雨災害や,2017年九州豪雨災害にて大規模な流木流出が発生したことは記憶に新しい.
    発生した流木は山林内や沢の狭窄部で塞き止められ,流木天然ダムを形成(堆積)し段階的に流出する(清水,2009)ことより,流木の発生-堆積・再移動-流出という一連のプロセスの理解が重要である.しかし,流木流出メカニズムを理解するために,これまでにモデル実験研究や事例研究が多く行われてきたが,流木流出の一連のプロセスに基づく物理モデルは未だ開発されていない.
    そこで本研究は,北上川水系のダム貯水池上流域を対象に,斜面崩壊物理モデル(Thapthai and Komori, 2017)を応用して発生流木量を推定し,発生流木推定量を入力値とするタンクモデルを用いて堆積流木の状況を評価した.
    結果として、四十四田ダム以外の4つのダム貯水池上流域(御所ダム,湯田ダム,石淵ダム,田瀬ダム)において,開発したモデルは流出流木量に関する高い再現性が得られた.対象としたダム貯水池流域において,御所ダムと湯田ダムは相対的に流木が堆積しており,石淵ダムと田瀬ダムは相対的に流木が堆積していないことが推察された.開発したモデルが他の流域でも適用できるか検証・高度化するとともに,モデルおよびパラメータの物理的意味を明らかにし,流木流出の一連のプロセスの理解を深化することが今後の課題である.
【水文統計・極地現象】9月13日(木)10:15〜11:00
  • 徳田 大輔, KOO Eunho, 金 炯俊
    p. 42-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    近年深層学習を用いた河川水位予測手法の開発が行われている.本研究では,リードタイムを伸ばす為に2つの前処理手法(Exponential FilteringとAdaptation)をこれに適用する.Exponential Filteringは水収支式に基づく降水量から流域貯留量への変換であり,Adaptationは複数ステップ先の水位を予測するときに,その直前までの予測水位を入力に含めることである.また深層学習モデルとしてLSTM (Long Short-Term Memoryブロック)を用いたRNN (Recurrent Neural Network)を選択する.これらを平成27年9月関東・東北豪雨の鬼怒川流域に適用した結果,2つの前処理によってリードタイムの延長に伴う誤差拡大を抑制することが示された.今後は本手法の他流域への適用可能性を検証する必要がある.
  • 葛葉 泰久, 千田 眞喜子
    p. 44-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    まず1時間降水量の年最大値データを使って,GEV,グンベル分布,Levy分布を当てはめた.その結果,Levy分布は裾が厚すぎて,年最大1時間降水量データをモデル化するのには適当でないことが分かった.さらに,モノフラクタルモデルによる水質データのモデル化について検討した.著者らは,以前にfBmよりfLmの方が適当であるという結果を報告しているが,モデルの中でホワイトノイズを発生させる際に,GEVやグンベル分布を用いることも可能であることを示した.
  • 近森 秀高, 工藤 亮治, 三宅 佑季
    p. 46-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,川井,只見,福井,五十里,岡山,津和野,尾鷲,高知,朝倉,宮古島の10地点の1978年~2017年の年最大日雨量のデータを解析対象として,それぞれに一般化極値分布を適応し,分布形の比較検討を行った。また,各地点における解析対象データに,bootstrap法を適用し,100年確率日雨量およびパラメータの分布の形状を調べた。
     得られた結果は以下のようである。
    (1)L積率法と最尤法を用いて解析対象データに適応した一般化極値分布の分布形と,プロッティングポジション公式によるプロットとを極値確率紙上で比較した結果,いずれの手法を用いた場合も,超過確率が高い場合にプロッティングポジション公式によるプロットとの乖離が見られた。また,両手法で適合度に大差は見られなかった。
    (2)解析対象データから得られるにbootstrap標本にL積率法および最尤法を用いて一般化極値分布を適用し,標本からから得られる確率に値雨量のbootstrap平均によって描かれる分布の比較を行った。その結果,非超過確率が高い部分で最尤法の分布の方がプロッティングポジション公式によってプロットされた観測雨量に近づく傾向があるという結果が得られた。
    (3)Bootstrap標本から得られた一般化極値分布のパラメータの分布と100年確率降水量の分布を比較すると,五十里と朝倉の2地点において,L積率法,最尤法のいずれを用いた場合も100年確率日雨量とパラメータkの分布に2つのピークが認められた。
    (4)2つのピークが認められた五十里,朝倉の2地点における100年確率日雨量の分布を各ピークが属する2つのグループに分割し各グループが持つ100年確率日雨量の推定に用いられた年最大日雨量のbootstrap標本が1位をとる値を持つ割合を比較した。その結果,いずれの地点においても,1位の雨量の有無によって標本が所属するグループが異なっていた。同様に,パラメータkの分布を2つのグループに分割し同様の検討を行った結果,いずれの地点においても,1位の雨量の有無によって所属するグループが異なった。これは,1位の年の年最大日雨量がそれ以外の年最大日雨量と異なる分布に属する可能性があるということを示唆している。
【研究グループ発表】9月13日(木)11:15〜12:00
  • 綿貫 翔, 田中 智大, 丸谷 靖幸, 谷口 陽子, 星野 剛, 岡地 寛季, 小坂田 ゆかり
    p. 48-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    水文・水資源学若手会(以降,若手会)は,主に水文・水資源学会(以下,本学会)に所属する博士課程学生・20代から30代の若手研究者を中心に構成され,2009年に発足した研究グループである.ここ数年の若手会は,発足当時の学位を取得したメンバーが主だった会を主催し,研究面での意見交換や共同研究の可能性など議論してきた.しかしながら,総会の活動報告で,若手会のメンバーが工学に偏っているという指摘があり,試行錯誤しながら,勉強会や現地見学会を企画してきた.

    本学会の創立30周年にあたる本年は,学会誌に特別号が組まれ,その中で若手研究者による総説原稿執筆の機会をいただいた.この機会を活用することで,より幅広い若手研究者との協働の場が得られ,また現在までの研究の軌跡を残すことができると考えられる.
    そのため,これらの背景を踏まえ,本グループ活動では,工学系以外を背景に持つ人との人脈の作成・拡大を目的として,その人脈によって見識を広げ,水文・水資源学に応用するために勉強会や討論会を通じて,議論することを目指した.さらに,上記の背景から多数の若手研究者による総説を本学会30周年記念号に寄稿した.
  • 丸谷 靖幸, 粟屋 善雄, 村岡 裕由, 玉川 一郎, 児島 利治, 原田 守啓, 斎藤 琢, 早川 博, 駒井 克昭, 呉 修一, 手計 ...
    p. 50-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    人間の多様な活動の場である流域圏では,様々な要因による自然災害(例えば洪水,土砂災害,雪害など)が発生することで,人間とその営みだけでなく,多様な生物を含む生態系や水環境に大きな影響が生じる.このような流域圏における現象を解明し問題を解決するには,例えば水文学,農学,気象学,生態学,社会学など様々な学問分野を統合させた超学際的研究を進める必要がある.これは,「従来の各学問分野で発展してきた体系を縦糸とし,“水文・水資源学会”という横断的な研究組織の創設」という”水文・水資源学会”の設立趣旨にもよく通じる.しかし,近年では“水文・水資源学会”への参加者は特定の分野に偏っており,設立当初の4本柱の「学際的かつ総合的研究を重視する」は達成されていないように感じられる.そこで本研究グループでは,流域圏における様々な課題を解決すべく,超学際的な研究コミュニティを設立し,”流域圏保全学”という新たな学問分野を醸成する.これにより,流域圏を構成する自然環境・生態系・生物多様性の保全と適応的管理,および人間社会の持続的発展の両立に貢献することを目的とする.

    2017年度の本研究グループの活動は,“流域圏保全学”に関する研究集会・セミナーや流域圏研究の展開に関するワークショップを企画した.これらの活動について,研究発表会において報告する.
  • 木村 匡臣, 渡部 哲史, 五名 美江, 中村 晋一郎, 乃田 啓吾, 西原 是良, 田中 智大
    p. 52-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    中山間地域は日本の国土の約7割を占め,我が国における水循環を大きく決定づける要素といえる.しかし少子高齢化や地域の過疎化,農産物や木材の価格低迷の影響を受けて耕作放棄地の増大や森林管理の粗放化が進み,気候変動による豪雨の頻発化やこれらに起因する水害リスクの増大が中山間地域の持続可能性に大きく影響を与えていると考えられる.

     本研究グループは,河川工学,農業土木学,森林水文学,農業経済学等の分野の若手研究者により構成され,中山間地域における治水対策の在り方や水文学的観点から見た課題について検討することを目的に設立された.本研究グループはこれまでに,2009年に水害が発生した兵庫県佐用町を対象として旧町単位の追跡調査を実施し,水害が地域社会へ与える長期的な影響を明らかにしようと取り組んできた.

     今年度は,1)これらの成果を地元へフィードバックし関係者を通じて議論をさらに深め,2)これまでの知見を基に対象を拡張し,全国の水害常襲地に向けて展開するためのプレ調査を実施した.さらに,3)中山間地域における水害リスクや持続的な農山村の在り方を学際的に検討する上で欠かせない,ため池のもつ役割の重要性に着目し,その多面的評価指標の開発や持続的な維持管理方策の提言へ向けた研究に着手した.

     特に3点目に関しては,これまでに得られた知見を発展させた新たな学際的研究テーマに取り組みはじめ,外部研究資金助成へ申請をして採択されたことは,本研究グループ活動の大きな成果であるといえる.今後は,ため池の評価に関してすでに扱われている要素・手法を精査し,新たに追加する社会的要素などの項目を検討した上で,ため池基本諸元,水文情報,社会的要素,維持管理に関する情報等を収集し,物理的要素や生態環境的要素について計測・調査を実施する予定である.
【蒸発散・融雪・森林水文】9月14日(金)9:15〜10:30
  • 小杉 緑子, 高梨 聡, 野口 正二, 伊藤 雅之, 中路 達郎, 鎌倉 真依, 東 若菜, シティ アイシャ, マリアンナ リオン
    p. 54-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    熱帯雨林機能の評価は、世界的にも重要な課題と目されており、数々の数値実験や衛星データを使った広域マッピングなどが世界中でおこなわれているが、水の影響を定量評価するのに、数値モデリングによる解析や、年・月単位降水量・土壌水分等との単なる相関解析だけでは不十分である。現地測定に基づくガス交換の動的変動に関する詳細な情報に基づいて生態系の反応特性を定量化する作業が不可欠であるが、そのような情報はこれまで限られてきた。15年に及ぶ連続した生態系フラックスデータを有し且つ情報を発信している熱帯雨林サイトは世界中でわずか数箇所であるが、本研究ではそのうち1つ、半島マレーシアのパソ森林保護区における長期観測を元に、熱帯雨林における蒸発散の恒常性について報告する。
  • 鎌倉 真依, 小杉 緑子, 鶴田 健二, 井上 直樹, 東 若菜
    p. 56-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    自然条件下での水ストレスの大きさの違いにより、樹木の通導系のどの部位に、どの程度の通水性の変化が生じるのかを詳細に把握するために、滋賀県大津市の桐生水文試験地に生育する60年生ヒノキ個体(樹高23 m, DBH15 cm)を対象に、幹下部、幹上部および主枝にサイクロメータを設置し、2014年7月より水ポテンシャル測定を開始した。並行して、テンシオメータ法による土壌水ポテンシャル測定、グラニエ法による幹下部、幹上部および主枝の樹液流速度の測定も行った。また、二週に一度、樹冠内三高度でLI6400による個葉ガス交換速度測定、プレッシャーチャンバー法による側枝および葉の水ポテンシャル測定を行った。2016年6月からは、二週に一度、プレッシャーチャンバー法により細根の水ポテンシャルを測定した。
    水ポテンシャル値は、水の流れに従い土壌>幹下部>幹上部>主枝>側枝>葉となった。幹および主枝の水ポテンシャルの日変化はVPDの変化とよく一致し、降雨時にはゼロ付近を示した。もっとも長期間測定した幹の水ポテンシャルの季節変化をみると、夏から秋にかけて上昇傾向が見られた。
    土壌-幹-枝-葉の水ポテンシャル差と個葉蒸散速度を用いて、樹体内の通水コンダクタンスを計算すると、土壌―幹および幹―葉の通水コンダクタンスは同程度であった一方で、側枝―葉の通水コンダクタンスは比較すると非常に大きく、この部位には水輸送抵抗が殆どかかっていないことが示された。従って、樹体内の水輸送抵抗は、土壌から幹へ、また幹から主枝へと水が輸送される際に大きいと考えられる。また、幹と樹冠内三高度における葉の通水コンダクタンスを比較すると、上層ほど通水コンダクタンスが大きかった。これは、光が良く当たる上層の葉ほど高い通水性を維持しながら高い光合成速度および気孔開度を実現していることを示している。
    一方、晴天日の朝方に、幹上部の水ポテンシャルは、幹下部よりも約2時間遅れて低下を開始し、夕方の水ポテンシャルの回復も遅れた。同様のタイムラグは樹液流速度の観測結果からも確認された。このことから、ヒノキでは、前日に樹体内に貯留した水を翌日の蒸散に利用していることが示唆された。
    当日の発表では、細根の水ポテンシャル値も加えた樹体各部の通水コンダクタンスを示す。また同試験地内に生育する100年生ヒノキ個体の水利用特性との比較検討も行う予定である。
  • 村上 茂樹, 竹内 由香里, 庭野 昭二
    p. 58-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    1.はじめに

    融雪は主に放射Rnによって起きるとする報告が多く、顕熱H、潜熱λEの占める割合は小さいとされてきた。しかし、これらの割合は裸地と森林で異なり、また森林の構造の違いにも依存すると推測される。そこで本研究では、裸地と開空度の異なる3種類のスギ林において融雪・気象観測を行い、これら4地点における熱収支(RnH、及びλE)の違いを検討した。

    2.方法

    森林総合研究所十日町試験地の気象・降積雪観測露場(以下、裸地と呼ぶ)、及びスギ林A(疎林)、スギ林B(適正密度林)、スギ林C(過密林)において日融雪、及び気象観測(毎時)を行った。日融雪観測は、裸地では20日間、各スギ林では21日間行った。融雪に使われる放射、顕熱、及び潜熱は、バルク式を用いた熱収支モデルを適用して算出した。バルク係数は日融雪観測の結果と一致するように試行錯誤で決定した。モデルの適用期間は2005年4月1日から消雪までの間である。

    3.結果

     裸地では融雪の9割が放射によるもので、顕熱と潜熱の占める割合はわずかである。スギ林Aでは放射の割合が4割で、顕熱と潜熱は約3割であった。スギ林B、Cでは顕熱が融雪に占めるエネルギーの中で最大となっており、潜熱も約3割と大きな割合を占めている。毎時の熱収支計算結果を見ると、4月上旬にはすべての地点で放射がいちばん大きく、次いで顕熱、潜熱が融雪に寄与している。4月中旬には裸地とスギ林Aでは上旬と同じ順であったが、スギ林BとCでは放射と顕熱がほぼ等しく、潜熱がいちばん小さい。裸地ではこの状態が消雪まで維持された。スギ林では4月下旬から5月にかけて顕熱と潜熱がほぼ等しく、放射は最小となった。

    4.考察と課題

     観測地は緯度が北緯37°、標高が200mと比較的低く、消雪が4月下旬から5月となる年もある。このような条件下では融雪末期の最高気温が25℃にも達し、顕熱と潜熱の寄与が大きくなると推測される。しかし、裸地は林内よりも風速が大きい。それなのになぜ顕熱と潜熱の寄与が林内よりも小さいのかは今後明らかにすべき課題である。
  • 平岡 ちひろ
    p. 60-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    水不足が深刻な中央アジアの人々は周囲の山岳の氷河融解に依存した生活を強いられている.今後の適切な水利用計画のためにも,より正確な水・熱収支解析が必要である.アラル海の水収支解析を行った峠の研究(峠,2014)によると,陸面過程モデルSiBUCでは高標高域における熱供給量が過大評価されているためか,3,4月の河川流量が実測値より過大に算出される,つまりまるで春が始まった途端氷河融解が進んでいるかのような解析結果が出ている.本研究では,SiBUCにおける熱供給量の過大評価は気温に起因すると考えた.というのも本解析に用いたデータの一つである再解析データJRA55は解像度が1.25°のため,その値は100kmあまりの格子の代表値に過ぎない.より高い解像度で計算する際は,例えば気温であれば100mごとに0.6℃変化するというように標高依存させ,内挿して算出する.そこで,春の融雪が過大になる背景は,積雪のある高標高域のグリッドの気温を計算するために,積雪のない低標高域のグリッドの実測気温データを用いることにより,積雪域の高標高域の気温を過大に算出しているためという仮説を立て,気温の標高依存性の有効性を確認する実験(①)を行った.実験には当研究室によりキルギスの山岳の2か所で観測したデータを用いた.2か所とは図2に示されている標高3429mの氷河観測地点と標高2571mのベースキャンプを指す.また,このデータと再解析データJRA55を用い,気温のみならず各気象強制力が氷河融解量に及ぼす影響を調べる感度実験(②)を行った.標高依存による内挿が気温を過大に算出しているという仮説の実証を試みた実験①の結果は,日中の気温についてのみそれが証明できた.一方夜間は予想と反対の結果になった.融解量については本解析では気温以上に放射量の影響の大きさが結果に現れた.実験②の結果は,JRA55における気温や短波・長波放射などの気象強制力が実測データと大きく異なる値を見せ,とりわけ放射の差異が如実に融解量の差に現れていることがわかった.当初は気温にのみ注目していたが,気温以外のずれも水収支解析の正確性に影響していることが判明したことが大きな収穫である.今後は短波・長波放射も考慮して解析を行い,最終的には標高依存の他に最適な内挿法を模索していきたい.
  • 勝山 正則, 尾坂 兼一, 芳賀 弘和
    p. 62-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    気候変動に伴う極端豪雨現象が増加している現状では、各種水文パラメータの素早い変動を捉えることの重要性が増していると考えられる。本研究では、日本初の適用事例として、光学センサーを用いた森林流域において渓流水中の硝酸イオン濃度の連続観測を行った。これを元に、流量-濃度関係から濃度変動および栄養塩輸送の実態を明らかにし、森林の水質浄化機能を定量的に評価することを目的とする。

    観測は滋賀県南部に位置する桐生水文試験地において行った。流域下端の量水堰地点において2016年夏期から10分間隔で光学センサーを用いた硝酸イオン濃度の連続観測を行っている。

    観測期間中、平水時の濃度は概ね0.02 mmol L-1程度で季節による変動はあまり見られなかった。これに対し、年間を通じて降雨に伴う流量増加時には濃度が上昇していたが、冬期に比べて夏期には濃度のピークが特に大きくなる傾向が見られた。降雨時の採水結果と比べると、最短1時間間隔の採水では十分に把握できなかった、より短時間間隔での水質変動が見られた。
    2017年夏期(6-8月)と2018年冬期(1-3月)において、同程度の降水量・流量の降雨イベントごとに流量-濃度関係を比較した。降水量が増加し流量ピークが大きくなると反時計回りのヒステリシスが見られるようになったが、これは降雨によって流出寄与域が拡大し、流量の低減時に硝酸イオンを多く保持する斜面部からの流出への寄与があるためと考えられる。しかし、ヒステリシスの発生の有無やパターンは一様ではなく、流量に対して濃度が一義的に決まるものではないことが分かる。これまで、限られた濃度観測データから流量-濃度関係、あるいは流量-負荷量関係を定式化することが広く行われてきたが、より短時間間隔のデータを見ると、そのパターンを定式化することは容易ではない。一方で、流量観測の精緻さに対応できる濃度データが取得されることにより、例えば河川からの負荷量推定を行う上で、両者の関係を定式化する必要はなく、正確な負荷量が計算できることになる。
【水質水文】9月14日(金)10:45〜11:45
  • 久保田 富次郎, 李 相潤, 申 文浩, 恩田 裕一, 加藤 弘亮
    p. 64-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    2011年3月に発生した東日本大震災に起因する東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い放射性物質の拡散が生じた。地上に沈着した放射性物質は、水の動きを通じて移動することが想定されるので、渓流水を農業用水等で利用する場合、その流出特性を把握することが重要である。本研究では、阿武隈山地の森林を主体とする小集水域からの放射性セシウムの流出実態と合わせて、特に流出率について検討した。その結果、2014~2016年度の3年間において総沈着量に対するCs-137の流出率で0.03~0.10%程度であった。また、Cs-137の流出は、大きな出水イベントの影響を強く受けることがわかった。
  • 浅野 匡, 千田 眞喜子, 大野 研, 葛葉 泰久
    p. 66-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    四日市市の自噴井戸の水質を調べた.四日市市では,上水道の水源として,70%程度を地下水に頼っている.そのため,地下水の水量だけでなく,水質を調べることは非常に重要である.これが我々の研究の動機である.結果として,自噴井戸の深度が水質に大きく影響していることが分かった.例えば,深い自噴井戸ほど,ナトリウムイオンの濃度が大きく,カルシウムイオンの濃度が小さかった.
  • 森 正憲, 古賀 佑太朗, 鈴木 元治, 嶋寺 光, 松尾 智仁, 近藤 明
    p. 68-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    1990年代後半より播磨灘では貧栄養化が深刻となっており,解決のための適切な栄養塩管理の実施が急務である.本研究においては長期の栄養塩解析の基礎研究として,播磨灘へ栄養塩を供給する役割を果たす流入河川の中で最大の流域面積を持つ加古川を対象に,水文・水質モデルを構築し,総窒素動態解析を行った.総窒素の発生源としては,流域内の点源として下水処理場と事業所,土地利用別の原単位を用いての面源からの降雨流出を考慮した.結果として,流量および平水時の総窒素濃度の再現性は良好であった.一方で,降雨時の総窒素濃度が過大評価であり,山林からの面源負荷の改善の必要性が示唆された.
  • 田中丸 治哉, 山本 楓子, 多田 明夫
    p. 70-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    高頻度でナトリウムイオン濃度データが観測されている奈良県の山林小流域に,長短期流出両用モデルにべき乗型LQ式を組み合わせた流出負荷量推定モデルを適用し,10分,1,4,7,14日間隔の定期観測方式で得た水質データに基づいてLQ式のパラメータを同定した場合のモデル再現性を調べた.その結果,4日以上の観測間隔の水質データによると,モデルの再現性がかなり劣化することが示された.一方,一定積算流量方式で抽出した水質データに基づいてパラメータを同定した場合は,少数の水質データであっても再現性がかなり良好となることが示された.
【降水・流出】9月14日(金)12:45〜14:15
  • 小西 大, 山口 弘誠, 中北 英一, 土橋 知紘
    p. 72-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    都市の熱や形状効果によって発生した熱的上昇流がどの様な条件で大気境界層を突破して積雲を生成するかを解析する事を目的とする。都市気象LESモデルを用いて夏季晴天日における神戸市上空の熱的上昇流を対象としたシミュレーションを行った。結果、境界層レーダーを用いてモデルの妥当性の評価を行った。さらに、大気境界層を突破する熱的上昇流について2つの要因を確認した。1つは、強い熱的浮力、もう1つは、別の熱的上昇流による安定層の解消である。また、上昇流と渦管の関係性も示唆され、今後詳しい解析を行っていく。
  • 山口 弘誠, 堀池 洋祐, 中北 英一
    p. 74-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    数時間~半日程度の時間スケールと50~100km程度の空間スケールをもつ線状降水帯予測において,データ同化の効果が支配的なスケールについて検討することを目的として,複数スケールのデータ同化実験を行った.その結果,既往研究ではほとんど行われていない融解層高度以上の降水粒子を同化することによる有効性を示した.また,対象とする雨雲でなく,その環境場に影響を与える別の降水システムを同化するというレーダーデータ同化における新たな方向性を示した.さらに,線状降水帯より小さなスケール,同スケール,大きなスケールの3つのスケールにおけるレーダーデータ同化の効果を示した.
  • 田中 賢治, 安富 奈津子, 田中 茂信, 樋口 篤志, 豊嶋 紘一, 谷田貝 亜紀代
    p. 76-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    本発表では、日本域高解像度日降水量グリッドデータAPHRO_JPについて、新たに追加した水文・水質データベース(http://www1.river.go.jp/)の2683地点の雨量計データが気候値や極値にどの程度の差をもたらしたかを報告する。
    本研究では孤立異常値の検出レベルを修正し、誤って異常値と検出した観測データを内挿計算に戻すプロセスを導入した。
    年降水量の空間分布の大まかな分布に違いは見られないものの、アメダスのみのプロダクトに対して大きな場所で1100mmもの差が出た。30年確率日降水量では大きな場所で290mmもの差が出た。
  • 吉兼 隆生, 芳村 圭
    p. 78-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    近年,気象衛星を含む気象観測データが充実し,スパコンを用いた数値予報の精度も向上している.しかし,いつ,どこで,どのくらいの降水があるのかなど,地域詳細な気象予報については十分な精度が得られていない(図-1).理由の1つとして,短時間で大きく変化するメソスケール現象(数百キロ以下の規模を持つ気象システム)の予測が難しいことが挙げられる.個々の積雲対流の形成プロセスや細かい地形の影響を含めて予測を行うには,数値モデルの高解像度化が不可欠だが,様々な技術的要因から現状では実現が難しい.さらに,実際の地形とモデルの平滑化された地形との違いなどが複雑に作用して顕著な降水バイアスが生じる.降水バイアスは,河川での流量予測や土砂災害危険地域の予測,洪水氾濫地域の予測の精度向上を妨げる一つの要因となる.局地的な気象災害による被害を少なくするためにも,バイアスの低減は不可欠である.本研究では,機械学習を用いて観測降水とモデル降水分布パターンの関係性を示し,それを基にバイアスを補正し局地降水予測を試みる.
  • 谷 誠, 佐山 敬洋, 松四 雄騎
    p. 80-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    斜面水文学の研究によって、洪水流出経路の多様性とその中での流れの相互作用が見いだされてきた。しかし、洪水総量が降雨総量にほぼ等しくなるような大規模出水の場合には、土壌マトリクスや選択的流路を含む洪水流出にかかわる斜面土壌層内の経路はすべて洪水流出応答を産み出すのに寄与するので、その応答がハイエトグラフからハイドログラフへの波形変換として、土壌物理学的な原理を用いて比較的容易に解析できる。本発表では、物理的根拠のある流出モデルの開発を行うため、多様な洪水流出機構における普遍性を見出すことを目指す。
  • 山崎 大
    p. 82-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
    会議録・要旨集 フリー
    高解像度の「表面流向データ」は大陸~全球スケールでの陸域水循環を対象とする幅広い研究分野で必要とされる。現在広く使用されている既存データHydroSHEDSは約10年前に開発されたもので、陸域水循環の最先端研究に耐えうる精度を持っていない。高精度の表面流向データの構築には地表水の流下方向算定のために詳細な地形情報が必要だが、高精度の標高データが存在せず、また細い水路や運河といった詳細な地形の表現が難しいため、全球スケールでの表面流向データの自動構築はこれまで不可能とされていた。

     従来は「標高データから地形勾配をもとに表面流向を計算し、現実的でない場合は手作業で修正する」という繰返し手法が用いられた。そのためHydroSHEDSの場合、2005年の開発着手から完成まで約5年が必要であった。しかし現在、より高精度の全球標高データ・衛星観測による高解像度水面マップ・オープンな全球デジタル地図など様々な地理情報ビッグデータが登場し、さらに計算機の能力も飛躍的に向上している。本研究は、表面流向データ開発は膨大な手作業が必要という常識を見直し、地理情報ビッグデータを効果的に統合して表面流向を自動構築できるアルゴリズムを開発し、全球90m解像度で表面流向データを整備した。
【流域水管理・水環境・その他】9月14日(金)14:30〜15:45
  • 呉 映昕, 中北 英一
    p. 84-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    To better assess hillslope stability for a correct landslide prediction, one requires a precise model for simulating three-dimensional groundwater table within a hillslope. This study presents our recent development of a depth-integrated model for shallow subsurface flow in unconfined hillslope aquifers. With the depth-averaging method, we have derived a perturbation solution of Boussinesq-type groundwater table equation. The leading-order evolution equation having strong advection, nonlinear diffusion and source terms is used for numerical solution. To efficient and accurate numerical calculation, we utilized a new relaxation scheme of high-resolution Godunov-type finite volume method. A special numerical treatment to the nonlinear diffusion term is adopted for assuring the property of numerically well-balancing. To better model real subsurface flow, a theory for unsaturated zone is also involved as a correction in our model. Some cases are conducted for verifying our new model. This work is supposed to provide a new model for efficiently simulating the three-dimensional subsurface flow in unconfined hillslope aquifers.
  • 仲田 英人, 篠崎 由依, 白川 直樹, 藤原 誠士
    p. 86-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    環境流量を効果的に設定するためには,大まかな流況パターンとそこに存在する生態系の特徴を知る必要があるが,発展途上国等の地域において生態系の特徴を現地で調査するのは困難である.そこで環境流量設定のための地域区分として,篠崎ら(2012)は水文気候区分を提案した.これは,流況の特徴に着目することで河川生態系の特徴をある程度表現できるという仮定に基づいている.しかし,この気候区分には問題点がある.1つ目は,生態系の特徴や構造が異なる地域が同じ区分に分類されるケースや,反対に生態系の特徴や構造が同じ場所が異なる区分に分類されるケースがある点と旧気候区分では各区分が離散的に分布し,環境流量設定の際に区別したい流域や大河川の上下流などによって包括される河川生態系のまとまりをうまく表現できていない点である.従って本研究では,この問題点を改善した新たな水文気候区分を作成し,さらに淡水魚類の分布特性からみた妥当性の検証を行う.1つ目の問題を解決するために,熱帯低気圧通過の有無を考慮することで,東南アジアやアメリカ南東部を安定型から差別化する.また,流量よりも最寒月平均気温を重視することで,融雪出水のある地域と熱帯地域を区別する.2つ目の問題点に関して,上の改善で得られた新気候区分が地理的にどの程度のまとまりを有しているか確認するために,まとまり率を用いて評価する.改善の結果,融雪出水のある地域を総じて融雪出水型に区分することができ,また,台風やハリケーンによる出水が特徴的な東南アジアやアメリカ南東部を,季節型として安定型から区別することができた.また新旧の水文気候区分でまとまり率を比較しところ,新区分では極乾燥地を除くまとまり率が旧区分に対して10%近く上昇した.さらに,気候条件と流況から作成した新区分が,実際の河川生態系の特質を反映できているのかを確認するために,魚類の分布特性に着目して検証を行った.検証には淡水エコリージョン(FEOW)を使用した.FEOWと新水文気候区分を重ね合わせた結果,一致率が向上していることがわかった.さらに,淡水魚類の固有種レベル,生物多様性レベル,通し回遊魚の有無を利用し,各FEOWに対応する代表水文気候区分に淡水魚類の分布特性に関するデータと比較した結果現実の魚類の分布傾向をより良く表現できていた.
  • フジャナザロフ テイムール, Touge Yoshiya, Mbugua Jacqueline, Tanaka Kenji, Toderic ...
    p. 88-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    Central Asia has been seriously impacted over the water resources availability. One of the important issue in the region is increased salinization of the soils and the water mineralization moving to the downstream of the river flow of all major rivers in the region. Arid climate implies increased evapotranspiration rate that consequentially increases sedimentation of the water containing salts after drainage waters are flown back to the river streams. Furrow irrigation that is common here, floods fields with great amount of water that serves two purpose, first it increases soil water saturation and second removes salts from the soils. However, this cost in decreasing water quality all the way to the downstream of the river flow. Here we investigate impact of the salinity impact to the crop water demand and water quality following river flow. In this research we investigate these issues on the case study of Zeravshan river basin.
  • メルカド ジーン マーガレット ロセス, 河村 明, 天口 英雄
    p. 90-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    An integrated flood risk management (FRM) plan was established in the Philippines for the first time in 2012 after the disastrous flooding brought by Typhoon Ondoy in 2009. It is a crucial task to identify and analyze the barriers that may hamper the effective implementation of the FRM plan. In this study, barriers to FRM were identified from a collection of literature related to flooding then interrelationships among barriers were analyzed by conducting a pairwise assessment by experts. Barriers to FRM in Metro Manila are found to be related to three aspects. There are 4, 3 and 5 barriers identified in the governance, social and scientific resources aspect, respectively.
  • 乃田 啓吾, 木村 匡臣, 牧野 達哉, 山縣 聖, Douangsavanh Somphasith, Keokhamphui Keodua ...
    p. 92-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    本研究では,ラオス・ビエンチャンを流れるマグヒアオ川の水質の季節変動を把握することを目的とし,雨季および乾季にそれぞれ2回ずつの現地調査を実施した.その結果,いずれの観測点においても,雨季の8月,10月の流量は,乾季の12月,2月の流量よりも大きかった.雨季の2回を比較すると,多くの観測点で10月の流量が8月の流量よりも大きかったが,水田灌漑が実施されている小流域では,2倍以上の差があった.これらの上流に位置する灌漑地区では,ナムグム川を水源として利用しており,対象流域外からの水の流入によって比流量の値が大きくなったと考えられる.一方,都市部からマグヒアオ川への合流点においては,雨季の値よりは小さいものの,乾季においても顕著な流量が観測された.これは,日常生活からの排水は,降雨の寡多によらず生じるためである.
    全窒素,全リン,リン酸態リンおよび全有機炭素は,雨季には流下に従って徐々に増加し,乾季には都市郊外で減少した.前者は、支流からの環境負荷の流入と降雨流出による沈降物の巻き上げが要因と考えられる.一方、後者は、マグヒアオ川河道内での沈降または浄化機能によるものと考えられる.
【気候変動・地球環境】
  • Anwar Tinumbang Aulia Febianda, 萬 和明, 立川 康人, 田中 智大, Kim Sunmin, 市川 温
    p. 96-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    In this research, a first trial of NHRCM 5km simulation result in Thailand provided by Japan Meteorological Agency Meteorological Research Institute (JMA/MRI)is evaluated from river discharge view point. First, the accuracy of NHRCM 5km rainfall data is evaluated by comparing with APHRODITE observation data. The result shows underestimated value in the most of region in Thailand, except in the northern region which almost corresponds to Bhumibol dam catchment. The river discharge simulation is perfomed in the upper catchment of Bhumibol dam (area: 26,000 km2) using a coupled of SiBUC and 1K-FRM model. Overall, the river discharge simulation shows consistency result with rainfall analysis.
  • 海熱提 阿力甫, 平林 由希子, 山崎 大, 田上 雅浩
    p. 98-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    Heavy precipitation events have been increased in recent years and it caused due to human-induced global warming. The latest IPCC-AR5 showed the global warming affects the scale and frequency of floods. However, with regard to extreme events, such as floods, there have been no studies being conducted the past flood changes in Asia region. Therefore, this study uses Even Attribution (EA) technique based on four different conditions (time period and with or without anthropogenic forcing) of EA experiment data derived from MIROC5-AGCM and CaMa-Flood model to quantitatively investigate the contribution of global warming to the Asian floods. The final result indicated that human-induced climate change increased the probabilities of the Songhua river floods in 2013 and the Yalu river floods in 2010 by 43-62% and 39-42%, respectively. Anthropogenic warming had almost no effect on the Indus River floods in 2010. In the case of the Brahmaputra river, fraction of attributable risk of two different EA experiments NAT (only natural forcing) showed the different trends.
  • 高薮 出, 仲江川 敏之, 佐々木 秀孝, 石井 正好, 村田 昭彦, 吉田 康平, 伊東 瑠衣, 坪木 和久, 金田 幸恵
    p. 100-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    本稿では、統合的気候モデル高度化研究プログラム領域テーマC「統合的気候変動予測」の3つの領域課題の研究方法と成果の一部を概括する。領域テーマCは、(i)「高精度統合型モデルの開発」、(ii)「汎用シナリオ整備とメカニズム解明」、(iii)「高精度気候モデル及び評価結果のアジア・太平洋諸国への展開と国際貢献」の3つの課題で構成されている。日本域の汎用気候予測データを創出するために、気象研で開発した全球-領域気候温暖化予測システムを用いる。このシステムは、現在気候再現性を高精度に保つために、CMIP5大気結合モデルの結果を直接力学的ダウンスケールするのでなく、高解像度大気モデルによる全球力学的ダウンスケールから、領域ダウンスケールを行うところに特徴がある。具体的な研究成果として、2km格子の雲解像地域気候モデルを用いた21世紀末を対象としたアンサンブル気候実験による1時間強雨変化予測、全球60km大気モデル大規模アンサンブル実験による台風の将来変化予測を紹介する。
  • 細田 育広, 澤野 真治, 玉井 幸治
    p. 102-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/28
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    現在気候においても渇水リスクが比較的高い竜ノ口山森林理水試験地(34° 42′N, 133° 58′E)周辺にダウンスケールした世界気候研究計画第5期相互比較計画における3つの代表濃度経路シナリオと6つの大気循環モデルによる計18通りの出力に基づく気候シナリオデータは、いずれも2009-2012年の期間において、年間降水の量・頻度ともに観測値よりも少なかった。特に日降水量20mm以下の発生頻度が顕著に下回った。そこで観測値における降雨日の相対湿度と日射量の月平均値を指標とするシンプルな補正法を考案して適用したところ、気候シナリオデータの降水量・頻度は観測値にほぼ近似した。降水補正した2100年までの気候シナリオデータを、基盤地質の異なる7つの流域の水流出モデルに入力して出力結果を降雨補正無しの場合と比較すると、より大きい気温上昇を想定した気候シナリオのデータほど月流出水量の増加が顕著であるとともに、気候シナリオ毎のモデルアンサンブル最小値の増加率が高かった。本研究の降水補正法により生じる量的変化は小さいものの、気候シナリオデータの元々の傾向を損ねることなく、未補正の気候シナリオデータが降水実態に比べて量・頻度ともに少ないことに由来する渇水リスクの過大評価を緩和しうると考えられた。
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