熱慣性は、体積熱容量と熱伝導率の積の平方根と定義される物理量である。土壌の体積熱容量も熱伝導率も含水率が高いほど単調に増加する性質を持っている。この性質を利用して熱慣性の推定値から土壌含水率を推定する研究が種々行われてきた。本論文は、熱慣性による土壌水分推定法の概略を示すとともに、この方法の今後の展望と課題について論じることを目的とする。
熱慣性を求めるための基本方程式は熱拡散方程式である。地表面温度の日周期解と半無限深さにおける温度が一定であることを境界条件とする。これにより地表面における地中伝導熱を地表面温度のみによって表現できる。初期のモデルは地表面温度の時間変化について日最高・最低地表面温度差を地表面の境界条件とともに用いた。
Xue and Cracknell(1995)地表面温度の日変化についてフーリエ級数展開を導入し、その第1及び第2成分に地表面温度測定値等を代入することで熱慣性値を算出した。
一方、Matsushima(2007)~Matsushima et al.(2018)は強制復元法を用いた。強制復元法を用いると任意の時刻の地表面温度を用いることができる。一方、詳細な気象データの時系列を入力する必要がある。
熱慣性と土壌水分の関係式としてJohansen(1975)による熱伝導率モデルの類推により提案された同型の熱慣性モデルがある。一方、Matsushima et al.(2017)はNoilhan and Planton(1989)のモデルに基づいた異なる関係式を提案した。本式は土壌の種類を推定できる可能性がある。
XCモデルに基づいた一連のモデルとMatsushimaを中心に開発されてきたモデルについて、土壌水分推定精度に有意な相違はない。各モデルとも密な植生における推定精度の向上が課題である。土壌が凍結した場合の検証も特になされていない。土壌融解初期は土壌飛散が発生しやすく、その発生予測への応用にとって重要である。マイクロ波データと陸面過程モデルや衛星の可視・赤外データとの同化を目指した研究は熱慣性研究と競合するだろう。
一方、衛星地表面温度の空間分解能の改善や、曇天時におけるマイクロ波輝度温度による熱赤外地表面温度の補正法の提案は好材料である。GSMaPによる降水量データと組み合わせた水収支解析に適用できる可能性がある。
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