抄録
気候変動に伴う極端豪雨現象が増加している現状では、各種水文パラメータの素早い変動を捉えることの重要性が増していると考えられる。本研究では、日本初の適用事例として、光学センサーを用いた森林流域において渓流水中の硝酸イオン濃度の連続観測を行った。これを元に、流量-濃度関係から濃度変動および栄養塩輸送の実態を明らかにし、森林の水質浄化機能を定量的に評価することを目的とする。
観測は滋賀県南部に位置する桐生水文試験地において行った。流域下端の量水堰地点において2016年夏期から10分間隔で光学センサーを用いた硝酸イオン濃度の連続観測を行っている。
観測期間中、平水時の濃度は概ね0.02 mmol L-1程度で季節による変動はあまり見られなかった。これに対し、年間を通じて降雨に伴う流量増加時には濃度が上昇していたが、冬期に比べて夏期には濃度のピークが特に大きくなる傾向が見られた。降雨時の採水結果と比べると、最短1時間間隔の採水では十分に把握できなかった、より短時間間隔での水質変動が見られた。
2017年夏期(6-8月)と2018年冬期(1-3月)において、同程度の降水量・流量の降雨イベントごとに流量-濃度関係を比較した。降水量が増加し流量ピークが大きくなると反時計回りのヒステリシスが見られるようになったが、これは降雨によって流出寄与域が拡大し、流量の低減時に硝酸イオンを多く保持する斜面部からの流出への寄与があるためと考えられる。しかし、ヒステリシスの発生の有無やパターンは一様ではなく、流量に対して濃度が一義的に決まるものではないことが分かる。これまで、限られた濃度観測データから流量-濃度関係、あるいは流量-負荷量関係を定式化することが広く行われてきたが、より短時間間隔のデータを見ると、そのパターンを定式化することは容易ではない。一方で、流量観測の精緻さに対応できる濃度データが取得されることにより、例えば河川からの負荷量推定を行う上で、両者の関係を定式化する必要はなく、正確な負荷量が計算できることになる。