水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2021年度研究発表会
セッションID: OP-10-08
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気候変動・地球環境(3)
全球水文モデルパラメタの推定:気候区分に基づく同定可能性と不確実性
*吉田 武郎花崎 直太仁科 一哉Boulange Julien岡田 将誌
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抄録

全球水文モデルは,地球の水循環と水資源を分析するための不可欠なツールであり,これまで開発・利用に多くの努力がなされてきた.一方で,多くの全球水文モデルではパラメタの同定が行われないか不十分な状態であり,重要な出力変数である河川流量の不確実性が大きいことが指摘されている.全球水文モデルのパラメタ同定で大きな困難として,多数の計算を全球規模で行うことによる膨大な計算負荷や,未観測流域でのパラメタ推定が挙げられる.全球スケールでは,観測流域は陸域の約50%しかカバーしておらず,特に後者の解決が必要とされる.本研究では,気候特性が水文モデルのパラメタ地域化に卓越した影響を持つことを前提に,類似した気候特性の流域群に共通する代表的なパラメタセット(気候代表値)を推定する.次いで,気候代表値による計算値を,全球一律で同定したパラメタ値およびデフォルトパラメタ値による計算値と比較するとともに,気候代表値の不確実性やその物理的な解釈について考察し,手法の評価を行う.この論文は,全球水文モデルを用いてパラメタの地域化を行い,未観測流域でのパラメタの同定可能性や不確実性の評価を目指した最初の試みである.代表性を担保したロバストなパラメタ決定手法として,NSEの上位5%で採択したパラメタの事後分布から,中央値を選択する手法を提案した.気候区分ごとに同定したパラメタにより,デフォルト・全球一律で設定したパラメタより流量の予測精度は大きく上昇し,全球の30.1%の流域でNSE>0.5,61.7%の流域でNSE>0.0の結果が得られた.さらに,気候区分ごとに得られたパラメタの差違は,水文循環に関するこれまでの物理的な解釈とも整合しており,未観測流域に適用する際の確度を高める結果が得られた.

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© 2021 水文・水資源学会
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