水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2021年度研究発表会
選択された号の論文の189件中1~50を表示しています
気候変動・地球環境(1)
  • Padiyedath Gopalan Saritha, Hanasaki Naota
    セッションID: OP-1-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    Climate change is expected to exacerbate the flood risk through more frequent and intense precipitation, especially in countries of the Southeast by the end of the 21 st Although the water diversion systems play a crucial role in assuaging the flood risk, their explicit inclusion into the global hydrological models (GHMs) is still in the pioneering stage. Therefore, the objective of this study is to include the diversion canal system into the H08 GHM and analyze its effect as an adaptation strategy to control the floods in the Chao Phraya River basin (CPRB), Thailand for the historic (1980-1999) as well as future (2080-2099) scenarios under RCP 4.5 and 8.5 emission scenarios. The results revealed that although the number of future flooding days can be reduced considerably, the flood risk is still quite high in the CPRB, which further calls for the combined adaptation options.

  • 小坂田 ゆかり, 中北 英一
    セッションID: OP-1-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    日本の梅雨集中豪雨の中には,2017年九州北部豪雨のように梅雨前線から南に離れた場所で発生する非常に局所的なバックビルディング型の線状降水帯,そして2020年球磨川豪雨のように梅雨前線による大きな収束によって,前線と近い位置で発生する少し大きなスケールの線状降水帯が存在することが明らかになってきている.こうした梅雨豪雨に関しては,全球平均気温が約4℃上昇する21世紀末の将来気候シナリオにおいては,その発生頻度や雨量が増加することがこれまでに示されてきた.そうした状況の中で,今後は21世紀末という時間的に離散な将来変化予測だけでなく,10年後,20年後という時間連続的な将来変化予測,さらに気温の変化率に対する極端現象の変化率(スケーリング)も連続的に評価していくことが非常に重要となる.筆者らは,全球平均気温約4℃上昇のRCP8.5シナリオ,及び全球平気温約2℃上昇のRCP2.6シナリオに基づいて計算された5km解像度の気候モデルNHRCM05の降雨出力から梅雨豪雨を抽出することで,温暖化程度が強くなるにつれて梅雨豪雨の総雨量が徐々に増大していくことを示した.そこで本解析では,RCP8.5シナリオとRCP2.6シナリオを用いてそれぞれ梅雨線状降水帯の擬似温暖化実験を行った.今回は,局所的なバックビルディング型の線状降水帯(以下,線状対流系と記す)を対象に解析を行った.本解析では,梅雨豪雨の段階的な将来変化予測とそのメカニズムの解明を目指す.

  • 艾 治頻, 花崎 直太, 石濱 史子
    セッションID: OP-1-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    Desalination water gradually becomes a vital source of freshwater supply to the coastal water scarcity regions. Information on the geographical distribution of global seawater desalination plants is crucial for global water resources assessment. Here, for the first time, we investigated the possibility of applying the species distribution models (SDMs) that are widely used in the field of ecology to predict the spatial distribution of seawater desalination plants globally. Four SDMs (generalized linear model, generalized additive model, random forest, and generalized boosted regression model) were trained and tested with the cross-validation method at a spatial resolution of 0.5 degree. The model performance was evaluated with the area under the curve (AUC) and correlation coefficient. We finally made an ensemble prediction map by averaging the prediction of each individual model considering the thresholds that determined by maximizing the sum of sensitivity and specificity. Our findings can contribute to the further integrated global water resources assessment.

  • Guo Qiang, 沖 大幹, Zhou Xudong, 佐藤 雄亮
    セッションID: OP-1-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    灌漑は人間の水利用の最大のセクターであり、地表のエネルギーバランスと多くの物理的プロセスを大幅に再形成しました。これまでの研究のほとんどは、その冷却効果に焦点を当てています。しかし、湿度の高い熱を強める可能性のある空気の湿度を上げる効果は、しばしば無視されていました。本研究では、中国とインドの1000以上の都市の周辺灌漑面積の変化と湿熱ストレスの変化を分析することにより、都市周辺の灌漑拡大が都市の熱湿ストレスにどのように影響するかを評価しました。灌漑面積の拡大により都市の気温(Tair)は低下しましたが、湿度の上昇によりTairの冷却効果が逆転し、最終的に湿球温度(TW)と湿球黒球温度(TWBG)が上昇し、ついに都市の湿熱ストレスを悪化させた。この灌漑の「温暖化」効果は、灌漑農地が大幅に拡大したインド北部でより顕著であり、降水量が少ないモンスーン前の季節に顕著になります。これらの結果は、地域の気候に対する人工灌漑の副作用を指摘しており、将来の都市計画の参考になるかもしれません。

  • 田上 雅浩, 中村 哲, 大島 和裕, 一柳 錦平, 朴 昊澤
    セッションID: OP-1-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    北極域では、地球温暖化により海氷が融解し縮小しつつある。海氷の縮小は地表面の状態が海へと変化するため、放射を吸収しやくなり、熱フラックスを増加させ、大気下層を温める。この結果、北極域とその周辺域とでの気圧のバランスが崩れ、テレコネクションや極渦の弱化を通して中緯度の気候や大気水循環に影響を与える。本研究では、このような海氷後退による影響が大気水循環の強度を表す水の安定同位体比にも現れるかを、数値実験から明らかにする。海氷が後退した海域は新たな水蒸気のソース域となり、そこから蒸発する水蒸気は降水履歴がほとんどないため同位体比が高くなる。このような高い同位体比を持つ水蒸気が凝結することで、海氷後退に伴い降水同位体比が高くなる地域が現れることが予想される。本研究では、同位体大気大循環モデルIsoGSMを用いて、5つの海氷後退シナリオを想定した50年以上の長期積分実験を実施した。海氷が最も成長する1月を対象に解析したところ、海氷が後退した地域を中心に降水量が増加しているのが確認された。降水の安定同位体比の差を見ると、降水量が増加した地域よりも広い範囲で降水の安定同位体比が増加することが確認された。降水のソース域が変わりつつあるシグナルを降水量の変化よりも前に検出できる可能性があることを意味する。降水の安定同位体比の変化が統計的に確認されたのは主に北極点を中心とした海域であるが、シベリア北部の沿岸域では海氷後退に伴う降水の安定同位体比の増加が見られた。このことから、このような地域で降水の安定同位体比の長期観測を実施することで、気候変動による大気水循環のシグナルを検出することが期待される。

  • 柳原 駿太, 風間 聡, 川越 清樹
    セッションID: OP-1-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    洪水氾濫,内水氾濫,斜面崩壊を対象に,社会経済シナリオSSP別の人口変動に伴う2015年から2100年にかけての曝露人口変化の日本全国評価を行った.洪水氾濫,内水氾濫のハザードデータには,先行研究と同様の手法により算出した再現期間別の浸水深データを用いた.斜面崩壊のハザードデータには,先行研究において開発された再現期間別の斜面崩壊発生確率データを用いた.洪水氾濫,内水氾濫の曝露人口は,床上浸水である45 cm以上の浸水が発生した地域内に居住する人口と定義した.斜面崩壊の曝露人口は,斜面崩壊発生確率が80 %を超える地域内に居住する人口と定義した.曝露人口減少率は,斜面崩壊,内水氾濫,洪水氾濫の順に大きいことが分かった.また,人口に占める曝露人口の割合が増加した都道府県の数が最も多かったSSPは,洪水氾濫においてSSP2,内水氾濫においてSSP1,斜面崩壊においてSSP4であった.

気候変動・地球環境(2)
  • 原田 茉知, 中北 英一, 小坂田 ゆかり
    セッションID: OP-2-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年梅雨豪雨が頻繁に発生し,甚大な被害をもたらしている.平成30年7月豪雨では,西日本域において広範囲で長時間の降雨がもたらされ,死者237名という甚大な被害が発生した.気象庁(2018)は特定の豪雨事例に関して初めて気候変動の影響を示唆した.このような事例により,梅雨豪雨における気候変動影響に注目が高まっている.そうした中で,現在気候と将来気候それぞれについて期間を定めて計算がなされたタイムスライス実験をもとに,数々の気候変動予測がなされてきた.一方で,現在気候から将来気候に向かって一定のスピードで温暖化が進行するとは限らない上に,治水などの防災事業は段階的に進められる必要があるので,タイムシームレスな気候変動予測が重要である.  これらを踏まえ本研究では,梅雨期の降雨がどの年代から,どのような場所で変化傾向が出始めるのかを明らかにすることを目的とし,梅雨前線降雨帯の空間分布及び水蒸気フラックス,そして極端降雨の発生場所の空間分布と雨量について将来変化予測を行った.

  • 石川 彰真, 呉 修一
    セッションID: OP-2-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年では想定を超えた豪雨による洪水災害が頻発している.富山県も洪水被害の増加傾向にあり富山県河川は急流であるため侵食被害が多いことが懸念されており,侵食危険箇所を事前に検出することは重要である.それに加え将来の流量増加を踏まえた評価が必要である.流量増加の一因として地球温暖化による降雨量増加があり温暖化気候を想定した様々なアプローチが進められている.その一つに大規模なアンサンブルデータを有するd4PDF(地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース)がある.本研究では富山県一級河川の流域を対象として,d4PDFのバイアス補正を行い降雨流出計算を実施,河川流量の比較と侵食被害の将来変化を評価した.

  • 山本 浩大, 山本 エヴァミアシスカ, 佐山 敬洋, Apip Apip
    セッションID: OP-2-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    インドネシアは、世界でも有数のパーム油産油国であり、国家の経済を支えている。近年のパーム油の需要の増加により、大規模パーム椰子プランテーションが拡大し、スマトラ島やカリマンタン島の沿岸部における泥炭湿地にも拡大している。将来もパーム油の需要は増加することが予測されており、泥炭湿地で大規模な土地転換が起きるとされている。一方で、将来、気候変動により、熱帯地域で極端な降雨が増加し、洪水が増加する可能性が高いことが指摘されている。将来にわたって、持続可能な経済成長を維持するために、泥炭湿地を含む下流において、気候変動下での適応策を議論する必要がある。共通社会経済シナリオSSPとパーム椰子に関する地域シナリオを用いて、対象流域における将来の土地利用需要を推定し、CLUEモデルにより将来(2100年)の土地利用分布を予測した。また、浸水期間から被害関数を推定し、植林後3年以内に枯死する確率を推定した。SSP1とSSP3の両方のシナリオで、気候変動により、植林後3年以内にパーム椰子が枯死する領域が拡大し、泥炭地を含めた下流でオイルパームの洪水被害が増加することがわかった。泥炭地におけるプランテーションは地下水位の維持が不可欠であり、浸水被害が大きく、アブラヤシのプランテーション農業が経済的に維持できなくなると、耕作放棄、泥炭火災の懸念も拡大する。

  • 佐野 太一, 沖 大幹
    セッションID: OP-2-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    人為起源の気候変動は、異常気象の発生頻度と規模に影響を与えている。我々は、人類がすでにその下に置かれたことのある極端気象リスクは相対的に適応が容易であるという仮定をおき、将来人類が直面する気象リスクがこれまでに人類がその下に置かれたことがあるものかどうかという点に焦点を当て、将来の極端気象を分類した。本研究では、20年に一度の極端な日最高気温と日降水量に関する人口の2次元ヒストグラムの外縁部を、極端気象リスク境界と定義し、その外部に位置する極端気象リスクの組み合わせはこれまで人類が誰もその下に置かれたことがなく、相対的に適応が困難なリスクと考えた。

    RCP8.5-SSP5シナリオのもとでは、今世紀末までに南アジア,アフリカ大陸北部などで世界人口の30%以上が気候リスク境界を逸脱し、これまで人類がその下に置かれたことがないような極端気象リスクに曝されることが予測された。一方で、RCP2.6-SSP1シナリオの下ではその人口は世界全体の約16.3%ととなることが予測された。

    さらにニューデリーやムンバイ、東京など世界全体の極端気象リスク境界を逸脱するほか、その他の大都市を含む多くの地域も、地球全体にとっての気候リスク境界内に留まるものの、地域ごとの気候リスク境界を逸脱することがわかった。これは多くの都市において、文化や経済状況の類似性の高い周辺地域のみから知識や経験の移転を行うのみでは適応は容易にはならない可能性を示している。極端気象リスクに対する適応の困難さを分類し、その地理的な偏りや人口を明らかにした本研究は、極端な気象リスクに対する一般市民の認識を洗練させ、より効率的な政策立案につながると考えられる。

  • Saurabh Kelkar, 大楽 浩司
    セッションID: OP-2-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    複数の地域気候モデルを用いて日本におけるダウンスケーリングの付加価値に関する解析を複数指標を用いて行った。複数の結果をアンサンブルすることで個々のバイアスがキャンセルされ、山岳部や都市域を中心に付加価値が見られた。

  • 小川 進
    セッションID: OP-2-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    ロシアではウラルとチェルノブイリで2つの核惨事が発生し,放射能がウラルで2000万キューリー,チェルノブイリで240億キューリー放出した.これらの汚染形態を比較した.両者とも広島と福島の汚染とは全く異なるものだった.4つの核汚染の形態は主として地形と気象条件,低気圧と寒冷前線に強く依存した.

水災害(1)
  • 山田 真史, 佐山 敬洋, 山崎 大
    セッションID: OP-3-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年整備が進む高解像度分布型水文モデルでは河道断面を陽に与えるが,現在は一般的に矩形河道あるいは台形河道が仮定されている.矩形・台形河道に基づく解析においても流量の再現性は較正により確保できる一方で,各地点における局所的な水位挙動の再現には限界があり,水位の再現性は洪水予報における一つの課題となってきた.観測河道断面の形状をモデルに導入することにより水位の再現性の向上が見込まれるものの,分布型水文モデルへの観測河道断面の反映は未だ手作業に依る割合が大きく,広域かつ高解像度の分布型水文モデルへの観測河道断面の導入は未だ進んでいないのが実情である.本研究は,広域を対象とした高解像度分布型水文モデルに観測河道断面データベースを導入する作業における課題を整理し,断面導入を自動化するアルゴリズムを検討することを目的とした.

    はじめに,空間解像度5秒(約150m)で構築した日本全域RRIモデル(JRRIモデル)を具体例に,分布型水文モデルの構造に起因する観測河道断面を導入する際の具体的な作業内容の検討から,1)現実世界とモデル世界の河道位置の平面上の相違,2)現実世界における一定距離ごとの離散的な河道観測とセル連結としてのモデル内の河道の表現差異,3)現実世界の局所標高系とモデル世界の平均平滑化ラスタ標高系の違いの3点を課題として抽出・整理した.その上で,各問題点を解決するためのアルゴリズム化された手法を考案し,それら手法をワークフローとして連結することで,観測河道断面データベースをJRRIモデルに導入する手法を提案した.本研究が提案する手法により,日本全国の一級水系大臣管理区間河道に,合計26032断面を導入した.

    続いて,本手法により観測河道断面を導入したJRRIモデルと,矩形河道を仮定したJRRIモデルを用いて過去イベントの比較実験を実施し,観測水位の再現性に観測河道断面導入が及ぼす影響を検討した.中国・四国・九州地方の水位観測点について,観測水位とモデル水位の差異の経時的な比較,および検討期間を通じたNSE等の指標の比較から,矩形断面実験に存在した水位の過小評価バイアスが観測河道断面導入実験では解消され,本研究の手法による観測河道断面の導入により,広域に及ぶ豪雨・出水に対して観測水位の再現精度が向上することが示された.

  • 渡辺 恵, 伊藤 舜将, 馬 文超, 山崎 大
    セッションID: OP-3-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    台風など広域に影響が及ぶ場合は,どこで影響が生じ得るかを早期に把握し,事前準備可能な対策を検討できると望ましい.より長期間の洪水予測を行えるアンサンブル洪水予測システムの開発に注目が集まっている.本研究では,予測情報伝達の上での予測者とユーザーとのコミュニケーションという観点から,主に運用中の海外の予測システムに関する文献調査に基づく分析により,早期警報として活用するためのアンサンブル洪水予測情報の有効な伝達方法を検討した.その結果,予測情報の可視化の際に,システム不確実性を考慮し流量等の絶対値からリターンピリオド等の危険度に変換する,危険度予測一貫性を表示するなど,警報発令等の判断を支援する可視化方法を利用していることが分かった.また,アンサンブル洪水予測を新規に運用する中で出現した課題や,その改善例などについて整理した.運用初期段階では,リードタイムが長く,確率的な情報を含み,広域で均一な評価のできるアンサンブル洪水予測手法の特徴・利点に関するユーザー理解が不十分であったため,予測情報を予警報システムに十分に生かし切れなかったことが分かった.また,アンサンブル洪水予測を早期警報として活用するための法整備など予測情報の受け入れ体制の整備不足もシステム運用の障壁となり得ることが明らかとなった.しかしながら運用中の予測システムでは,ワークショップ等を通してユーザーとのコミュニケーションを繰り返すことにより,ユーザーの予測システムへの正しい理解を促し,予測情報伝達に関してユーザー意見を反映させ,制度含むシステム改善を行ってきたことが分かった.例えばイギリスでは,洪水発生時に,洪水予測の精度は実用的なレベルになっていたが, 異なる機関同士の連携不足で予測情報を十分活用できなかったという事例がある.その反省から,気象予報を担う機関と洪水対策を担う機関が連携して新たな機関を設立し,洪水予測情報を整理し伝達している.同機関による予測システムでは,年次ミーティングで得られたユーザーフィードバックを基に,これまでは発出に消極的だった空振りの可能性のある低頻度大規模洪水のアラートが適切に発出されるようになった.予測者とユーザーとが双方向のコミュニケーションを繰り返し,予測情報の伝達に関してシステムの改善を続けることができれば,予測情報を最大限に活用することが期待できることが分かった.

  • 風間 聡, 小間 大世, 河野 達仁
    セッションID: OP-3-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、効率的な整備順序及び堤防高さについて、河川の流れや河川整備の状況に応じた性質を効率性と公平性の2つの観点から分析を行う。数値計算を行った結果、上流側に住む世帯が多い場合には、上流からの整備が効率的であるという結果が得られる。また、上流側の堤防整備が下流側へ与える外部費用を考慮した上で、効率性に基づいて整備を行う場合に、各地点における支川からの流入量によって、上流下流とも厚生改善(パレート改善)がある場合と下流側が損をする場合があることを示した。さらに、下流側から整備を進める場合よりも、上流側から整備を進めた場合のほうが、下流側の堤防をより高くすることが効率的となる場合があることを明らかにした。

  • Kim Hwayeon, 中北 英一
    セッションID: OP-3-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    The localized severe heavy rainfalls, which have not been experienced in the past, have frequently occurred in Japan due to the effects of climate change. Especially, the isolated rapidly growing single cumulonimbus is triggering huge damage to human life and property. For disaster prevention, it is necessary to analyze the initial development of cumulonimbus cloud and make an alert before the maximum rainfall intensity reached the ground. To alert the risk triggered by Guerrilla heavy rainfall, a methodology integrating early detection and a quantitative risk prediction method has been developed in previous research. These methods can predict the risk of heavy rainfall and whether the early detected convective cells became heavy rainfall or not. However, to alert the risk more precisely by using the quantitative risk prediction method, the method was improved at each rain stage by considering the characteristics of variables which were estimated by Multiple doppler radar analysis.

  • 小柳津 唯花, 小森 大輔, 猪股 亮介, 峠 嘉哉
    セッションID: OP-3-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年被害が深刻化する内水氾濫に対して効果的な対策を行うためには,内水氾濫の頻発する区域(以後,内水氾濫頻発区域とする)の特性を理解することが重要である.中口らは,日本の5都市において内水氾濫頻発区域を抽出し,都市規模と内水氾濫発生要因の関係性を解析した.その結果,内水氾濫リスクの高かった名古屋市において,リスクおよび内水氾濫発生要因の変遷が見られた.本研究においては,名古屋市よりも都市規模も小さい和歌山県和歌山市において,都市内での内水氾濫リスク及び内水氾濫発生要因の時系列変化を分析し,その変化をもたらす要因を解析した. 和歌山市において,水害区域図を用いて1993年から2017年の25年間の内水氾濫の発生回数を算出し,内水氾濫頻発区域として定義した.和歌山市において79区域の内水氾濫頻発区域が抽出された.また,内水氾濫頻発区域を前半,継続,後半の3つに分類したところ,前半が確認されず,継続58区域,後半21区域となった.以上より,和歌山市において内水氾濫の頻発が増加傾向にあることがわかった. 既往研究に基づき,内水氾濫リスクおよび内水氾濫発生要因(地形的要因,気象的要因,都市的要因)を算出し,時系列変化を解析した.内水氾濫リスクは内水氾濫の発生頻度,地形的要因はシミュレーションにより得られた浸水深,気象的要因はradarAMeDASの解析雨量データから算出した超過比率として定義し定量化した.都市的要因は,要素が複雑であることから他の指標から逆解析的に求めた.その結果,気象的要因,都市的要因共に増加し,特に都市的要因は前期から後期で1.8倍と大きく増加した.また,分類された各頻発区域における地形的要因の平均値を算出した.継続が1.8,後半が0.50となり,地形的に弱くない地域でも内水氾濫が発生したことがわかった.発生要因が地形的要因から都市的要因に遷移したことが推察された. この内水氾濫発生要因の変化は,用水路に関わる要因と水田減少による遊水能力の減少に起因することがわかった.和歌山市の内水氾濫頻発区域すべてに用水路が確認され,44.3%が用水路の合流部や狭窄部に位置していた.都市化の進行に伴い遊水能力が低下し,降雨時に用水路に即座に雨水が流入するようになった事により,用水路の流下能力を超えてしまい,水路の合流部及び狭窄部において溢れると推察された.

  • 相原 星哉, 吉田 武郎
    セッションID: OP-3-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    令和2年より,農業用ダムにおいても,治水協定に基づく事前放流の取組みが開始されたが,農業用ダムに特有な事情のもとに実施される事前放流によって発揮される治水効果については明らかになっていない.農業用ダムにおける取組みを流域の治水に適切に位置づけ,事前放流体制の高度化を図るには,現行の農業用ダムの事前放流体制によって発揮される治水効果について,定量的に評価する枠組みの構築が求められる.そこで本研究では,農業用ダムにおいて治水協定に基づく事前放流が実施された場合に発揮される治水効果について,ダムの諸元や下流河川の特性,降雨条件に基づいて定量化することを目的とした.

    令和2年から事前放流の取組みが開始された9基の農業用ダム流域を対象として分布型水循環モデルを構築し,治水協定に基づく事前放流が実施された場合と,されなかった場合について,それぞれ計算を実施した.両計算結果より,現行の農業用ダムの事前放流が実施された場合に発揮される,洪水時ダム放流量と下流河川流量のピークカット効果を算出し,それぞれダムの諸元と下流河川の特性に基づいて整理した.

    その結果,ダム放流量のピークカット効果は,相当雨量(事前放流による確保容量とダム集水面積の比)に応じた限度の降雨量まで発揮され,ピークカット率は,各ダムの相当雨量により推定できること,事前放流の効果が下流に波及する範囲と,下流河川流量のピークカット率は,ダム集水面積とダム下流地点における上流面積の比により推定できることを示した.これらの情報を活用すれば,各地の農業用ダムにおいて,相当雨量と降雨量に基づき,事前放流により期待される治水効果を定量的に説明でき,ダム下流河川流域には,その効果を踏まえた防災情報の提供が可能となると考えられる.

降水/リモートセンシング
  • 有吉 桜, 白木 克繁
    セッションID: OP-4-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    火山灰の堆積地域で発生する土石流は、通常の土石流と比較して高速であり家屋や施設の破壊が起こる可能性が高く人命に対する危険性が高いことが知られており、災害発生規模の予測や警戒避難体制の策定は急務であるとされている。しかし、実際は噴火の発生に伴い立ち入り規制がかけられることから、遠隔で現地の状況を計測する手法の開発が課題である。本研究では、運搬がしやすい軽量な雨量計を用いて、それが必ずしも水平に設置することができない場合を想定し、発生する誤差の比較を行った。比較に用いた雨量計は①貯水型雨量計②転倒ます式雨量計③光学式雨量計である。室内実験の結果より、貯水式雨量計においてロードセルを用いて重量を計測することで得られた計測値はcos(傾斜角)を掛けることで補正することが可能であることがわかった。転倒ます式雨量計による計測結果は10度以下の比較的フラットな傾斜条件であれば、計測誤差は小さく抑えることができる。しかし、それ以上の傾斜角では全く転倒せず、測定が不可能になる可能性がある。屋外での設置実験の結果からは光学式雨量計は正確性が低く、貯水式雨量計と転倒ます型雨量計はおおよそ同程度の正確性であることが明らかになった。したがって、ロードセルを用いて重量を測る貯水式雨量計は、傾斜による誤差の補正が可能であり正確性が高く、UAVなどのロボットを用いた運搬・設置を想定した雨量計として応用しやすい。

  • 高見 健斗, Kim Sunmin, 立川 康人, 市川 温, 萬 和明, 田中 智大
    セッションID: OP-4-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    高精度の降水ナウキャストは洪水予測など様々な目的において不可欠である.近年では気象レーダー画像外挿の手法として機械学習が注目を浴びている.機械学習アルゴリズムの一つであるConvolutional LSTMは時系列を持った画像データを処理することが出来るため,降水ナウキャストに適用することが出来ると考えられている.しかし,その適用性や降水ナウキャストに適したモデルの設定についてはまだ十分に調べられていない.本研究では,Convolutional LSTMを用いた気象レーダー画像外挿モデルについて,4つの観点から異なる学習設定を行い,計16個のモデルを作成した上で学習設定が予測精度に及ぼす影響について考察した.変更した設定は,1)入力の時間フレームの長さ,2)予測の方法,3)Convolutional LSTM層の数,4)出力層での活性化関数の4つである.実験の結果,入力する時間フレームが長いモデルの方が良い予測精度を示すことがわかった.これは入力情報の多いモデルの方が良い予測精度を示すことを表していると考えられる.また,再帰的な予測方法を用いた場合,出力画像が非常にぼやけることが発見された.これはConvolutional LSTMの画像をぼやけさせる特性が,繰り返しの予測によって蓄積されたことが原因であると考えられる.Convolutional LSTM層が2層かつReLUを活性化関数にもつモデルは,無降水の領域をうまく再現できていた.これはモデル構造の複雑さおよびReLU関数の特性によるものであると考えられる.本研究の中で最も良い精度を示したモデルは12f_30_2L_ReLUモデルであった.精度向上のため,時間間隔とハイパーパラメータを変更した追実験も行なったが,目立った改善は見られなかった.今後の課題としては,モデル精度の更なる改善が挙げられる.3次元データや他の気象変数などを用いた場合や,Convolutional LSTMの設定をさらに変更した場合,他のアルゴリズムを用いた場合などはまだ検討の余地があると考えられる.

  • 村瀬 公崇, 山口 弘誠, 花土 弘, 川村 誠治, 金丸 佳矢, 相馬 一義, 中北 英一
    セッションID: OP-4-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    積乱雲の発達に対し,大気中層水蒸気が与える影響をモデルと観測の両面から調べる.モデルとしては雲解像モデルCReSSを用い,観測としてはGNSS可降水量並びに地デジ水蒸気による地表面水蒸気の観測データを用いる.モデルを用いて,発達時の積乱雲周辺の水蒸気の特徴を解析し,この特徴を表現し得る観測を考慮した新たな指標を提案する.また,この指標を用いて,観測結果の解析を行う.

  • FAUZIANA AHMAD, 弘誠 山口 , 英一 中北
    セッションID: OP-4-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    The multicell thunderstorms could contribute severe disaster due to their longevity of lifespan and widespread areas. The objective is to investigate the signature pattern of vorticity during the merging process and the supportive mechanism using Dual Doppler radar since it could provide the three-dimensional wind fields. We defined the core vorticity quantitatively as the maximum value of pair vorticity for each boundary of cell merging. The signature pattern such as intensity, distance and height with the supportive mechanism such as updraft, divergence, stretching and tilting will be established. The pair of core vorticity of new cell indicated increment after merging with the multicell in the early stage of development, then showed persistency and later stage showed multicell intensity rose after merging with other new cell.The supportive mechanism revealed the influence on the increment of core vorticity at lower level until upper level, except tilting affect only from middle level.

  • 中村 雅志, 横山 光, 峠 嘉哉, Mbugua Jacqueline, 小森 大輔
    セッションID: OP-4-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    日本では,気候変動と森林飽和により近年,流木流出を伴う複合災害が頻発化している.これより,流木流出の一連のメカニズムを解明することの必要性が高まっている.そして,流木流出メカニズムを解明するためには発生流木量と流出流木量のデータが必要となるが,後者はデータが存在するのに対し,前者はデータが存在しない.したがって,発生流木量は推計する必要がある.そこで,斜面崩壊箇所に関する既往研究に倣い,リモートセンシングを用いた斜面崩壊による流木発生箇所の検出方法の精度検証を広島県庄原市,広島県広島市,福岡県/大分県の朝倉・東峰地区,宮城県丸森町の4地域において検証を行った. 検証の結果,庄原市においては高い抽出精度を確認することができたが,その他の3地域においては高い抽出精度を得ることができなかった.そこで,抽出結果を確認したところ,流木発生箇所は概ね抽出することができている一方,過剰な抽出が見受けられ,これが十分な精度が得られない原因であることが考えられた.そこで,観測範囲を流木発生箇所に対して縮小し,流木発生箇所が観測範囲に対して占める割合を高めた場合における抽出精度の変化を示した.その結果,流木発生箇所の面積率が5%までは,4地域すべてにおいて抽出精度が上昇する傾向が見受けられたが,5%以上高めた場合にはいては概ね抽出精度の上昇は確認されなかった.また,観測範囲を縮小させた場合における,本来の流木発生箇所に対する,縮小させた観測範囲の流木発生箇所の割合を流木発生箇所含有率として,それに対する流木発生箇所面積率の変化を示した.その結果,丸森町を除く3地域においては流木発生箇所の面積率が5%前後に高めた場合においても,流木発生箇所の大部分が捉えられていることが確認された. そして,以上の結果を踏まえ,他地域における本手法の適応について検討を行った結果,観測範囲を流木発生箇所面積率が5%前後となるように予め制限する操作をすることによって,高い精度で流木発生箇所の抽出を行うことが可能であると考えられた.

  • HOANG KIM OANH, 陸 旻皎
    セッションID: OP-4-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    Soil moisture is one of the paramount factors controlling water circulation processes, the energy exchange between land surface and atmosphere. However, the in situ data observed by dielectric sensors, which are the most widely used, is reported to include errors caused by the so-called ‘temperature effects’ of these sensors. Meanwhile, satellite data validation and calibration processes to estimate soil moisture use in situ data as a ground truth. Therefore, it is necessary to evaluate the temperature effects in these processes to improve the precision of satellite soil moisture products. This study had tried to determine and assess the temperature effects in SMAP soil moisture products by applying a temperature effects removal algorithm to both in situ and satellite data obtained from two selected sites in Oklahoma, the United States. The results show that temperature effects exist in SMAP soil moisture products, and their removal will potentially improve their accuracy.

土壌水分移動/流出
  • 荒木 稜香, McMillan Hilary
    セッションID: OP-5-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    土壌水分は水・エネルギー循環において重要な枠割を果たす.近年,土壌水分センサーを密(約10~150本/流域面積0.1~1000km2程度)に配置した土壌水分観測網が設置されている.土壌水分観測網が提供する時空間解像度が高いデータは,土壌水分機構の解明に貢献してきた.例えば,土壌水分の空間平均や偏差から土壌水分機構の季節変動が明らかにされた.しかし,土壌水分観測網のデータ分析は,統計指標を用いた手法が主であり,土壌水分機構を特徴づけるには不十分である.土壌水分観測網のデータを活用し土壌水分機構のさらなる理解を深めるためには,河川流量分析における年最大流量や流量増加速度のような,土壌水分機構の特性を表現する土壌水分指数 (soil moisture signature)を複数用いて,様々な角度から土壌水分機構を分析する必要がある.既往研究では,いくつかの代表的な土壌水分指数が提案されている1) 2) 3) .しかし,対象は温帯の森林地に設置された観測網が中心であり,異なる土地利用・気候条件において土壌水分指数のふるまいがどのように変化するかは明らかになっていない.そこで,本研究では,世界各国の土壌水分観測網のデータを用いて,様々な気候・土地利用条件下において異なる土壌水分機構を,土壌水分指数を用いて区別しうるかどうかを調査した.また,土壌水分指数の値の差異が示唆する土壌水分機構について,文献調査をもとに考察した.

  • 加藤 嵩史, 市川 温, 萬 和明, 田中 智大, Kim Sunmin, 立川 康人
    セッションID: OP-5-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    様々な水文予測に利用されている降雨流出モデルには、少なからず不確実性が内在している。降雨流出モデルでは各出水に対してパラメータ同定を行うことにより出水を再現できるが、出水を再現できるパラメータの組合せはただ一つに決まるのではなく、異なるパラメータの組合せを用いても出水を再現できる"等結果性"(Equifinality) という現象がある。同定によって得られるパラメータの値が出水毎に異なるという不確実性もある。水文モデルで利用されるパラメータはモデルの構造によって決まるものであり、このような不確実性はモデル化そのものにおける不確実性であるといえる。

    本研究では降雨流出モデルのうち、RRIモデルを用いた淀川水系桂川の日吉ダム流域での7つの出水を対象とした再現計算を通して、等結果性に起因する単一出水におけるモデルの不確実性、ならびに、複数出水間でのモデルの不確実性についての分析を行った。

    単一出水において等結果性をもたらすパラメータを確認し、複数出水間では大空隙部や地表面部のモデル化に不確実性があることを示した。

  • 西端 亮裕, 市川 温, 立川 康人, 萬 和明, 田中 智大, Kim Sunmin
    セッションID: OP-5-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年,ゲリラ豪雨や大型台風の上陸などに伴う水災害が頻発している.水災害の防止軽減策を立案するためには,流域内の雨水流動を理解し,適切な予測モデルを開発することが基本となる.本研究では,河川水の溶存シリカ濃度を計測するとともに,降雨とシリカの流出計算を行うことで,流域の雨水流動過程の分析を試みた.本研究のモデルでは、流量についてはおおよそ妥当な計算ができたといえる.一方で溶存シリカ濃度については,計算後半部分で計算値が観測値より大幅に小さくなった.そこで,シリカ溶出に関する定数αを大きくすると,計算後半部分においても計算値と観測値がおおよそ整合したことから,αの値がもう少し大きいという可能性もある.αの値を実測してモデルに反映するとともに,地下水流出も考慮して,流域内の雨水流動をより確からしく把握しモデル化することが今後の課題である.

  • 堀田 裕貴, 田中 隆文
    セッションID: OP-5-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    地理的に離れた流域においては,降水条件が大きく異なるため流量データのみからその流出特性を比較することは難しい.そのため流出モデルの定数を比較することで流出特性を比較するという試みがなされているが,数多くの流域で長期連続データにより同定された同一のモデルの定数を比較した報告は未だ乏しい.そこで本研究では国内209流域においてNash–Sutcliffe 係数(NSE)を評価関数として直列4段タンクモデルの定数同定を行い,142の流域において十分な流出再現性を持つ定数の組を得た.感度分析の結果,NSEの変化に大きな影響を与えることが分かった1段目タンクに関する定数について,流域内の地形・気候・植生・地質・土壌との関係を検証する.

  • ジンダンタ テゥン, 陸 旻皎
    セッションID: OP-5-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    最小データ長を適用するという概念はあっても、理論的なアプローチを用いて許容できるデータ量を推定・予測することにはあまり関心がありません。世界のほとんどの地域では、限られた数のデータセットしか利用できないという問題が依然としてあり、最小データ長の推定は水文学者の間で議論の的となっています。本論文では、データ長の違いがXAJモデルの性能にどのような影響を与えるかを明らかにしました。最初の段階では、効率性の基準に基づいて観測データを利用して分析を行い、調査対象地域で許容できる情報を得るための適切な最小データ長を推定しました。さらに、観測されたデータセットの誤差や異常な動作に基づいて、回帰分析を用いてモデルのキャリブレーションの性能条件を証明することも試みました。

  • 高橋 臣夫, 城田 健一, 木下 武雄, 久保田 明博, 金山 拓広, 平田 治
    セッションID: OP-5-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    ダムの統合管理を進めるためには、各ダムの流域及び残流域からの流出量を精度を高く予測する必要がある。本研究では、片品川流出試験地によるデータ蓄積から山間部流域内での流出機構の解明及びダム管理への適用を行うものである。

河川・湖沼/水環境経済学・水環境社会学
  • 田代 悠人, 楊 宗興, 白岩 孝行, 大西 健夫
    セッションID: OP-6-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    オホーツク海における一次生産は、アムール川が供給する溶存鉄(Dissolved Fe: dFe)によって大きく支えられている。だがアムール川中流域においては、河川で高いdFe濃度が観測されているにも関わらず、その供給源は不明であった。そこで本研究の目的は、現地調査と衛星画像解析から土地被覆分類図を作成し、河川dFe濃度との関係を調べることで、dFe供給源を明らかにすることとした。

    調査を行ったティルマ地域は点在的な永久凍土地帯であり、年間平均気温は-1.96℃である。主な土地被覆は湿地・森林・氾濫原の3つがある; 湿地帯は平坦な谷部に、森林地帯は斜面部に、氾濫原は大河川沿いの平野部にそれぞれ形成される。特に湿地帯の地中では、永久凍土の存在が確認されている。

    現地で湿地・森林・氾濫原を確認した場所3-4ヵ所を対象に、Landsat8のマルチスペクトルデータから正規化植生指数(Normalized difference vegetation index: NDVI)、正規化土壌指数(NDSI)、正規化水指数(NDWI)を集計した。各土地被覆で示されたこれら指数の範囲から土地被覆の判定基準を設定し、ティルマ地域全体へと外挿することで土地被覆を分類した。加えて、ティルマ地域の5つの大河川および19の小河川に対してdFe濃度を測定した。

    ティルマ地域の湿地・森林・氾濫原において、NDWIは各土地被覆で重複していたが、NDVIおよびNDSIは明確に異なる範囲を示した。そこでNDVIおよびNDSIの最小・最大値を閾値とし、ティルマ地域の土地被覆を湿地・森林・氾濫原の3つに分類した。次に現地で採水した河川における集水域内の土地被覆面積率を算出した結果、19の小河川においては、集水域内の永久凍土湿地面積率が大きいほどdFe濃度は高い傾向を示した。すなわち、永久凍土上に形成される湿地帯の泥炭土壌からはdFeを豊富に含む土壌水が河川へと流出しており、この湿地の面積率によって小河川のdFe濃度が規定されていると考えられる。同様に、ティルマ地域を代表する5つの大河川においても、湿地面積率が特に大きいGujik川およびYaurin川において高いdFe濃度が確認された。これらのことから、アムール川中流域における永久凍土湿地は、アムール川本流およびオホーツク海へとdFeを供給する重要な役割を果たしていると考えられる。

  • 徳田 大輔, 沖 大幹, 金 炯俊, 山崎 大
    セッションID: OP-6-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    水質や生態系,水資源といった観点から湖沼の水収支は重要である.この水収支において河川の流出入は大きな寄与を有しているにもかかわらず,既往の全球モデルでは河川と湖沼は別々に扱われてきた.これは河川と湖沼における支配的な水熱動態が大きく異なること,また河川と湖沼の空間分布を陽に考慮した境界条件の未整備が背景にある.本研究は河川と湖沼における水熱動態の結合モデルフレームワークT-CHOIR(Tightly Coupled framework for Hydrology of Open water Interactions in River–lake network)を提案する.これは高解像度の地形データと湖沼分布データを組み合わせてアップスケールすることでその上下流の接続状況などを表現した河道湖沼網データセットを構築し,また河川と湖沼の水熱動態モデルを結合するフレームワークである.河川モデルとしては著者らがこれまでに開発してきたものを,湖沼モデルとしては既往研究のスキームを組み合わせたものを新たに実装し,湖沼水位の変化を陽に表現している.河川,湖沼両モデルではそれぞれ他方の情報が境界条件として必要になるため,このフレームワークでは毎タイムステップでこれらの情報をカプラー経由で共有し,フレームワーク全体で質量と熱量が保存するよう設計されている.このT-CHOIRは河川流出入や蒸発損失を含めた湖沼水収支,またそれによる水位,水面面積変動を陽に計算することを可能とする.地点観測データや人工衛星プロダクトを参照して,河川の流量,水温,また湖沼の水面温度,水面標高,水温鉛直分布,結氷期間に関する検証を行った.その結果,湖沼の考慮によって河川の流量や水温の季節変動の再現性が向上し,また湖沼水面標高の変動,絶対値が降水と蒸発が均衡しない湖沼においても精度よく計算されることが示されている.更に増水期における主河道からの逆流が水位上昇を引き起こすTonle Sap湖などにおいてもその季節変動が再現されていた.今後は湖沼の水収支に関わる各フラックスの検証や,本研究で開発された河道湖沼網の特性を活用した貯水池操作モデルとの結合,多くの湖沼における水位-水面面積関係の推定などが必要であるが,この結合フレームワークは地球水循環における河川と湖沼の相互作用,また陸域表層の水収支を理解する基盤になると期待される.

  • Sanjar Sadyrov, 田中 賢治, 田中 茂信, Temur Khujanazarov
    セッションID: OP-6-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    The impact of climate change in Central Asia is most evident in the mountainous regions, where the area covered by glaciers has significantly decreased over the past 100 years. Naturally, glaciers and snow melting is the primary source of water in the downstream arid lands of Central Asia. Assessment of the future climate change to the glaciers and snow conditions is thus essential in understanding environment impact and adaptation measures.

  • 片村 新, 林 武司, 石山 大三, 小川 泰正, 石山 陽子
    セッションID: OP-6-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,秋田県東部に位置する田沢湖において,表水層から深水層における季節的な水温・水質の変化を調査し,湖水循環機構を明らかにすることを目的として,2019年6月~2021年4月に定期的な湖水・流入河川水の調査を行った.加えて,気象観測装置を田沢湖湖岸に設置し,継続的な風向・風速の観測を行っている.それらの観測結果より,田沢湖湖水の循環機構について考察を行った.田沢湖における2021年4月の水温測定結果や過去の表層部の水温観測データより,2021年には2~3月に表層部の水温が4℃程度になり,浅部から深部までの湖水の水温および密度差が小さくなることで湖水循環が起こりやすい状態になっていたことが推測された.また気象観測結果より,田沢湖においては西・西北西方向からの風の平均・最大風速が比較的大きく,これらの風が湖水循環の駆動力の一つであったと考えられた.2020年11月と2021年4月の水質測定結果(pH,ECκ4)を比較すると,2021年4月には,2020年11月と比較して全体的な差が小さくなったが,水深100m以浅と水深200m以深で差異が認められた.これらの結果は,2~3月頃に表層から深層までの湖水温の差が小さくなるとともに強い季節風によって湖水が攪拌されることにより,湖水の循環が促進されるという従来の推定プロセスを裏付けるものと言えるが,全層循環が毎年に起こるわけではないと考えられた.

  • 齋藤 悠宇, 川崎 昭如, 濱下 武志, 城山 智子
    セッションID: OP-6-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    湖北省宜昌から上流の重慶市までの長江沿いは三峡地区と呼ばれ、狭い川幅の両側に切り立った崖がそびえる特異な風景が見られる。19世紀中頃までは小回りが利き急流に対応しやすい中国式帆船による交易が行われた。19世紀後半の清国末期に中国海関(旧海関)が成立して、約1世紀に渡って中国全土の貿易の徴税と円滑な貿易のための環境整備を担った。旧海関が携わったインフラ整備に関する研究は少ない。本研究の目的として、三峡地区における水運インフラ発展のうち重要な出来事である蒸気船の導入に着目して、1)中国側と外国側はどのように導入に関わったのか、2)旧海関が導入にどのような役割を果たしたのか、税務司による体系的な定期報告書である海関資料に基づいて実証的に解き明かす。

    本研究は宜昌港が年次統計に登場する1878年~1919年を対象とした。手法として、年次統計については、水運量に関する記録のデジタル化を行った。年次報告については、水運に関連する項目をテキスト化して短い文章に区切り、筆者が作成した分類表に沿ってラベルを付けたデータベースを作成した。

    結果として、年次統計から帆船と蒸気船のトン数の各国合計の推移を抽出すると、宜昌では蒸気船と帆船の両方が、重慶では帆船を中心に利用されていた。年次報告から、宜昌は蒸気船と帆船の間の積み替え港であり、重慶は開港以前より中国西部・四川省の貿易の中心だったと見られる。蒸気船の輸送力があれば重慶において外国商人が勢力を拡大できると考えられており、中国商人も大容量で素早く輸送できる蒸気船に期待していた。1909年に輪船招商局の蒸気船Shutungが無事故かつ利益を出して宜昌-重慶間を航行して、その後に重慶での蒸気船による輸送量が増加したことは年次統計・年次報告から読み取れる。

    目的1)に対応して、重慶の開港と蒸気船の導入に伴って、旧海関と外国商人が三峡地区の地域経済に加わり、また中国商人が輪船招商局と個人商人に分かれたことが分かった。多数の主体に分散して運用されていたことが水運インフラの強みとなっていた。目的2)に対応して、旧海関が蒸気船の導入に際して果たした役割とは、難所の特定・河川整備の実施・蒸気船の航行に必要な知識の体系化と頒布の3点が挙げられる。特に3点目については、旧海関とも連携した河川監理史S. C. Plantの貢献が大きかったと言える。

  • Chengyao Zhang, 沖 大幹
    セッションID: OP-6-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    水資源は、社会的、経済的成長を促進し、環境保護を維持するために不可欠な資源である。経済と社会の急速な成長、および利用可能な水資源の限られた供給のために、人間の水使用のさまざまな部門間の競争と紛争が悪化している。環境流量は、河川の利用中に河川生態系の機能と健康を維持するために重要である。この研究では、ナッシュ・ハルサニー交渉ゲーム理論に基づいて、農業、工業、家庭、公共、都市の生態学的水(都市の緑地への水やり)セクター間の最適な水資源配分のための水配分モデルを開発した。包括的な経済評価フレームワークは、水配分モデルの基礎として採用されたさまざまな水利用の経済的利益を評価するために構築されている。提案されたモデルは、深刻な水不足に直面している中国の黄河流域の実際の事例に適用される。 2016年に農業、工業、家庭、公共、都市の生態学的水によってもたらされる推定経済的利益は、それぞれ3.95、45.1、200、94.4、23.7 CNY / m3である。黄河下流域の年間環境ベースフローは75.0億m3である。農業、工業、家庭、公共、都市の生態学的水利用セクターへの最適な年間配分は、それぞれ337、64.7、39.6、17.5、26.8億m3と推定されている。

水文統計
  • 小槻 峻司, 齋藤 匠
    セッションID: OP-7-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    データ同化は、プロセス駆動型の数理モデルと観測データを最適に繋ぐ、統計数理や力学系理論に基づいた学際的科学である。特に、数値天気予報においては根本的な役割を果たし、データ同化技術は高度に発展してきた。しかし、現業の天気予報は限界問題に直面し、Data Richな時代にも関わらず、観測ビッグデータの価値を最大限に利用できない状況に直面している。天気予報研究分野において、同化する観測数を減らすことにより精度改善を果たせるということは、一般に知られる事実である。そのため、観測データの集約化や間引きによって、同化する観測数を減らす作業が行われている。実際に、我々が開発してきた全球大気データ同化システム・NICAM-LETKFを用いた実験においても、Observation Number Limit手法と呼ばれる「観測を敢えて減らす」手法により、数値気象予測スコアの改善傾向を確認している(図1)。本研究では、この問題解決のための処方箋として取り組んでいる、(1) 情報抽出限界の解決、(2) 観測位置を最適化する手法開発 の研究進展について紹介する。

  • 丸尾 啓太, 近森 秀高, 工藤 亮治
    セッションID: OP-7-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    確率日雨量の推定には,一般に年最大値法が用いられるが,この方法では解析対象のデータサイズが小さく,対象期間によって推定値が大きくばらつくことがある.メタ統計的極値分布は,日雨量の極値分布を各年の日雨量の分布と降雨日数により表しており,年最大値法に比べて利用できるデータのサイズが大きく,極端な値による確率日雨量の推定値の変動の抑制が期待できる.本研究では,我が国における確率日雨量の経年変化をメタ統計的極値分布の適用により推定した.その結果,100年確率日雨量の推定値は年最大値法を適用した場合と同様に全国的な増加傾向を示し,また,年最大値法に比べ推定値の経年変動が抑えられることが示された.

  • 成 岱蔚, 清水 啓太, 山田 朋人
    セッションID: OP-7-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,極値統計理論におけるコントロールバンドの概念をアンサンブル数値実験の統計的再現性の評価に適用する方法を提案した.これにより,物理解析から得られた気象現象の母集団と統計学から得られた気象現象の母集団との一致性を定量化することができるようになった.北海道の十勝川流域に適用した結果,アンサンブル数値実験の頻度分布とコントロールバンドが一致することが分かった.なお,コントロールバンドと仮説検定理論を比較し,それらの違いについて検討した.最後に,コントロールバンドに基づいて,ある再現期間で観測値より大きい降雨が発生するリスクの検討方法を提案した.

  • 葛葉 泰久, 水木 千春
    セッションID: OP-7-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    著者らは,本邦での水工計画策定時に行政でよく用いられる「中小河川計画の手引き(案)」(以下,“手引き”と称す)の確率水文量を求める手順(図1)に重大な誤りがあると指摘してきた.葛葉・水木(2021a)でそれらを詳述し,修正法について解説したので,本稿ではその概要を述べたい.ただし,上述文献では,「従来から国交省等が用いている手法を大きく変えない」ことに配慮するため,今まで通り,寶・高棹のSLSCを用いる修正法を示した.しかし,下述のごとく,そもそも「母数推定」と「適合度評価」を別々に考えることによって生ずる「2重の規準の問題」は,この修正法でも解決できない(「手引き」の手順は,さらに「3重の規準の問題」を生じさせている).それを解決するためには,赤池のAICなどの情報量規準を用いれば済むことだというのは,この分野の研究者なら容易に想像できる.それについても,葛葉・水木(2021b,6/29に投稿予定)で記述する内容の一部をここで報告する.

  • 田中 茂信
    セッションID: OP-7-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    時系列資料をもとに水文頻度解析を行う場合,年最大値資料を抽出して用いることが多い.一方,閾値超過資料を用いる方法もある.年最大値だけでなく,最大値を抽出する期間を複数年とする解析や閾値超過資料を用いた解析も行って比較することが重要である.本稿では,閾値超過資料による解析事例を示す.

  • 柳澤 創, 風間 聡, 峠 嘉哉
    セッションID: OP-7-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    「100年に1度と言われる極値降水は日本全国において何回発生しているのか」の問いに答える.日本全域を対象として,極値降水の空間発生頻度を解析することを目的とした.降水量データとしてd4PDFを利用し,地点降水量データでは得られない大規模アンサンブル解析を行った.20kmメッシュ毎に最も適合度の良いGEV分布を用いて確率降水量を求め,日本全域において100年に1度の極値降水の空間再現期間を算出した.その結果,基準気候において100年に1度の極値降水は約1.6年に1度発生していることが示された.さらに,RCP8.5においては100年に1度の極値降水の頻度が1.1年に1度まで増加することが予測される. また,極値降水発生面積の確率密度分布をワイブル分布を適用することにより導いた.その結果,極値降水の発生面積とその頻度の関係性について明らかにすることが可能となった.さらに,確率密度分布の将来変化を比較することにより,RCP2.6及びRCP8.5において頻度の増加する極値降水イベントに関して考察を行った.

地下水/水質水文/農地水文
  • 山本 浩一, 小野 文也, 水俣 勝基, 植田 敏史
    セッションID: OP-8-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    高層湿原の保全のためには周辺地域の開発による広域的な地下水流動への影響に加えて排水路周辺や湿地溝(天然の排水路)付近の地下水の局所的な地下水流動を把握する必要がある.現状では地下水の流動を把握する場合,地下水位分布と透水係数を用いて地下水の流向・流速の推定が行われているが,対象地盤の透水係数が不明の場合には,地下水位分布の作成が困難あるいは流速の推定が困難といった問題がある.そこで単孔式地下水流向流速計測法が利用されているが,既存の地下水流向流速計は,計測に長時間を要すること,装置本体が高価であることで複数台の同時観測が困難であり現地試験を行う際に電源が必要であることといった問題点がある.最近開発されたペーパーディスク型地下水流向流速計(PDV)は,安価で電源を必要とせず,多地点の同時観測が可能である.そこで本研究では北海道の高層湿原において多地点の同時地下水流向流速の測定を行い,局所的な地下水流向流速分布を得た.おおむね地下水位分布に従って表層地下水は流動していた.湿地溝周辺など地形変化が大きく地下水位分布が得にくいところでも流向流速が計測可能である.また,ペーパーディスク型地下水流向流速計は熱量型流速計の計測流速とほぼ整合した.

  • 黒澤 萌香, 難波 謙二, 和田 敏裕, 脇山 義史
    セッションID: OP-8-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    ため池における137Cs蓄積プロセスを明らかにするために,底質除去後の都市域ため池にて,採水採泥調査を行い,池水の137Cs濃度,底質における137Cs深度分布およびインベントリを追跡した。その結果から,除染により,池水の 137Cs 濃度,底質の 137Cs 濃度,インベントリが大幅に低下したことがわかった。しかし,除染後でも底質表層の 137Cs 濃度が 8,000 Bq/kgDW を超える地点が存在し,除染後細粒分が堆積した可能性が示唆された。増水時における流入水の懸濁物質の137Cs 濃度が 2 ヶ所で 8,000 Bq/kgDW を超えていた。以上より,降雨イベント時に大量の土砂が流入することにより,底質の 137Cs 濃度が高濃度になることが示唆された。

  • 原田 茂樹
    セッションID: OP-8-03
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    市街地では主に交通起源の重金属が雨天時に路面排水として流出する。本稿ではポーラスコンクリートを雨水桝底に設置したオンサイト浸透工法の利点を整理した上で、主要な重金属流出制御メカニズムを整理した。仙台市若林区の現実の雨水桝において路面排水を採取しその濾過前後の重金属濃度を示し、ポーラスコンクリートによる濾過効果を検証した。さらに室内散水実験の結果と比較し主要な重金属流出制御メカニズムの評価を進めるとともに今後の課題として都市型水文モデルInfoworks ICMを用いた解析を挙げた。

  • 齋藤 光代, 石原 秋太, 王 崑陽, 小野寺 真一
    セッションID: OP-8-04
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    本研究は,主に都市化にともなう土地利用の改変が進む流域を対象に,現地での高頻度観測および水文水質モデルを用いた解析に基づく水・栄養塩流出の評価を行った.

  • 田中丸 治哉, 立林 信人, 森 怜菜, 板倉 慎一郎, 多田 明夫
    セッションID: OP-8-05
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    ため池の洪水軽減効果は,洪水前の空き容量による雨水貯留と,ため池水位が洪水吐敷高(常時満水位)を超えたときの一時的な雨水貯留によって発現するが,本報告では,前者の効果をピーク低減率で,後者の効果をピークカット率で表現した.兵庫県の淡路地区のため池1,898箇所と丹波篠山地区のため池446箇所を対象として,貯留関数法による洪水流出解析とため池貯留計算によってピーク低減率とピークカット率を求めた後,これらをため池諸元から簡単に求める方法を検討した.その結果,ピーク低減率は空き容量の雨水保留量換算値から推定でき,ピークカット率は満水面積の1.5乗を流域面積で除したものから推定できることが示された.

  • 久保田 富次郎
    セッションID: OP-8-06
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年の豪雨災害の頻発化に伴い,流域治水への取り組みの強化が求められている.農業・農村地域では,農業用貯水池の事前放流や水田の貯留機能の活用が進められているが,畑地の活用は俎上にあがっていない.本研究では、従来,農業・農村の持つ多面的機能の一環として検討されてきた農地の持つ洪水緩和機能について振り返るとともに,これまでほとんど俎上に上がらなかった畑地の活用の可能性と考慮すべき要因について報告する.

森林水文/水災害(2)
  • 村上 茂樹, 北村 兼三
    セッションID: OP-9-01
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    林分密度5700本/haと9700本/haのスギ林分で樹幹流SFと樹冠通過雨TFを測定した。林外雨PGからSFとTFを差し引いて樹冠遮断Iを算出した。  9700本/haの林分ではTF/PG が24.7%となり、Jeong et al. (2019 doi: 10.2480/agrmet.D-18-00030) の記録を抜いてスギ・ヒノキ林における最小値、同様にSF/PG は62.2%で最大値となった。林分密度SDが2500本/haまではI/PGはSDとともに増加するとされていたが、5700本/haと9700本/haの2林分については、I/PGはSDとともに減少した。従って、2500本/haと5700本/haの間のSDにI/PGのピークが存在することが予測される。5700本/haと 9700本/haの両林分において、降雨ごとのPGとIの関係はそれぞれ単一の回帰直線ではなく2本の回帰直線で表せる(折れ曲がりを持つ)。具体的にはPG(横軸)-I(縦軸)のグラフで、大雨時に回帰直線の傾きが大きくなる。折れ曲がりは、2020年7月5日から7月8日に測定された大雨を1時間ごとに解析した結果にも見られた。すなわち、5700本/haと 9700本/haの両林分においては雨量や降雨強度が大きいときに、これらが小さいときと比較して、樹冠遮断がより大きくなる。  通常のSD(約3000本/ha以下)と比較して、高いSDの林分では樹木1本が占める樹冠投影面積と枝角(鉛直上向きから水平方向に向かって測った枝の角度)が小さくなる。通常のSDでは雨量や降雨強度に比例してSFが増減する。しかし、SDが大きいと雨水の集水効率が高くなるので、雨量や降雨強度がある限界を超えて大きくなるとSF が飽和して枝からあふれ、PG -SFの回帰直線の傾きが減少する。さらに、あふれたSFがTFとなり、その一部は飛沫となって蒸発・消滅すると考えられる。飛沫蒸発は樹冠遮断の主要メカニズムである(Murakami 2021 doi: 10.1080/02626667.2021.1924378)ことを考慮すると、折れ曲がりに関する上記の説明は妥当であるとともに、飛沫蒸発の間接的証明でもある。

  • 白木 克繁, 川名 竣介, 辻中 晴菜, 有吉 桜, 内山 佳美
    セッションID: OP-9-02
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    樹幹離脱流を定義し、その観測システムを作り、定量的な分析を行った。調査は大学内の2本の広葉樹(カツラ・ケヤキ)を対象とした。ケヤキは凹凸の少ない樹皮が特徴であり、多くの林内を枝や幹で集め、多量の樹幹流が発生した。また、幹から離脱した雨水の成分も多量であり、ケヤキの幹回りの林内雨量は平均林内雨の2倍となって。これは、林内雨の分布が空間的にランダムではなく、幹回りに特に多いということを示している。一方カツラの木では樹幹流として雨水を集める量も少なく、幹回りの林内雨は平均林内雨よりも少なかった。これはカツラの樹皮に凹凸が多く、樹幹流が容易に離脱することで樹幹流が少ないと考えることができる。樹幹離脱流は特定の樹木で多量に発生することがあるので、より詳細な観測と情報の集積が必要である。

feedback
Top