主催: 水文・水資源学会/日本水文科学会
会議名: 水文・水資源学会/日本水文科学会 2022年度研究発表会
開催地: 京都
開催日: 2022/09/04 - 2022/09/07
近年,線状対流系豪雨による被害が頻発している.その維持機構は明らかにされているものの,勃発機構については明らかにされておらず,発生予測は困難なものとなっている.その困難さは,地形などの必然性由来の要因と空気の乱れなどの偶然性由来の要因のどちらもが線状対流系の勃発に寄与しているためである.現在最も一般的に用いられている乱流スキームであるRANS(Reynolds-Averaged Navier -Stokes eqations)では,Reynolds 平均からのずれとなるすべての変動成分がモデル化の対象となっており,正確に乱流を表現しているとは言い難い.一方,LES(Large-Eddy-Simulation)では,計算格子スケール以下の変動成分のみがモデル化の対象となり,計算格子より大きいスケールの渦変動は直接解析を行うことができる.以上の背景から,必然的要因と偶然的要因をより精緻に区別するため,本研究ではLESを用いて数値実験を行った.
2012年8月に発生した宇治豪雨を対象としてコントロール実験を行った結果,線状対流系の特徴を持つ雨域を表現することができた.その雨域の勃発に着目したところ,六甲山の地形とともに淡路島からの低温位の気流が,空気塊の持ち上げに寄与していることが明らかになった.
さらに,線状対流系に対する淡路島及び六甲山の影響を検証するため,それぞれの地形を取り除く感度実験を行った.その結果,どちらを取り除いた場合にも線状対流系は発生せず,淡路島によって形成された低温位領域及び六甲山の地形という2つの要素が線状対流系の発生には必要であったことが明らかになった.
また,偶然的要因に関するアンサンブル感度実験も行った.温位の初期値に-0.1K~0.1Kのランダムノイズを加えて同様の計算を行った結果,線状対流系が発生する場合とそうでない結果が得られた.このことから,線状対流系の発生には偶然的な要因の寄与も大きい可能性が示唆された.