水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2022年度研究発表会
選択された号の論文の150件中1~50を表示しています
口頭発表(一般セッション)
流出
  • 谷 誠, 太田 明, 小島 永裕, 鶴田 健二
    セッションID: OP-1-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    ゼロ次谷で発生した表層崩壊跡地の38年後のフィールド調査と近隣流域の同じ洪水時の流出応答への鉛直不飽和浸透流モデルの適用結果から、花崗岩山地の流出機構について考察した。草本でおおわれた崩壊跡地には雨水集中部に基岩裸出部がみられ、土壌層発達には木本の根系ネットワークによる補強が必要であること、土壌層発達後も集中部にパイプが残されその効率的な排水効果が、鉛直浸透が洪水流出応答を主に制御する結果を生み出すだと考えられた。

  • 早野 浩一朗, 横尾 善之
    セッションID: OP-1-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    本研究は,Yokoo et al. (2017)が提案した降雨流出過程の逆推定法による降雨流出モデリング手法を開発することを目的とした一連の研究の最終段階として,地表面モデルの構築法を検討した.まず,福島県内の中小河川である宇多川,夏井川,新田川,塙子沢を対象として,降雨流出過程の逆推定法が推定する有効降雨量を推定した.次に,有効降雨量と観測雨量をつなぐタンクモデル型の地表面モデルを構築し,蒸発散量を推定した.最後に,これらの推定値を用いて年間の水収支を計算し,地表面モデルの妥当性を検討した.

  • 李 庶平, 山崎 大
    セッションID: OP-1-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    Recent land surface models can explicitly represent the spatial heterogeneity of land surface process and focus more on terrestrial features at hillslope scale. However, discussions over the hillslope hydrology control on landcover are still lacking inside the land surface modeling community, and it remains unknown how this controlling effect can be effectively represented. Regarding this, we propose a spatial tessellation method that discretizes catchment into a predefined number of independent topographic columns along hillslope. By representing one dominant landcover type in each column, discretized columns are assumed to approximate the hillslope landcover heterogeneity effectively and efficiently. The proposed method can better represent land surface heterogeneity than the conventional grid-based method, which is assumed to improve modeling accuracy in the land surface model.

  • 佐山 敬洋, 山北 文登, 山田 真史, 菅原 快斗
    セッションID: OP-1-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    洪水予測や気候変動の影響評価など、様々な目的で分布型の水文モデルが利用されている。洪水予測では、観測された主要な地点の流量予測に加えて、観測情報の存在しない中小河川の予測も大切である。気候変動の影響評価では、流域の特性も反映したうえで、将来の変化傾向を広域俯瞰的に推定することが求められる。空間的に整合性の取れた水文予測を実現するためには、特定の流域を対象にした分析のみならず、複数の流域、地域、全国あるいは全球スケールでの水文モデリングとその検証が必要である。広域を対象とすることによって、多数の観測データを用いて統合的に分析できるようになり、比較水文学のアプローチによって、水文プロセスの解明やモデルの改善点なども明確化できる可能性がある。本研究は、日本全国を対象にした空間解像度150 mの洪水予測システムを用いて、洪水の予測精度を多地点で検証する。具体的には、条件付き確率法に基づく方法でモデルパラメータを地域統合化して設定したうえで、全国710地点(延べ2,965出水)を対象にした流出計算の精度検証を行う。本検討の結果、全国でNSEの中央値が0.86、四分位が0.75~0.92 となり、ピーク相対誤差の中央値が-0.09、四分位が-0.29~0.13であった。また、地点毎のNSE平均値の空間分布を確認したところ、西日本の方が東日本に比べて全体的に再現精度が高く、東北、北海道で特に精度が低くなる河川流域があることが分かった。さらに、流域の大きさに応じた精度を比較した結果、100~1,000 km2の流域スケールで最も精度が高く、10,000 km2を超える大流域の観測地点で相対的に精度が低くなっていることが明らかとなった。今後は、モデルが実現象を再現しきれないこ原因を類型化するとともに、その改善策を提示することが課題である。

流域水管理・開発/水文統計
  • 三笘 将輝, 森山 聡之, 酒井 椋三, 坂本 翔一, 岩石 英久
    セッションID: OP-2-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    本研究では機械学習と水処理センターのポンプの揚水量に焦点を当て、水処理センターの過去の揚水量データを用い機械学習によって将来予測を試みた。 使用する揚水量データは福岡市西部水処理センターのもの、機械学習の手法は説明可能な人工知能(以下xAI)の内、XGBoost、LightGBM, CatBoost, NGBoostの4種類を用いる。 過去12時間までの降水量を各時間の説明変数とし、ポンプ揚水量とした。これに加えカテゴリーデータとして、その日の天気年月日および時間、曜日、休日かどうかなどを説明変数とした。単にパラメタを最適化するだけなく、ハイパーパラメタを最適化するoptunaと訓練期間と評価期間のデータをシャッフルして最適化するCross Validation(以下CV)も試みた。 求めた目的変数の、テスト期間における予測値と実測値のR2乗値が比較的良好であった予測値と実測値の例と、そのパラメタの重要性をSHAPで表す。その結果、予測精度はあまり良いとは言えないが、パラメタの重要性において、重要度は上位から時、月、年、日、曜日、天気が続き、その後に過去の降水量が続いた。降水量が下位になるのは晴天の日が支配的であるから、時は24時間の周期性、月は夏期の雨や学校プールの使用水量、年は気候変動とも考えられる。日は不明確であり、曜日はある程度理解できるが、休日(旗日)は降水量より下位にあり重要でないことがわかる。 ここで注目すべきは降水量である、3,2,1,4,5,0時間前と並んでおり、これはちょうど3時間をピークとする3角形であり、単位図に他ならない。すなわちxAIは単位図を再発明したことになる。他のxAIやチューニングの方法に関わらず、若干の順位の変動はあるものの概ね同様の傾向を示していることから信頼性もある程度ありそうである。

  • 沢田 明彦, 後藤 慎一, 増本 隆夫
    セッションID: OP-2-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    低平水田域である新潟県西蒲原地区を対象に,排水機場等の整備に関する水準を上回る豪雨が発生した場合の流域管理の考え方や,そのような状況に対する用排水路等の土地改良施設を含めた水田域の持つ潜在的な遊水地機能を検討するとともに,水田域の貯水能力を算出し遊水地を代替とする経済評価を試みた.まず,算定に必要となる対象地区を象徴的に示す全流域流出ハイドログラフは,施設設計段階の計画降雨に対する関数近似化された地目別の流出ハイドログラフを合成して導出した.これにより算出された全流域流出ハイドログラフについて,最大排水能力(ポンプ場では最大ポンプ容量)を超える流量の総和が氾濫量となる.ここで流域レベルで見た場合,都市域の流下量は河川の最大通水能力を超えることができないため,大洪水に対しては低平水田域(排水路や排水河川を含む)が洪水を積極的に貯留するバッファーとしての遊水地機能を果たしていることになる(氾濫量=貯留能力Sと表現できる).すなわち,都市域の流下量と都市近郊の水田域の洪水低減能力の関係は,排水能力と貯留能力(氾濫を緩和)の関係と言い換えることができる.この排水(通水)能力Dと貯留能力Sの関係は曲線として描けることから,対象地区におけるこのグラフを降雨確率年ごとに算出し,これを基に,現在の整備水準(排水能力)を超える降雨に対する2つの対応策を考え比較検討した.1つ目は排水能力の強化により,洪水時の水田域への貯留量を現状に抑える排水能力強化策であり,この排水能力増強に必要な建設費を試算した.2つ目は排水能力を現状維持とし,洪水を水田域で貯留させると考える水田貯留能力利用策であり,これに必要となる貯留量を備えた遊水地の建設費を試算した.両者を経済的に比較した結果,水田貯留能力利用策の方が安価となり現実的な対応策であることが示された.一方,実際の遊水地造成に関しては課題が多いことから,水田域が既に有し,すぐに利活用可能である潜在的な遊水地機能を,流域管理の一環として農業者側が意識し活用を試みること,また,これを都市側が理解し支援していくことが望ましい選択肢の一つになる.水田での降雨貯留によりピーク流出を一時的に抑制する田んぼダムのみならず,水田域での遊水地機能(洪水を貯留)を意識した利活用は,水田域が持つ機能を流域管理の一環としての流域治水により利用する一つの方法と言える.

  • 余田 奈穂, 山崎 大, 渡辺 恵
    セッションID: OP-2-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    水資源循環における人間活動との相互作用を評価する全球水資源モデルでは,高解像度での水資源の需給評価を行う上で,運河などの遠隔導水による取水を考慮することが課題となっている.本研究では,インダス川流域の多くの灌漑水路と支流の間で水を輸送する運河が組み合わさった灌漑システムを対象に,全球水資源モデルであるH08のスキームを適用することで,どの程度運河導水が表現できるかについて検討した.インダス川流域のダムや取水堰と灌漑地の分布の文献や画像を元にH08の遠隔導水スキームを利用できる形式に変換し,運河による導水量を評価した.特に,主要な河川の間で水輸送を行う連絡運河についても,簡易的な形で実装を試みた.これによって取水量の予測値と観測値の誤差が3分の1程度少なくなり,灌漑農地であるのに水逼迫度が1%未満に評価される地域の割合が減少するなど,より現実的な水需給評価ができるようになった.

  • 鈴木 耕平, 乃田 啓吾, 出村 沙代, 手計 太一, 木口 雅司, 沖 体幹
    セッションID: OP-2-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    近年の豪雨災害の頻発化に伴い、あらゆる関係者(以下、ステークホルダーとする)が流域全体で行う持続可能な「流域治水」という方向性を打ち出し、流域治水への取り組みの強化が求められている。神通川においてもこのような背景から科学的知見を地域課題解決に有効活用できる期待がある。科学的知見を活用する上では、一方的に一部の知見に基づいて政策等の意思決定を行うと、トレードオフとして不利益を被るセクターが生じる可能性もある。また、科学的知見があるにも関わらず、必要な場所で必要なタイミングに提供できる機会は、限定的である。今回は、対話の手法を取り入れ、科学的知見に裏打ちされ、かつ、あらゆる関係者が主体的に実践できる流域治水の取り組みを社会実装することを目的にして、科学者とともに市民参画型ワークショップを実施した。神通川水系に置いて、”あらゆる関係者”それぞれの「流域治水」に対する現状認識の共有、役割分担と連携関係などについて、試行錯誤的に実践している取り組みを紹介する。

  • 葛葉 泰久, 水木 千春
    セッションID: OP-2-05
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    著者らは,昨年度,葛葉・水木(2021a, 2022)を元にした本研究発表会の発表で,高棹・宝ら(1986)のSLSCとリサンプリング法を基軸に置いた,中小河川計画の手引き(案)に記載された「確率水文量の算定手法」が不適当なものであることを説明した.ところが,行政関係者等に聞いたところ,上述の論文・発表は「なかなか理解しにくいもの」らしく,さらに簡潔な説明が必要と考えた.そこで,本稿では,新たに「さらに視覚的に理解しやすい説明」を目指したものである.具体的には,解析的に求めたSLSCの平均と分散を図示し,それによって「標本サイズに関してフェアではないこと」「確率分布に関してフェアではないこと」を示すこととした.

  • 丸尾 啓太, 近森 秀高, 工藤 亮治
    セッションID: OP-2-06
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    確率水文量の推定には,一般に年最大値を対象とする区間最大値法が用いられている.しかし,対象とするデータサイズが小さい場合,対象期間内のデータの変化の影響が大きいために,確率水文量の推定値に大きな変動を及ぼす難点がある.近年,Maraniらによって提案された「メタ統計的手法」では観測時系列データ全てを対象とするので,観測期間が比較的短い場合でも区間最大値法よりも安定した推測値が得られる.しかし,例えば日雨量を対象とする場合,メタ統計的手法による確率日雨量の推定精度を高めるためには,各年の日雨量データに当てはめる確率分布の適切な選定が必要である.本研究では,「メタ統計的手法」適用のための日雨量の確率分布の選択基準としてAIC,PPCC,PRMSEついて比較検討した結果,PRMSEが良い性能を示すことを確認した.日本全国の各地の日雨量を対象にPRMSEを用いて適切な確率分布を選択した結果,地域的な分布傾向が確認された.地形性降水の影響を調べたところ,PRMSEによる選択でワイブル分布が選ばれた地点は地形性降水の影響が大きいことが分かった.

降水
  • バリ シェイクー・ヘフズル, Yokoo Yoshiyuki, Husna Noor Ashmaul
    セッションID: OP-3-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    Rainfall variability and seasonality are important for Bangladesh because they have influences on the agro-economy as well as the ecology of the country. To understand the variability and seasonality (also changes in seasonality) in rainfall, we used 50 years of rainfall data. The Mann-Kendall trend test was used to identify possible change in seasonality over time. The Mann-Kendall test found positive and negative trend in seasonality for some stations., , all of them are statistically nonsignificant in 95% confidence interval.

  • 上米良 秀行, 松田 曜子
    セッションID: OP-3-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    本研究では、竹之高地観測所の雨量計によって把握できる太田川上流域の空間平均雨量がどの程度であれば下流の河川水位が上昇し、またそれによって外水氾濫の危険性が高まるのか、極値統計学に基づく基礎的な検討に取り組んだ。

  • 塩尻 大也, 齋藤 匠, 欧陽 懋, 小槻 峻司
    セッションID: OP-3-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    降水は陸域における水資源の供給源であると同時に,しばしば災害をも引き起こしうる,水文研究において最も重要な変数の一つである.したがって降水量の時空間分布を適切に把握可能とすることは水文学における重要な研究課題と言える.降水量の時空間分布を推定するための手法として,例えばレーダーによる地上・衛星観測データや数値気象予報モデルによる推定結果を,地上雨量計による地点観測データを用いて補正する手法がある.これらの手法において雨量計は重要な役割を果たす一方,雨量計をどのような場所に配置するのが最適かという問題についての研究はほとんどない.そこで本研究では情報科学の分野で開発されたスパースセンサ位置最適化手法を用いることで,最適な雨量計の配置を求める手法を提案する.本手法では過去の降水量の時系列データを固有直行分解して得られるPODモードのうち空間的なものについて,分散の大きいものからいくつか選択し,選択された全モードに対して最も寄与が大きい地点をQD法によって求め,その地点を最適な雨量計設置位置とする.またLETKFのアルゴリズムを使用し,雨量計からの観測情報のみからデータ同化的な場の復元も行う.復元された降水量の場を,アメダスの観測点情報から最近傍法で補完した降水量と比較し,データ同化的な場の復元により補完された地点で誤差が低減することが確認できた.

  • 長谷川 青春, 鼎 信次郎
    セッションID: OP-3-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    タイは独自の数値モデルを保有していないため、降水観測にはレーダー観測や雨量計データに基づく観測が用いられている。予測や長期的な気候解析には、降雨データが重要であるが、観測値だけではタイ全域を網羅できないため、統計的な補間手法が用いられているが、その精度には課題が残されている。本研究は、AIを用いた全球降雨データ学習法を提案し、短時間かつ高い信頼性で降雨観測データの欠損を補完する。本研究では、複数の数値シミュレーションのアンサンブルを用いて、全球の降雨分布からタイの降雨を再現するモデルの構築に成功した。

  • 河谷 能幸, 山口 弘誠, 中北 英一
    セッションID: OP-3-05
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    近年,線状対流系豪雨による被害が頻発している.その維持機構は明らかにされているものの,勃発機構については明らかにされておらず,発生予測は困難なものとなっている.その困難さは,地形などの必然性由来の要因と空気の乱れなどの偶然性由来の要因のどちらもが線状対流系の勃発に寄与しているためである.現在最も一般的に用いられている乱流スキームであるRANS(Reynolds-Averaged Navier -Stokes eqations)では,Reynolds 平均からのずれとなるすべての変動成分がモデル化の対象となっており,正確に乱流を表現しているとは言い難い.一方,LES(Large-Eddy-Simulation)では,計算格子スケール以下の変動成分のみがモデル化の対象となり,計算格子より大きいスケールの渦変動は直接解析を行うことができる.以上の背景から,必然的要因と偶然的要因をより精緻に区別するため,本研究ではLESを用いて数値実験を行った.

     2012年8月に発生した宇治豪雨を対象としてコントロール実験を行った結果,線状対流系の特徴を持つ雨域を表現することができた.その雨域の勃発に着目したところ,六甲山の地形とともに淡路島からの低温位の気流が,空気塊の持ち上げに寄与していることが明らかになった.

     さらに,線状対流系に対する淡路島及び六甲山の影響を検証するため,それぞれの地形を取り除く感度実験を行った.その結果,どちらを取り除いた場合にも線状対流系は発生せず,淡路島によって形成された低温位領域及び六甲山の地形という2つの要素が線状対流系の発生には必要であったことが明らかになった.

     また,偶然的要因に関するアンサンブル感度実験も行った.温位の初期値に-0.1K~0.1Kのランダムノイズを加えて同様の計算を行った結果,線状対流系が発生する場合とそうでない結果が得られた.このことから,線状対流系の発生には偶然的な要因の寄与も大きい可能性が示唆された.

  • 大野 哲之, 山口 弘誠, 中北 英一
    セッションID: OP-3-06
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    本研究はX バンド偏波レーダの立体観測に基づき,線状対流系における降水粒子の3 次元的な分布のマルチフラクタル特性と地上降水強度の関連性について解析することを目的とした.マルチフラクタルを特徴づけるべき乗則は降水現象を始め地球物理学の様々な分野で見出されている性質である一方で,線状対流系の氷相降水粒子分布におけるマルチフラクタル特性に関する研究例は本研究以外にない.解析事例は2012 年7 月15 日に発生した京都亀岡豪雨とした.国土交通省が管轄する近畿地方にある4 基のXバンド偏波レーダによる5 分毎の立体観測データを用いて,解像度250mの直交座標系データを作製した.立体観測に基づく雨水分布の解析には配信されるデータの一つである降水強度を使用した.また融解層より上空の霰,氷晶,雪片の混合比を偏波パラメータより推定し,解析に使用した.降水強度の領域平均値の増加速度が大きくなる時間帯を境に,霰混合比に対する一般化次元の分散が比較的小さい状態に変化した.このことは対流系の発達段階と霰混合比の分布のマルチフラクタル性に関連性があることを示唆する.氷晶および雪片では多少の差異が見られたものの,降水量の増加速度が増す前後の時間帯でマルチフラクタル性が弱まる振る舞いがみられた.

  • FAUZIANA AHMAD, Yamaguchi Kosei, Nakakita Eiichi
    セッションID: OP-3-07
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    The severe weather prediction is important to predict the outcome of the threats to help forecasters in broadcasting the warnings. Therefore, the analysis of cells merging from single cell to multicell in terms of characteristics patterns and kinematic mechanisms are essential for the dissemination of early warning systems. The objective of this study is to develop the signature patterns of cells merging by utilizing multi-parameter radar, kinematic mechanisms and vertical vorticity analyses. The investigation of vertical vorticity, updraft and multi-parameter radar revealed the peak of core vorticity and updraft slightly increased after the multicell formation. The updraft strength influenced the core vorticity intensity and its formation height. By analyzing Zdr and Kdp columns, they were observed identical to the position of the updraft. The column depth was also influenced by the updraft strength, and Kdp columns was discovered the main significant patterns in the cells merging compared with Zdr column.

  • 前川 智寧, キム ファヨン, 中北 英一
    セッションID: OP-3-08
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    近年,都市域を中心としてゲリラ豪雨と呼ばれる局地的豪雨による災害が問題となっている.こうした災害による被害を防ぐため,ゲリラ豪雨の危険性予測に関する研究が多数なされてきた.Kim and Nakakita (2021)はマルチドップラー解析によって推測される鉛直渦度などを説明変数として用いることで精度の高い定量的な危険性予測が行えることを示し,さらにこれらの変数が積乱雲を探知してからの経過時間によって異なる特徴を見せることに着目して,積乱雲探知からの経過時間を5分ごとに区切ったステージに沿って,段階的に別個の予測式を作成することによってより精度の高い定量的予測が行えることを示した.しかし,ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲の一生の長さは30分から1時間程と幅があり,個々の積乱雲によって異なる.そのため,既往研究で設定された5分ごとの段階的なステージが,異なる事例間において必ずしも積乱雲の発達過程における同じ段階を意味するとは限らない.そこで本研究では増田・中北(2014)が開発した偏波レーダ観測値から粒子判別を行い,その粒子判別結果から積乱雲の発達過程の判定を行う手法を用いてゲリラ豪雨の定量的な危険性予測におけるライフサイクル概念の有用性について検討した.具体的には,地上最大降雨強度と上空の最大降雨強度離散化したものを目的変数としてTime step及びLife stageに基づいて重回帰分析を行い,その予測式を元のデータに当てはめることで再現実験を行った.結果,Life stageに基づいた予測によってTime stageと少なくとも同等か,あるいはそれ以上の結果が得られたと言えた.そもそもこれらのような単純な再現実験においては,より分類の多いTime stepの方が有利であることが考えられる.それにもかかわらずLife stageがTime stepと同等以上の再現結果を示したことから,Life stageの有用性を示唆できた.Life stageの優位な点は,積乱雲の物理的な説明を考慮した普遍性にある.したがって今後の課題としては,今回のような再現実験ではなく,より多くの事例を集めて学習用データとテスト用データに分けて予測実験を行い,Life stageの有用性を検証したい.

リモートセンシング
  • 藤本 寛生, 手計 太一, 松浦 拓哉
    セッションID: OP-4-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    本研究では,ひまわり標準データの赤外バンドの雲頂の輝度温度画像に平滑化フィルタを適用し,それに閾値を設定することにより雨域判定を行った.結果として,平滑化フィルタの有用性は確認されなかったが一か月間の降水イベントに対してノンフィルタ時よりある程度高い適中率を示した.このことから更にフィルタを改善することにより,適中率の向上を目指す.

  • 石川 悠生, 山崎 大, 楊 雨亭
    セッションID: OP-4-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    人間の地表水利用の63%を担う河川流量の空間変化を把握することは安定した水資源の利用のために不可欠である。近年発見されたAt-Many-stations Hydraulic Geometry(AMHG)という新しい流量則を用いることで、現地観測データを必要とせず、衛星画像から抽出された河道幅データをもとに河川流量を推定することが可能になった。本研究では、AMHG流量推定手法の一つである、Bayesian AMHG-Manning(BAM)アルゴリズムを黄河主流の2つの対象区間に適用し、Landsat TM画像から河川流量の空間変化を推定した。BAMによる推定流量の精度を6つの現地観測所においてモデル流量と比較したところ、全ての評価指標において改善が見られた。BAMによって推定された対象区間に沿った河川流量の変化のトレンドは、現地観測流量と同様の増減の傾向を示した。特に灌漑が盛んに行われている流域においては、モデル流量では増加の傾向を示していたの対し、BAMでは流量が大きく減少しており、人間活動による河川流量への影響を評価できる可能性が示唆された。一方で、BAMは各河道ごとに流量則のパラメータを最適化するため、隣接する河道との間の流量の連続性を考慮しておらず、河道間で流量が大きく変動してしまうという問題も明らかになった。このような課題もあるが、流量の連続性を考慮するようなアルゴリズムの改善により、未観測流域での河川流量のモニタリングに役立てられることが期待される。

  • Paul Adigun, Dairaku Koji
    セッションID: OP-4-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    Due to the negative consequences of urban heat islands (UHI) on urban ecology, Identifying the regional variation of land surface temperature (LST) offers a clear picture of the UHI phenomena. Delineating the impact of UHI on land cover changes and land surface temperature (LST) is of utmost importance due to its dynamic nature. This study uses Landsat Images TM, ETM, and OLI sensors over the southwestern region of Nigeria, consisting of Ekiti, Osun, Ondo, Oyo, Ogun, and Lagos. A supervised classification was performed by creating a training sample from four classifications: vegetation, built-up, water body, and bare surface. Our results during the observed period (1986, 2002, and 2007) show that the distribution pattern has changed due to evolving urban surface characteristics and the influence of anthropogenic activities. The result of the research revealed that Southwest Nigeria has gone through rapid urban expansion that is expected to continue in the future, 20% decline in vegetal coverage 15% increase in bare soil, amounting to a total of 35% change caused by human activities during the investigation period. The result further reveals the existence of an inverse connection between LST and NDVI with correlation coefficients of −0.8738, −0.8594, and −0.8546, respectively, which suggests that the growth of vegetation in any geographical location reduces the intensity of the land surface temperature over the area, which might be used to minimize the impacts of Urban Heat Island.

  • 岡地 寛季, 山田 朋人
    セッションID: OP-4-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    海面抵抗の大きさの指標となる海面抵抗係数は従来風速に対して単調増加として扱われるが,Powell et al. (2003)は暴風時に減少することを観測より示した.近年はある風速を超えると一定値となることが示唆されている.しかし,海面近傍の飛沫の質量密度や水平風速は暴風雨下かつ混相流としての基礎的な物理量であるが,極端現象が生起することが稀有であることや暴風雨下での観測が困難であるという背景を有する.そこで本研究は極端現象下の海面近傍の領域を対象にレーダ観測を実施し,飛沫の質量密度及び水平風速の推定手法を提案する.

水災害
  • 小槻 峻司, Ouyang Mao, 岡崎 淳史, 徳田 慶太, 小林 亮太, 小蔵 正輝, 薄 良彦, 稲村 友彦
    セッションID: OP-5-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    地球温暖化の進行等により、台風や豪雨などによる極端風水害が激甚化・増加している。気象災害へのこれまでの取組は、構造物等による被害抑止や、災害発生前の準備や発生時の早期警報発出等による被害軽減等が主であった。しかし今後も激甚化・増加が想定される台風や豪雨に対して限界があり、これらに加え災害につながる気象現象自体の回避や軽減を可能とする制御技術の研究開発が必須である。この様な背景のもと、内閣府ではムーンショット目標に「2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現」することを掲げ、研究開発体制を整えつつある。本発表では、我々のグループで取り組みを始めた、気象制御の実現に向けた制御容易性・被害低減効果の定量化に関する初期検討について報告する。

  • 山路 昭彦, 増田 有俊, 真中 朋久, 安部 智彦, 齋藤 泰治, 齊藤 洋一
    セッションID: OP-5-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    近年,線状降水帯による豪雨災害が大きな問題になっている.人命を守るためには早期な避難が重要であるが避難判断に必要な線状降水帯の発生を正確に予測することは困難である.本研究ではメソアンサンブル予測雨量から線状降水帯を楕円近似して抽出してその発生を手法する開発し,その結果,空振り率は83.2%,発生予測頻度は5.4%とすることができた.既存手法と比べると,空振り率が10.1%の減少,発生予測頻度が17.5%の減少となった.本手法を避難判断に活用することで豪雨災害軽減に資するものと考えられる.

  • 相原 星哉, 吉田 武郎
    セッションID: OP-5-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    治水を本来の目的としない農業用ダムでも,事前放流等の洪水調節に係る運用が開始されている.農業用ダムは,事前放流による確保容量が小さいゲートレスダムが多くを占めるため,大規模な降雨に対する治水効果は限定的で,農業用ダムにより流域の治水安全度の向上を図るには,治水効果の向上策が求められる.一方で,洪水吐ゲートを保有する農業用ダムは,洪水ピーク付近まで確保容量を温存する放流操作を行えば,同規模のゲートレスダムよりも大きな治水効果が期待できる.また,洪水吐ゲート操作による治水効果の向上について評価すれば,治水効果の向上策としての放流施設の増強の有効性についても検討できる.そこで本研究では,洪水吐ゲートを保有する農業用ダムの1つであるSSダムを対象に,洪水吐ゲート操作による事前放流の治水効果について評価し,7基の農業用ダムにおいて,SSダムと同様の放流操作を実施した場合の治水効果を試算した.

    SSダムの操作規則に準じて,洪水量以上の流入のみを貯留する放流操作(一定量放流)により,ダム流入量に対する放流量のピークカット効果を,総雨量150~400 mm/dの降雨を入力として計算した.その結果,ダム放流量のピークカット効果は,総雨量200~300 mm/dの範囲において,自然越流式の放流を行った場合の2.8~5.2倍まで増加した.

    計8基の農業用ダムにおいて,一定量放流および自然越流式の放流操作によるピークカット効果を比較した.ダム集水面積あたりの確保容量(相当雨量)が50 mm以下と小さいダムにおいては,総雨量250~350 mm/dの降雨におけるピークカット率は,自然越流式の放流操作では10%未満に限られたのに対し,一定量放流では最大で20~30%まで向上した.

    洪水量を超過する流入のみを貯留する放流操作により,事前放流による治水効果が向上すると推定された.利水上の制約により,事前放流により確保する空き容量(相当雨量)の増強が困難な農業用ダムにおいては,洪水量を放流可能な施設の整備が,有効な治水効果を向上策の一つであることが示唆された.

  • 柳原 駿太, 風間 聡, 多田 毅, 山本 道, 峠 嘉哉
    セッションID: OP-5-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    共有社会経済経路(SSP)別の気候シナリオデータを使用して,人口変動に伴う土地利用変化を考慮した将来の洪水被害の全国評価を行った.二次元不定流モデルを用いて洪水氾濫による浸水深を算出した.また,治水経済調査マニュアル(案)を参考に洪水被害額を算出した.将来気候における洪水被害額の推定に5つの全球気候モデルの出力値を用いた.基準気候(1981年から2000年)から近未来気候(2030年から2050年)にかけて洪水被害額は,SSP1-2.6において2%増加,SSP5-8.5において7%増加すると推定された.基準気候から21世紀末気候(2081年から2050年)にかけて洪水被害額は,SSP1-2.6において33%減少,SSP5-8.5において11%減少すると推定された.21世紀末気候の洪水被害額は減少するが,40以上の都道府県において人口一人あたりの洪水被害額は増加する結果となった.

  • Eva Yamamoto, Sayama Takahiro, Yamamoto Kodai, Kozan Osamu, Ogawa Mari ...
    セッションID: OP-5-05
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    東南アジアの湿った熱帯河川流域の主要河川の下流部分は、将来、より頻繁でより深い洪水を経験するでしょう。これらの低地には、火事にも弱い熱帯泥炭地が含まれます。大規模な農地や木材会社の下では、この地域の地下水位は十分に規制されているため、作物を育てるには十分な低さですが、火災を防ぐには十分な高さです。しかし、頻繁に氾濫する地域に作物を植えることは効率的に実行可能ではないため、プランテーションの一部は通常、オープンランドとして放棄されるか、低木/草で覆われます。この地域の水位は維持されていません。リモートセンシングの結果は、これらの放棄された地域が従来通り火災や洪水を経験したことを示しています。将来、洪水により放棄された地域が増えるため、火災が発生しやすい地域も増えます。今日まで、熱帯泥炭地の研究は洪水か火事のどちらかにのみ焦点を合わせています。ただし、それらは実質的に発生するため、同時に対処することが重要です。この研究の全体的な目的は、熱帯泥炭地の洪水と火災を、湿った熱帯河川流域の統合された部分として理解することです。

  • 安藤 聖乃祐, 川崎 昭如
    セッションID: OP-5-06
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    途上国では今でもなお貧困問題が生じており,特に貧困に関係する男女差がより大きな問題となってきている.このような途上国の貧困問題は洪水に起因するものもあり,それを解決するために洪水被害を削減することが求められる.洪水被害の大きさは教育年数や性別といった人々の個人的属性に起因すると考えられている.そこで本稿では,途上国における洪水被害や貧困の削減を目的として,途上国の洪水被害を,単に地域全体で分析するだけではなく,個人的属性も考慮した新たな手法を構築することを目標とした.対象地域はミャンマー,ニカラグア,タイ,スリランカの計4つを選定し,同一の指標で比較するためにデータ統合を行った.また,個人的な指標として,特に貧困地域で差が顕著とされている教育年数と性別の2つに着目し,水害の指標として浸水深,洪水期間,収入損失の3つに着目することで洪水被害との関連を分析した .クロス集計を実施して具体的な相関を調べ,その有意性を裏付けるために統計的検定を施した.その結果,教育年数や月収が大きいほど,収入損失の割合が大きくなること,農村部の方が収入損失の割合,浸水深,洪水期間が大きいことがわかった.

  • 村田 亮, 沖 大幹, 徳田 大輔, 木口 雅司, 乃田 啓吾
    セッションID: OP-5-07
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    政策決定の際に,主観的幸福度を厚生の代理指標として,人々の心理的な側面を考慮に入れることの必要性が議論されている.特に,治水経済調査マニュアルにおいては,被災による精神的な被害や治水安全度の向上に伴う精神的な安心感の存在が指摘されている,被災による精神的な被害に関しては主観的幸福度を用いて金銭換算する手法が確立されつつあるが,精神的な安心感や不安感について主観的幸福度との関係に注目した研究はほとんど見受けられない.そこで本研究では,洪水への不安感と洪水経験,および,主観的幸福度の間の関係性を明らかにすることを目的とする. 本研究では,栃木県全域を対象にオンラインアンケート調査を行い,2630人の回答結果を分析した.その結果,洪水への不安感にはさまざまな要素が影響を及ぼしていること,および,洪水経験は主観的幸福度へ直接的な影響を及ぼしているのではなく,洪水への不安感を介して主観的幸福度へ負の影響を及ぼしていることがわかった. 本研究の結果は,洪水への不安感を適切に下げることの重要性を示唆するものである.今後は,洪水への不安感に影響を及ぼす要素をより詳細に明らかにした上で,どのような介入が洪水への不安感の解消に効果的か検討することが求められる.また,防災教育と洪水への不安感との関係を明らかにすることも,今後の興味深いテーマの1つである.

森林水文
  • 蔵治 光一郎, 田中 延亮, Farahnak Moein, Pan Jichu, 佐藤 貴紀, Nainar Anand, 鈴木 春彦, ...
    セッションID: OP-6-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    ヒノキ人工林で100mmを超える降水時の樹幹流下量を連続観測したデータに基づき、降水中の樹冠樹皮吸水と樹幹離脱について検討した。 愛知県豊田市の大洞試験流域内に間伐区、対照区の2つのヒノキ人工林プロットで各3本計6本のヒノキの樹幹流下量を2020~21年の2年間連続観測した。その結果、以下のことがわかった。①降水10mmあたりFunelling Ratio(FR10 )は降水中に樹冠樹皮吸水や樹幹離脱の影響により大きく変動した。②樹幹離脱は降水強度が大きい時に、すべての樹木に共通して起き、FR10が小さくなった。③飽和降水量は降水前の無降水日数や降水強度などの条件によって10mmの場合もあれば226mmの場合もあった。④降水前の無降水日数が長いと樹冠樹皮が乾燥し、飽和降水量が大きくなった。⑤間伐によって飽和降水量が小さくなった。

  • 村上 茂樹, 北村 兼三
    セッションID: OP-6-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    降雨が続いて樹体が雨水で飽和すると、樹幹流は雨量とともに線形に増加する。しかし、一降雨ごとの雨量P(または1時間雨量)が大きくなると樹体が樹幹流SF(または1時間樹幹流SF1h)を流し切れなくなり雨水があふれるか、あるいは大粒の雨滴が枝葉にソフトランディングできずに飛沫となることにより樹幹流が減少し、線形関係に折れ曲がりが生じる。雨量が折れ曲がり点よりも小さな樹幹流を飽和樹幹流 (saturated stemflow, SFSA) 、大きな樹幹流を過飽和樹幹流 (supersaturated stemflow, SFSU) と呼ぶことにする。PとSFSUの回帰直線の傾きは、PとSFSAの傾きよりも小さく、SFSUはその減少分だけ滴下雨と飛沫を樹冠通過雨として供給している。この結果、樹冠通過雨TFは増加するはずである。この樹幹流の減少分をΔSF、樹冠通過雨の増加分をΔTFとすると(どちらも絶対値のみ考える)、ΔSF > ΔTFとなっている。すなわち、ΔSFはΔTFに配分される以外に飛沫となって蒸発している。このため、過飽和樹幹流の発生は樹冠遮断を増加させる。すなわち、SFSUは森林の雨水配分に重要な役割を果たしている。

     平均降雨強度PAVが6.9、8.6、14.3及び42.5mm/hの4つの降雨イベントにつて10分毎の雨量と10分毎の樹幹流の関係を調べた。その結果、SFSAの回帰直線の傾きはPAVの増加とともに大きくなる傾向を示した。ところが、SFSUの回帰直線の傾きはこれとは逆に、PAVの増加とともに小さくなる傾向を示した。すなわち、任意の降雨強度におけるSFSAの降雨強度依存性は、一降雨ごとの平均降雨強度が大きくなるにつれて大きくなるのに対し、SFSUの場合は逆に小さくなる。このことは、SFSUの発生原因が降雨強度とともに増加する飛沫によるものであることを示している。

  • 井手 淳一郎, Jeong Seonghun, 山瀬 敬太郎, 牧田 直樹, 西村 裕志, 福島 慶太郎, 大槻 恭一, 大橋 瑞江
    セッションID: OP-6-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,常緑の針葉樹林と広葉樹林との間で森林を通過する雨水の溶存有機物(DOM)の質にどのような違いがあるのかを検討することを目的とした。このため,福岡県のスギ林およびマテバシイ林に試験プロットを設け,林外雨,林内雨,土壌水の採水装置を設置し,冬季の降雨イベント後にそれらのサンプルを回収した。本発表では超高感度質量分析法FT-ICR-MSを用いてサンプル間のDOMの分子組成の違いを評価したので,その結果を報告する。

  • 中沖 元哉, 田中 隆文, 小谷 亜由美, 金森 直人, 津田 その子, 中瀬 孝
    セッションID: OP-6-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では従来の森林水文学の研究では未着手であったはげ山履歴のない長大斜面を有する森林流域の流出特性の解明を目的として,長良川の源流域で水文観測を行い,斜面長を反映できる分布型モデルである降雨流出氾濫モデル (RRI モデル)を用いて長期流出の再現を行った. 観測結果から低水期における降水による流域の湿潤化が内部小流域においても生じていることが示唆され,RRI モデルで再現された. 今後は通年の流出特性の解明を進めるとともにRRIモデルの特性を活かすため,2022年には流域内の植生等の調査を進めていく.

  • 給 樂巴幹, 田中 隆文, 小谷 亜由美, 中沖 元哉
    セッションID: OP-6-05
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,従来からの葉面積指数測定方法の改善を目的として、2022年の3月23日から4月28日にかけて愛知県森林公園内の常緑広葉樹のアラカシ林試験地で実際の葉面積指数の測定を行い、LAI-2200,NIR/PAR,全天写真とIntel RealSense Depth Camera D455など光学的な四つの手法を比較した。Intel RealSense などのデプスカメラは平面的な二次元カラー画像及び対象物とカメラの間の距離を合わせて得ることができ距離の差から対象物と背景を区別することができる。RS D455を葉面積指数測定に応用することにより、葉群間のgapや枝・樹幹などの非同化部,さらに下層木の影響を除いて,上層木の葉群のLAI値を測定することが期待される.

  • 清水 貴範, 飯田 真一, 玉井 幸治, 壁谷 直記, 清水 晃
    セッションID: OP-6-06
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    日本のスギ・ヒノキ林2地点とカンボジア王国の乾燥常緑林を対象に,SWAT(Soil & Water Assessment Tool)内の放射量推定サブモデルに基づいて,日射量・気温・湿度から樹冠上の純放射量を推定する際の精度検証を試みた.スギ・ヒノキ林については,アルベドをSWATでの初期設定値(0.23)から観測地の年平均値(それぞれ0.069および0.088)に変更しておけば,その他のパラメータなどはSWATでの設定通りでも精度よく純放射量を推定できることが判明した,また、熱帯の乾燥常緑林では、アルベドを現地の値を反映した値(0.105)に変更するほか,放射率に関するパラメータを初期設定値(0.34、0.139)から(0.61, -0.283)とすることで,純放射量を十分に推定できた.

河川・湖沼
  • 後藤 元樹, 横尾 善之
    セッションID: OP-7-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    本研究は,流域固有の河道網の形成要因を解明することを目的として,日本の河川における安定河道網が「エントロピー生成率最大化の原理」に基づいて説明できる可能性を検討した. まず,流域内の標高データを利用して,河道が発生するのに必要な最上流部の集水面積を変更して,同一流域内に複数の仮想の河道網を用意した.次に,作成した複数の河道網モデル上で,河道および陸域での雨水排水現象を対象に摩擦によるエネルギー消費を計算し,「エントロピー生成率最大化の原理」に基づいて安定河道網が形成されている可能性を模索した.その結果,「エントロピー生成率最大化の原理」によって安定河道網が形成されている可能性が見出された.

  • 徳田 大輔, 奈良 秀春, 金 炯俊
    セッションID: OP-7-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    自然湖と貯水池(以下これらをまとめて「湖沼」と呼ぶ)は人間活動にとって不可欠な水資源を貯留する.その水収支は降水や蒸発,河川の流出入など様々な水熱動態が関連する現象であるため,それを表現する数値モデルには現在でも課題は多く,その水収支の結果たる水貯留量の計測は水資源管理において極めて重要である.本研究は水貯留量の水平面投影である水面面積に焦点を当てる.近年,人工衛星によって取得された光学画像から水面分布の月変動を水平90m解像度で推計したデータセットGlobal Surface Water Dataset(GSW)が開発され,それを元に全球湖沼の水面面積を推計するデータセットの開発が進展している.しかし,このGSWデータセットは各水面ピクセルがどの湖沼(または河川,他水域)に属するのかという情報を含まないため,本研究は全球湖沼データセットHydroLAKESを利用する.これには各種研究機関やデータセットから収集された140万個以上の湖沼とその(時間変化は考慮されない)水面形状が登録されている.即ちHydroLAKESはGSWとは独立に開発された半経験的なデータセットである.

     本研究では,これら2つの全球データセットを入力とし,HydroLAKESの湖沼形状に適切なバッファを付加して各湖沼の水面を検出する範囲を決定した上で,GSWにおける水面ピクセルデータの毀損や誤分類を補正し,各湖沼の水面面積を計算した.その結果,カスピ海と(GSWの北限である)北緯80度以北の湖沼を除いた全1,426,112湖沼の月毎水面面積を1985年1月から2018年12月の期間において推計した.とGSWデータの補正は,全球に適用できるほど計算負荷は小さいもののデータの質・量の向上に資することが分かった.また開発されたデータセットを解析した結果,全球の湖沼面積は1990年代後半をピークに減少傾向であり,またその季節変動の幅は大きくなっていることが分かった.今後は単位面積当たりの蒸発量や湖沼水面標高の観測・推計結果と本データセットを組み合わせることで,水資源に関する包括的な評価を進めていく予定である.

  • 舘野 真悠, 横尾 善之
    セッションID: OP-7-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
    会議録・要旨集 フリー

    本研究は,総合土砂管理の実現に貢献することを目的として,河川の浮遊土砂流出量と河川流量との関係式を用いて日本の一級河川の浮遊土砂流出量および土砂流出量の空間分布を推定した.浮遊土砂流出量と河川流量の関係式は既往研究から特定した.河川流量は国土交通省の水文水質データベースから取得した.また,流域内の表層地質の種類・年代で一番割合の高いもの,流域ごとの平均傾斜角度の平均値,流域ごとの年間降水量の平均値と浮遊土砂輸送量の関係を調べたが,明確な相関は見られなかった.

  • 小田 理人, 小寺 浩二
    セッションID: OP-7-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    Ⅰはじめに /多摩川水系浅川では、人口増加による水質悪化が問題視され、様々な研究が行われてきた。しかしながら研究の多くは対象地域が限られており、流域全体を包括的に研究した例はない。本研究では浅川流域の流域特性と水質を明らかにすることを目的とする。/Ⅱ研究方法 /データ解析は、国勢調査、国土数値情報、八王子市生活排水処理基本を用いた。現地調査は2020年6月~2021年10月をメインに行った。水質分析はTOC、主要溶存成分、NH4+、NO2-、NO3-、DOの計測を実施した。統計解析は2021年9月の結果を利用し、クラスター分析、主成分分析を行った。過去の研究事例との比較は、小倉(1980)及び太田・大森(2004)の電気伝導度値と今回の現地観測の電気伝導度の値の比較を行った。/Ⅲ結果及び考察/ 人口は2010年をピークに減少に転じている。人口密度は流域の上流で低く、下流で高い。流域土地利用は湯殿川流域で最も変化が激しく、建物用地の割合が高かった。月一回観測では電気伝導度(EC)が冬季に上昇が見られた。降水量の減少による地下水の寄与率の上昇によるものと思われる。pHは冬季に低い値を示し、同様に地下水の影響とみられる。夏季にはpHは高い値で、藻類の炭酸同化作用が原因である。上流ではNO3-の検出がみられる地点が多く、森林生態系の窒素飽和によるものと思われる。下水処理場の排水が流入する山田川では非常に高いNO3-が検出され、下水処理場排水が完全に処理されていないことが分かる。NH4+、NO2-は上流においても検出され、浄化槽からの排水による影響とみられる。クラスター分析(Ward法)では、5つのクラスターが生成された。湯殿川では上流と下流の観測点が別のクラスターに分類され、流下に伴い水質が変化していることが示唆された。主成分分析では第1、第2主成分で49.75%の寄与率を示した。湯殿川は2000年頃と比較して電気伝導度の値は下がっているものの、いまだに高い値を維持しており、他の支流よりも水質の変化が小さいことが示された。/Ⅳおわりに/本研究から、上流における浄化槽排水による汚濁、森林生態系の窒素飽和による硝酸の流出、山田川への下水処理場の排水よる汚濁、湯殿川流域からの生活排水による汚濁の4つが浅川流域の課題として明らかとなった。

  • ZHOU XUDONG, REVEL MENAKA, MODI PRAKAT, YAMAZAKI DAI
    セッションID: OP-7-05
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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  • Revel Menaka, Zhou Xudong, Yamazaki Dai, Kanae Shinjiro
    セッションID: OP-7-06
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    Even though large-scale river routing models However, with the emerging amount of river related remote sensing data (eg ENVISAT, Jason 1/2), which can be combined, through data assimilation, with global-scale river routing. Comparing simulated WSE with the satellite altimetry data remains challenging and can introduce large biases when combining through data assimilation to hydrodynamic models.In order to evaluate the data assimilation performance using erroneous models, we conducted several experiments namely, direct, anomaly, and normalized assimilations to examine the ability of data assimilations using satellite altimetry data. The hydrological data assimilation was performed using a physically-based empirical localization. A normalized data assimilation was carried out as well to realize better data assimilation using satellite altimetry data. River discharge was improved in 62% of the stream gauging stations compared to open-loop simulation. The normalised value assimilation performed better with current limitations of hydrodynamic models than anomaly and direct data assimilation.

水質水文/農地水文
  • 原田 茂樹, 丹野 愛海, 高橋 信人
    セッションID: OP-8-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    HRLへの2本の既報(Tanno and Harada, 2021;Tanno et al., 2022)では、3渓流河川において、瞬間流量と期間平均流量の高い相関関係があり、指数型L-Q式の係数bが1の近傍にあることを示した。その結果を応用し、瞬間流量を用いて期間平均流出負荷量を求める、および適切なサンプリング頻度を検討するプロトコルを示した。本稿では、川幅が広く傾斜も緩やかな2つの水位観測所周辺での流量データ解析により同等の結果が得られることを示した。特に係数bが1の近傍になくても期間平均流出負荷量は瞬間流量と期間平均流量の回帰式を用いてある程度の精度で予測できることをセンシティビティテストにより示し、さらに高精度のセンシティビティテストを行うことにより、補正係数が得られる可能性を示唆した。

  • 小寺 浩二, 猪狩 彬寛, 斎藤 圭
    セッションID: OP-8-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    日本では高度成長期に全国で水質汚濁が問題となったが、法整備や 社会全体の環境意識高揚などで水質が改善されてきた。 しかし、現在でも都市郊外や山村地域などで水質汚濁が激しい地域も残っている。排水処理施設の問題などから、 大河川流域では下流部よりも上流部に汚染地域が目立つ流域が多い。 行政によって1971 年から継続されてきた「公共用水域の水環境調 査」結果や、市民団体を中心に2004年に始まった「身近な水環境の全 国一斉調査」といった全国規模の観測記録を中心に、日本の河川水質 の長期変動について検討してきたが、今回は、最新の2022年の結果もあわせて考察を行う。

    国立環境研究所のDB「公共用水域の水質調査結果」を用 いて 1971 年以降の水質変化を整理し、「身近な水環境の全国一斉調 査」については、2004年~2018年の COD の調査結果を整理し長期的な変化について考察した。2018年以降については、 研究室で行ってきた全国規模の観測記録を用いた。1 .公 共 用 水 域 の 水 質 調 査 結 果 1971 年に約1,000 点だった観測地点が、15年後の1986年には 5,000 点を超え、その後6,000点弱の地点での観測が継続されてき た。BOD 値の経年変化では、当初3以上が半数を占めていた(1971 年)が、1976 年には2 以下が半数となり、最近では2以下が約8 割を占めている(2018年)。2.身 近 な 水 環 境 の 全 国 一 斉 調 査 調査が始まった2004 年は約2,500 地点だったが、2005年には約 5,000 地点となり、その後6,000 地点前後で推移するものの2018 年には約7,000 地点となった。COD4以下が約半数となっている。3,1971 年 以 前 の 水 質 小林(1961)による研究成果などはあるものの、系統的 に観測された水質データは入手しづらく、研究論文や 報告書などから整理したが、過去の水質を明らかにすることの困難さが浮き彫りとなった。4.最 近 の 水 質 2017 年~2020 年にかけて、毎年全国2000箇所以上で調査した データを整理し、近年の河川水質の現状を明確にした。

    全国規模の長期的な観測結果に加え、1971以前のデー タを収集整理し過去の水質の復元を試みた。また、 独自に全国規模で約2,000地点の観測を行い、現 況を明らかにした。特に、2020年には沿岸域、2021年では内陸部で調査を行ったことで広域に検討することができた。

  • 田中丸 治哉, 喜田 直也, 多田 明夫
    セッションID: OP-8-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    本報告では,著者らの既報で提案されているため池の洪水軽減効果の簡易推定法を兵庫県・播磨地区に適用し,同法の一般性を確認するとともに,ため池事前放流の洪水軽減効果を表す指標であるピーク低減率の近似式に関して,確率雨量によって地域総合化された近似式を作成し,その有効性を明らかにした.さらに,流域治水を目的として多数のため池から事前放流の実施効果が大きいため池を選定する方法を検討し,ピーク低減率と流域面積の関係図に基づいて,ピーク低減量が大きいため池を抽出する方法を提案した.

  • 久保田 富次郎
    セッションID: OP-8-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    近年の豪雨災害の頻発化に伴い,流域治水への取り組みの強化が求められている。流域治水における農地の活用は,田んぼダムのように水田の活用は積極的に進められているものの,畑地については,これまでほとんど俎上にあがっていない。しかし,浸透性の高い台地上の畑地では高い洪水緩和機能が期待できる可能性がある。そこで,本研究では,台地上に立地する畑の洪水緩和機能を,東京近郊の武蔵野台地北部の三富新田地区を事例地区として検討した。洪水緩和機能は,畑の表面から地下に浸透し,不飽和帯への一時的に貯留される浸透貯留量で表されるものと考えた。事例地区における浸透貯留量は、戦前に行われた水文観測の文献データを活用して試算した。

降雪・融雪/雪氷
  • 大宮 哲, 原田 裕介, 西村 敦史
    セッションID: OP-9-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    降雪粒子は雨滴に比べて風の影響を受けやすいため、降雪時の雨量計の捕捉率は風速の増加とともに低下する。先行研究において、捕捉率と風速の関係式が示されている。しかし、それは降雪イベント単位の解析であり、平均風速を代表風速として扱っているため、イベント中の風速変化については考慮されていなかった。そこで、本研究では風速変化が小さな降雪事例に着眼した解析を行い、雨量計の捕捉率と風速の関係について示した。

  • 高見 和弥, 竃本 倫平, 鈴木 賢士, 山口 弘誠, 中北 英一
    セッションID: OP-9-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    雨量に比べて降雪量は的確に把握することは難しい.近年,偏波レーダーの利用により雨に対しては精度の高い降水量の分布を得ることが可能となってきたが,雪に対しては,①降雪粒子は雨滴と異なり粒径と密度,形状の関係が一定でないこと,②偏波パラメータの高度による変化が雨に比べて大きいこと,から精度よく降水量を推定することは未だ容易ではない.従来は地上で濾紙を用いて融解直径の粒径分布を観測して求めたZ-R(レーダー反射因子-雨量)関係式(Gunn and Marshall., 1957など)が使用されてきたが,①の種別による違いが考慮されておらず推定誤差は大きかった.これに対し,地上でのディスドロメータの観測値を利用する,上空で偏波パラメータによる粒子判別を行うなどの手法が検討されている.一方で,これらの手法においても②Zの高度変化についてはほとんど考慮されていない.レーダー観測は仰角をもつことやグラウンドクラッタの影響により地上付近で適切にレーダーの観測値を得ることは難しく,数100m~1km程度上空でのZの値を使用することとなる.しかし,降雪粒子は落下する過程でのAggregationやRimingによる粒径,密度の変化が大きく,雨滴に比べてZの高度変化が大きい.またZの高度変化は降雪粒子の種別や層状性/対流性による違いが大きく,一律の係数をかけて高度変化を補正することは困難である.よって,高高度での観測値からZの高度変化を推定することができれば地上での降水量の推定精度を向上できる可能性がある.そこで,本研究では新潟市で2019年度冬期に実施したX-band偏波レーダーのRHI観測を基にレーダー反射因子ZHの鉛直分布を整理し,高高度における偏波パラメータを用いて,事例によるZHの高度変化の違いを表現する手法について検討した.地上で雨であり融解層上端高度(FL)が700m~2000mの35事例について融解層上端から上空のZの鉛直分布を整理した.FL+1500mにおけるKDPZHの比を利用することでFLとFL+1500mのZHの比を表すことができることが分かった.

  • 石川 こより, 佐々木 織江, 鼎 信次郎
    セッションID: OP-9-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    氷河の融解は海面上昇や自然災害を引き起こす要因であり,気候変動の影響で全球の氷河において縮退が報告されている.氷河の融解量を推定することは水資源量等への影響評価も含めて重要な研究課題であるが,全球等の広域を対象としたモデルは未だ開発段階かつデブリの影響も考慮していない場合が多い.デブリは氷河表面を覆う土砂や岩屑のことで,薄く堆積すると氷河に熱を吸収しやすくさせ融解を促進し,厚く堆積すると断熱効果が生じ融解を阻害する.このようにデブリは氷河の融解速度に関係するため融解量を正確に予測するためには無視できない要素であるが,広域モデルで考慮されていない背景にはデブリの厚さや熱伝導率の取得に現地観測が必要とされるという難しさがあった.そこで,衛生観測から得られる反射率を用いて計算可能な熱抵抗値を用いる手法が開発され,一部地域について検証がなされている.本研究では,熱抵抗値計算を全球に展開し,その結果を用いて氷河融解量を推定することを目指している.デブリを考慮する場合デブリの有無でグリッドの扱いが異なるため,裸氷域とデブリ被覆域を分類する必要がある.本研究の氷河表面分類には2013年に打ち上げられ現在も運用中の地球観測衛星Landsat8のデータを用い,氷河とその周辺との境界にはRandolph Glacier Inventory ver.6.0の氷河外形データを用いた.Landsat8のバンド値から計算したNormalized Difference Snow Indexが0.25以下かつ全球標高データAW3D30より求めた斜面の角度が24°以下の場合をデブリ被覆箇所とする.分類の結果より,デブリは主に氷河の外縁に堆積する傾向にあることがわかった.そのため,氷河の面積が大きい地域より氷河の形状が複雑な地域や細かい氷河が多数集まっている地域でデブリ被覆域が多くなりやすい.また,今回対象とした氷河全体におけるデブリ被覆率は17.0%で,RGIに倣った地域別の統計では最大45.7%,最小6.1%,平均は23.7%となった.この結果は,氷河の融解量推定においてデブリの影響が無視できないことを示唆している.デブリ被覆域と分類された箇所が氷河の融解に及ぼす影響を評価するためには熱抵抗値等の指標を用いたモデル計算を行う必要があり,熱抵抗値計算や熱収支モデルの広域展開も含む更なる検証が今後の課題である.

  • 竃本 倫平, 高見 和弥, 鈴木 賢士, 柴村 哲也
    セッションID: OP-9-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    鉄道車両床下への着雪・落雪は冬期の列車運行の安定性が損なうことがある.車両床下への着雪量は積雪表面の雪密度に依存しているため,新雪密度を精度良く推定することが重要である.新雪密度は地上付近での降水粒子の相状態や乾/湿によって大きくことなり,降雪粒子が落下する過程での融解を考慮する必要がある.上空での熱収支を考慮し,単一雪片の融解過程に関する計算モデル(以下,融解モデル)では,0ºC高度とその上空での雪片の粒径を初期値として,地上での降水粒子の粒径・落下速度・含水率を推定することが可能である(松尾・佐粧,1981).高見ら(2021)は, X-MPレーダを用いて融解モデルの初期値である0ºC高度と粒径を推定し,降雪の含水率の推定を行ったが, 0ºC高度以下の気温減率の与え方について検討の余地があることが示された.そこで,本研究では,融解モデルの精度向上・検証に資する観測データを取得することを目的として,融解層内の気温の鉛直プロファイルと降雪粒子の微物理情報を取得するため,南魚沼市で標高差観測を実施した.siteA(標高192m)には,マイクロレインレーダ,光学式ディスドロメータを設置した.また,siteAから気温計を搭載したドローンを用いて地上高150mまでの気温観測を実施した.siteB(標高340m)・siteC(標高502m)におんどとりを設置した.降雪粒子の微物理情報を取得するため,G-PIMMS(siteA)とRainscope(siteC)を設置し,降水粒子の画像を取得した.Rainscopeは上下に設置された二つの赤外線センサーにより降水粒子の落下速度を取得することが可能である.2022年2月20日に2回の観測を実施した.フライト①では, siteCで雪片が観測されていたが,部分的に融解している粒子がsiteAで観測された.ドローンを用いて地上150mまで25m間隔で気温を計測した結果,各高度での気温のばらつきが大きく,融解層内での固体降水粒子の融解に伴う熱交換によるものであると考えられる.フライト②では,siteA・siteCともに固体降水粒子が観測されており,フライト①と異なり各高度でのホバリング時の気温のばらつきが小さかった.今後,解析を進め,降雪粒子の融解の程度を定量的に評価し,融解層内の気温プロファイルとの関係について検討していく必要がある.

  • 佐々木 織江, Miles Evan, Pellicciotti Francesca, 坂井 亜規子, 藤田 耕史
    セッションID: OP-9-05
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/20
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    アジア高山域における積雪からの融解水は、下流地域にとって重要な水資源のひとつである。しかしながら、現地観測の困難さやモンスーン気候における雲の多さによる衛星観測の困難さにより、積雪量の絶対値やその変化はあまり知られていない。雪線高度は、積雪域の下端の境界高度を指すが、積雪量の変化をよく反映するほか、雪線の一部が見えれば検出可能であり、雲被覆によるバイアスが少ない。そこで本研究では、広域での調査を視野に入れ、Landsat 5/7/8、Sentinel-2といった無償で得られる高解像度衛星データを使用し、雪線高度を自動検出する手法を開発した。今回は、開発した手法を用いて、ヒマラヤ高山域における5つの集水域で雪線高度を検出した。結果として、5地域のうち、3地域では積雪域は増加傾向、1地域では減少傾向、1地域では有意な長期トレンドは見られなかった。積雪量が減少している地域では、春の気温低下や降水量増加が顕著であった。

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