水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2022年度研究発表会
セッションID: OP-5-03
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水災害
洪水吐ゲート操作による農業用ダムにおける事前放流の治水効果の向上可能性
*相原 星哉吉田 武郎
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抄録

治水を本来の目的としない農業用ダムでも,事前放流等の洪水調節に係る運用が開始されている.農業用ダムは,事前放流による確保容量が小さいゲートレスダムが多くを占めるため,大規模な降雨に対する治水効果は限定的で,農業用ダムにより流域の治水安全度の向上を図るには,治水効果の向上策が求められる.一方で,洪水吐ゲートを保有する農業用ダムは,洪水ピーク付近まで確保容量を温存する放流操作を行えば,同規模のゲートレスダムよりも大きな治水効果が期待できる.また,洪水吐ゲート操作による治水効果の向上について評価すれば,治水効果の向上策としての放流施設の増強の有効性についても検討できる.そこで本研究では,洪水吐ゲートを保有する農業用ダムの1つであるSSダムを対象に,洪水吐ゲート操作による事前放流の治水効果について評価し,7基の農業用ダムにおいて,SSダムと同様の放流操作を実施した場合の治水効果を試算した.

SSダムの操作規則に準じて,洪水量以上の流入のみを貯留する放流操作(一定量放流)により,ダム流入量に対する放流量のピークカット効果を,総雨量150~400 mm/dの降雨を入力として計算した.その結果,ダム放流量のピークカット効果は,総雨量200~300 mm/dの範囲において,自然越流式の放流を行った場合の2.8~5.2倍まで増加した.

計8基の農業用ダムにおいて,一定量放流および自然越流式の放流操作によるピークカット効果を比較した.ダム集水面積あたりの確保容量(相当雨量)が50 mm以下と小さいダムにおいては,総雨量250~350 mm/dの降雨におけるピークカット率は,自然越流式の放流操作では10%未満に限られたのに対し,一定量放流では最大で20~30%まで向上した.

洪水量を超過する流入のみを貯留する放流操作により,事前放流による治水効果が向上すると推定された.利水上の制約により,事前放流により確保する空き容量(相当雨量)の増強が困難な農業用ダムにおいては,洪水量を放流可能な施設の整備が,有効な治水効果を向上策の一つであることが示唆された.

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