水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2023年度研究発表会
セッションID: OP-7-05
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口頭発表(一般セッション)
全球における生産活動を考慮した産業別GDP空間分布マップの作成
*庄司 健山崎 大
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抄録

2011年タイの大洪水では、工場の操業停止に伴いサプライチェーンを通して他国に多額の経済損失が生じた。以降サプライチェーン影響を考慮した経済被害の研究が行われてきた中で、どの地域のどの産業で生産活動停止が生じるかで全体の損失額への影響の大小が異なることが指摘されている。しかし既往研究では、各国の一人あたりGDPを人口分布マップを使用してダウンスケールした「GDP空間分布マップ」が用いられており、実際の空間的な産業分布を無視して損失額推定が行われていた。そのため浸水によりどの産業セクターで生産活動が停止するのかを特定することが困難であり、その点がサプライチェーン影響の推定における課題となっていた。そこで本研究は、近年利用可能になった衛星画像による高解像度の土地利用データから、農業、工業、サービス業の三種類の産業グループの空間分布を考慮した「GDP空間分布マップ」を全球30秒解像度で作成し、既往手法に対して被害推定にどのような違いが見られるのかを検証した。前述の2011年タイ洪水を対象として、洪水氾濫モデル出力及びMODIS衛星観測により得られた二種の浸水期間マップ(ハザード)と、既往及び新手法で作成した「GDP空間分布マップ」を用いて損失額とその産業別割合を推定した。また、推定結果を検証するために、洪水後に報告された産業グループ別経済損失データを取得し比較を行った。その結果、既往マップでは、二種のハザードをそれぞれ使用した場合で推定損失の産業別割合が変化せず、また報告値に比べて農業損失の割合が7ポイント多く、工業損失の割合が27ポイント少なく推定された。一方、新手法では二種のハザード間で異なる産業別損失割合を示し、特にモデル出力を用いた推定では、報告値との産業別割合のポイント差が、既往手法に比べて農業で4ポイント、工業で約12ポイント小さくなった。以上の結果から、産業の空間分布を考慮した「GDP空間分布マップ」を使用することで、洪水ハザードの空間分布の違いによる産業別損失額割合の変化が表現されること、また既往手法よりも実損失に近い産業別損失を推定し得ることが示唆された。今後は新マップを用いて得られる産業別損失額から、グローバルなサプライチェーンへの影響までを算出し、全体の損失額がハザードの不確実性によりどう変化するのかを検証する予定である。

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