2022 年 29 巻 3 号 p. 211-215
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるARDSの治療では,有効な薬物療法はない。人工呼吸器関連や傷害性自発呼吸による肺損傷回避のための肺保護戦略がARDSへの主な治療手段となるが,肺保護のための筋弛緩薬の投与方法は未だ定まっていない。 COVID-19によるARDSの診断で60歳代男性が当院に紹介され,入院2日目に体外式膜型人工肺と腹臥位療法を肺保護のために導入した。深鎮静下でも強い吸気努力を認め,肺損傷のリスク軽減のために筋弛緩薬を持続投与した。身体所見と気道閉塞圧(P0.1)を指標に筋弛緩の必要性を連日評価した。肺機能は緩徐に改善して吸気努力も減少し,最終的には腹臥位療法19日間,持続筋弛緩薬投与26日間を要した。入院47日目に体外式膜型人工肺から離脱した。ICUと一般病棟に滞在後,酸素投与下で自宅退院した。今後発生しうる同様の重症例に備えるため,P0.1が筋弛緩薬投与期間を決める一指標となりうる可能性につき文献的考察を交え症例を報告する。