抄録
白質病変は慢性脳低灌流が原因と考えられ,高齢者や脳血管病変患者には高頻度に認められる。また,認知機脳障害など臨床徴候に関連している。急性脳虚血においても白質病変の重要性が認識されつつあり,神経細胞体傷害が主体である灰白質病変とは,その傷害のメカニズムや薬物への感受性が異なる。すなわち,白質病変増悪の病因や治療法を調べることは,急性脳虚血の治療という観点からも重要である。われわれは,脳白質病変を主体とするラット脳慢性低灌流モデルを用いて,過換気による低二酸化炭素血症により線条体の白質病変が特異的に増悪すること,この白質病変の急性増悪がN-methyl-D-aspartate受容体拮抗薬ケタミンにより軽減されることを明らかにした。術後せん妄の病因の一つとして低二酸化炭素血症があり,線条体は認知機能やワーキングメモリーに関与している部位であることから,白質病変の増悪がこの術後せん妄など脳機能障害の一因である可能性がある。