抄録
抗コリンエステラーゼ(抗ChE)剤である臭化ジスチグミンにより,急性呼吸不全をきたした1例を経験した。症例は70歳,男性で,1991年より前立腺肥大症のため臭化ジスチグミン(ウブレチド(R))15mg・day-1を服用していた。不安定狭心症のため冠動脈バイパス術を施行し,術後3日目より臭化ジスチグミンの内服を再開した。術後5日目より呼吸困難が出現し,呼吸性アシドーシス(pH7.186,PaCO286.4mmHg)を呈したため人工呼吸管理を行った。臨床症状が有機リン中毒と類似し,ChEは91(正常値3000~6500)IU・l-1と著明に低下していた。呼吸不全の原因は臭化ジスチグミンの偶然の投与中断による,コリン作動性クリーゼのための急性換気不全であることが判明した。抗コリン剤は重篤な急性呼吸不全をきたす可能性があり,その使用には十分注意すべきである。