抄録
症例は65歳の男性。就眠中に胸痛が出現し翌朝当科を受診した。収縮期血圧は90mmHg台と低下し,胸骨左縁第4肋間に全収縮期雑音と肺野に湿性ラ音を聴取した。心電図上II,III,aVFでST上昇があり,心エコー図検査で心室中隔穿孔を認めた。肺体血流比(Qp/Qs)は2.5,左右シャント率は62%であった。冠動脈造影では右冠動脈完全閉塞の一枝病変であった。大動脈内バルーンポンプを適用し,入室当日に心室中隔穿孔パッチ閉鎖術を行った。また術中所見で後乳頭筋部分断裂もあり,隣接の健常乳頭筋に腱索付き筋束を縫着した。術後第10病日に,さらに後乳頭筋の完全断裂をきたした。断裂部は初回手術でみた後乳頭筋束縫着部より根部であった。第11病日に僧帽弁形成術を行い,第39病日に退院した。心筋梗塞症に心室中隔穿孔と後乳頭筋完全断裂を合併した臨床例の報告は,調べ得た限り本邦では本例を含めて2例のみである。緊急手術による救命例は本例が初めてである。