情報通信学会誌
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論文
憲法上の通信の「秘密」の意義とその射程
海野 敦史
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2014 年 32 巻 2 号 p. 37-49

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抄録

憲法21条2項後段にいう「秘密」の意義及び射程については、従前の学説における議論が乏しかったが、以下のように捉えるべきであると考えられる。すなわち、当該「秘密」については、(1)通信当事者の意思に関わりなく客観的に成立する、(2)公権力及び通信管理主体という特定の主体との関係においてのみその保護が問題となる、(3)通信当事者が「通信」を行うに際して一般に有するものと客観的に認められる「信頼」に基づき発現する、という特質を有しており、通信当事者の「信頼」の向かい先にない一般私人との間では憲法上直接問題となるものではない。少なくともこの点において、「秘密」の概念は、公私双方の局面にわたり問題となり得るプライバシーの概念とは区別される。したがって、通信の秘密不可侵の保障の趣旨をもっぱらプライバシーの保護に求めることは必ずしも妥当ではない。「秘密」の保護とは、むしろ憲法上確保されるべき「通信」の制度的な利用環境の表徴として捉えられ、国民各人の「通信」の安心・安全な利用を確保する観点から、セキュリティ等のプライバシー以外の一定の要素も通信制度の中で適切に保護されることが憲法上予定されているものと解される。なお、近年一部の学説で主張されている「通信の内容の秘密」と「通信の構成要素の秘密」との憲法上の区別については、両者の不可分性等にかんがみ妥当ではなく、通信の秘密不可侵の保護領域においては両者を一体的に捉えるべきであると考えられる。

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