情報通信学会誌
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論文
インターネット接続役務の利用における平等の保障と禁止される「差別」
特定のトラフィックに対する優先取扱いの「差別」への該当性
海野 敦史
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2014 年 32 巻 3 号 p. 1-12

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抄録
「通信」の利用における憲法上の「平等」の保障は、回線管理事業者がプラットフォーム事業者に対してインターネット接続役務の提供を行う場合に特に問題となると考えられる。とりわけ、当該提供において有償契約に基づき特定のトラフィックを優先的に取り扱う行為(優先取扱い)については、禁止される「差別」に該当するか否かの判断が容易ではない。そもそもトラフィックの伝送・交換に際しての優先取扱いの内実には、(1)加入者回線において予定される帯域幅を設定する行為、(2)トラフィックの経路選択、帯域幅の絞込み等のルーティングを行う行為、(3)基幹回線における伝送能力を増強する行為が含まれるが、このうち「差別」の可能性が特に問題となるのは、基本的に(2)のルーティング行為である。ルーティング行為における優先取扱いは、そのための追加的課金を前提とするが、そのようなコスト負担はそれ自体として当該取扱いを正当化するものではなく、混雑等への対応上の必要性等の別段の正当化事由がない限り、「差別」に該当すると考えられる。その主な理由として、「差別」に該当しないためには、「異なる通信役務」間でのルーティング行為の差異が認められなければならないところ、多種多様な情報の伝送・交換を行うインターネット接続役務においては、「同種の通信役務」を合理的な基準に基づき抽出すること自体が困難であるということが挙げられる。また、インターネットが社会に浸透している今日において、憲法21条2項後段の規定がその確保を要請する「基本的な通信役務」の一つとしてインターネット接続役務が位置づけられ得ることから、当該役務の提供に際しては厳格な平等保障が求められることとなると考えられる。
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