情報通信学会誌
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論文
通信の秘密との関係における携帯電話の位置情報の法的取扱いのあり方
米国法上の事業記録論を手がかりとして
海野 敦史
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2016 年 33 巻 4 号 p. 53-65

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抄録
個々の通信の際に基地局単位で収集される携帯電話の位置情報について、米国においてはこれを通信管理主体が任意に取り扱い得る「事業記録」と解する事業記録論が有力に提示されているが、当該位置情報は日本国憲法に基づき保護される「通信の秘密」に該当すると解される。よって、事業記録論の考え方は通信の秘密不可侵の法理に抵触し得る。このことを踏まえて考えると、事業記録論については、①発信者による位置情報の提供先である通信管理主体が一般私人と同列の「第三者」として位置づけられている、②当事者の私生活を露呈させ得る位置情報固有の性質にかかわらず、それが第三者に提供された他のあらゆる情報と同列に扱われている、③携帯電話を用いた通信役務の国民生活における不可欠性にかかわらず、個々の通信時における位置情報の提供が任意に行われるものとして位置づけられている、といった問題点を内包しており、通信の秘密の解釈論に対して援用しがたいものであるという帰結が導かれる。すなわち、日本国憲法上、通信管理主体(電気通信事業者)においては、「通信の秘密」としての位置情報について、それが個人を特定又は識別し得る状態にある限り、正当な理由・手続きによらずに公権力等に提供することはもとより、自ら通信役務の提供に必要となると認められる範囲を超えた目的のために積極的な知得(探索)や窃用を行うことも、原則として許されないものと解される。
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© 2016 情報通信学会
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