情報通信学会誌
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論文
特定電子メール法29条と憲法上の通信の秘密
海野 敦史
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2017 年 35 巻 3 号 p. 7-17

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抄録

特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)29条の規定は、公権力に対し、一定の範囲で電子メールの発信者情報の提供を電気通信事業者等に求めることを可能にしている。この規定に基づき公権力が取得し得るのは通信の秘密たる情報に該当しない契約者情報であると解されることが一般的であり、かかる解釈による限り、当該規定と通信の秘密との関係は問題とならないようにみえる。しかし、少なくとも憲法上の通信の秘密に関しては、個々の通信の内容情報や構成要素情報の取扱いのみを保護するものではなく、当該通信を実現する健全な制度的利用環境をも保護しており、その一環として、構成要素情報と密接に関わる契約者情報(例えば電子メールアドレス)等もその保護の射程に含めていると解される。いくら公権力等による個々の内容情報や構成要素情報の取扱い自体に問題がなくとも、制度的利用環境の一環を占めるネットワークの安全性等に問題が生じ、情報が漏えい等することとなれば、通信の秘密が保護されたとは言えないからである。かかる解釈からは、特定電子メール法29条に基づく措置は通信の秘密たる情報の取得ではないから憲法問題が生じないと解するのではなく、同法違反の電子メールの排除のために不可欠となる範囲内で行われる発信者情報の取得については国民全体の通信の秘密を実効的に保護するために必要となる措置として正当化されると解することが合理的である。

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