情報通信学会誌
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論説
プライバシーとの関係における憲法13 条の要請
海野 敦史
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2021 年 38 巻 4 号 p. 106-113

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抄録
憲法13 条は、その前段で客観的法規範としての個人の尊重の原理を規定し、個人としての尊厳と人格的自律の確保を求める一方、その後段で公権力による制約を原則として受けないことを確保するに足りる内容を備える権利としての幸福追求権の「最大の尊重」と「公共の福祉」とのバランスの確保を公権力に要請している。各人のプライバシーとの関わりにおけるこれらの要請の具体的な内実として、「私生活領域に対する不当な介入の統制」及び「私的情報の不当な取扱いの統制」が挙げられる。それらの裏返しとして、各人においては、「私生活領域にみだりに介入されないことに対する権利」及び「私的情報がみだりに取り扱われないことに対する権利」が主観的権利として保障され得る。しかし、これらは、「自己情報」の収集・取得、利用・分析、開示・提供といった取扱いの各過程に当人の「コントロール」が及ぶことを想定した自己情報コントロール権を承認するものではない。かかるコントロールが物理的にほぼ不可能であり、憲法上保護される「自己情報」の射程を的確に画定することが困難となりつつある今日において、自己情報コントロール権を憲法13条に基づく基本権とは位置づけがたい。もっとも、憲法13条に基づく幸福追求権は、個別的基本権に対して補充的に適用されるため、個別的基本権の解釈論的分析なしに、前述の主観的権利を「プライバシーの権利」と位置づけることは早計である。
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