本研究は, 積雪寒冷地の礫質褐色森林土のリンゴ園地において, 窒素, カリウム, マグネシウム等の多量必須元素の動態の理解を目的としている.このため, リンゴ樹体の休眠期にあたる積雪・融雪期間中を含めた2016~2020年において, 月に1~3回の頻度で調査対象リンゴ園地の10~70 cm深から土壌間隙水を吸引採取し, 深さ方向におけるpH, ECおよび各イオン種濃度の経日変化の特徴を把握した.例年よりも降水量が少なかった2019年5~9月は土壌乾燥が顕著であり, 果樹根のK+吸収の促進に伴うMg2+吸収の抑制(拮抗作用)を反映し, 土壌間隙水中では低濃度のK+と高濃度のMg2+を示す環境が継続した.リンゴ樹の休眠期間にあたる融雪期間における土壌間隙水中のNO3-N濃度は, 生育期間中の降雨による溶脱を受けた後よりも高かった.また, 融雪期終盤の積雪融雪水の不飽和浸透によりNO3-Nの顕著な溶脱が認められたものの, リンゴ樹体が休眠打破に至った後において果樹根が土壌間隙水中に残存しているNO3-Nを十分に吸収できる環境にあることが明らかになった.以上のことから, 土壌間隙水質の周年変化の特徴を把握し続けることにより, 果樹根からの養分吸収の様態をも推定できる可能性が示された.