2026 年 9 巻 2 号 p. 20-30
目的
経済連携協定(Economic Partnership Agreement、以下、EPA と略す)により来日した外国人看護師は、国家試験合格後十分に教育が保障されていないことが課題となっている。そこで、対話による学びの機会の必要性を踏まえ、コミュニケーション実習を考案した。
本稿の目的は受入れ医療機関におけるコミュニケーション実習の試みを報告し、改善点を明らかにすることである。
方法
EPA看護師(ベトナム出身7名)、教育担当看護師(1名)、EPA担当職員(1名)の計9名を対象とした。コミュニケーション実習は2日間で実施し、第1回では伝達活動を行い、第2回では職場体験の共有を行った。コミュニケーション実習のねらいは、参加者が課題解決につながる行動目標を立てることである。記録用紙および質問用紙に記述された内容をテキストデータ化し、分析を行った。
結果
第1回の伝達活動でEPA看護師は時間軸や転倒場面などに注目して、正確に伝えようとしていた。第2回では、EPA看護師と教育担当看護師・EPA担当職員がともに職場のコミュニケーション体験や困難を話し合うことにより、適応課題に気づき、行動目標を考えることができた。
考察
伝達活動における内容の適切性においては、情報量の改善が必要であること、また伝達内容の難易度については、日本語能力試験の基準のみに依拠するのではなく、就労現場における実際のコミュニケーション状況を考慮する必要性が示された。先行研究により転倒場面の伝達に相当するインシデント報告を扱う意義も確認された。
伝達条件の難易度に関しては、質問の回数を段階的に増やし、自由度を上げることにより、聞き返しへの意識づけに効果が見られた。また、非言語コミュニケーションの条件を新たに加える改善点が明らかになった。
さらに、キャリア形成の観点からEPA看護師の教育研修においては、継続的かつ長期的な育成計画の必要性が示唆された。
Purpose
Foreign nurses in Japan under an Economic Partnership Agreement (EPA) often lack sufficient post-qualification education after passing the national examination. Considering this, the present study argues that adequate opportunities are required to allow them to learn through dialogue. Accordingly, a communication training program was created.
This work reports on an attempt to conduct communication training at a participating medical institution and identifies areas for improvement.
Methods
The study included nine participants: seven EPA nurses (from Vietnam), one nurse educator, and one EPA staff member. The communication training was conducted over two days; the first session involved communication activities, and the second involved sharing workplace experiences. The communication training aimed to set behavioral objectives that would lead to the development of problem-solving skills. The record sheets and questionnaires were transcribed and analyzed.
Results
In the first practical training session, the EPA nurses focused on the date of the message and the circumstances of falls, ultimately striving to convey information accurately. In the second practical training session, EPA nurses, a nurse educator, and an EPA staff member shared their experiences and difficulties with workplace communication, became aware of adaptive challenges, and considered action goals through dialogue.
Discussion
Regarding the appropriateness of the conveyed content, the amount of information needed to be improved, and the difficulty level should not depend solely on the Japanese Language Proficiency Test standards, but the actual communication situations in the workplace need to be taken into account. Previous research has also confirmed the significance of handling incident reports, which are equivalent to communicating the scene of a fall.
Regarding the difficulty level of the transmission conditions, gradually increasing the number of questions and increasing the degree of freedom was effective in raising awareness of the need for clarification. Additionally, improvements were identified that included adding new conditions for non-verbal communication.
Furthermore, from the perspective of career development, the necessity of continuous and long-term training methods for EPA nurses were suggested.
1. 背景
日本は2008年より経済連携協定(Economic Partnership Agreement、以下、EPA と略す)に基づく外国人看護師候補者を受け入れており、2025年度までにインドネシア人768名、フィリピン人695名、ベトナム人275名、合計1,738名が来日した(国際厚生事業団、2025a,p.2)。2025年3月現在、看護師国家試験(以下、国家試験と略す)合格者は累計719人となった(厚生労働省、2025)。
EPA事業における外国人看護師受入れから17年を経た現在、第1陣で来日し10年以上働き続けるケースもあり(浅井・箕浦、2020,pp.261-292;熊谷、2019)、勤務において必要な日本語の習得や、看護の専門性向上に必要となる知識や技術など、継続した支援が課題となっている。EPA看護師候補者(以下、候補者と略す)は、看護助手としての就労が始まると、国家試験対策を主な目的とした学習支援を受ける(国際厚生事業団、2025a,p.10)。その後、合格したEPA看護師は「看護助手」から「看護師」へと職場における位置付けが変わり、新たな状況に適応しようとする。しかし、看護業務に必要な教育は受入れ病院に委ねられており、EPA看護師は日本語で看護業務が行えるか不安を抱いたまま働き始める(伊藤、2019)。候補者を対象とした国際厚生事業団(2013,p.173)の調査結果は合格後の状況にも言及し、「話し言葉と書き言葉の違いによる困難さ」、「国家試験で使う言葉と看護現場で使う言葉の違い」への戸惑いや、「医療従事者間の口頭での報告・連絡・説明の困難さ」、「患者や家族とのコミュニケーションの困難さ」が報告されている。EPA看護師は来日前に医療現場の就労経験を有しているとはいえ、合格後直ちに組織風土を理解して看護業務を遂行する日本語を運用することは難しいと言える。
このような現状からEPA看護師の教育が十分保障されているとは言い難く、学習機会の充実が課題となっており、EPA看護師の指導者からも支援が求められている。課題解決を模索するにあたり、「既知の解決策が存在しない複雑な課題に対処する(中略)コミュニケーションや学習、関係構築」(ジャルヴァース,R・ブッシュ他、2015/2018)にアプローチするという考え方に立ち、受入れ病院勤務者とEPA看護師が対話できる場の提供が必要と考え、コミュニケーション実習のカリキュラムを考案した。
2. 目的
本稿の目的はEPA看護師受入れ医療機関において実施したコミュニケーション実習の試みを報告し、実際の活用に向けた改善点を明らかにすることである。コミュニケーション実習は、EPA看護師および日本人看護師や職員が課題解決に向けた行動目標を立てることをねらいとした。
本稿でいう「EPA看護師」とは、「EPA候補者として来日し、国家試験合格後日本の医療機関で働き続けている看護師」とする。
3. EPA看護師となるまでの経過
候補者受入れの概要と研修について国際厚生事業団(2025b)に示されている内容を示す。候補者の受け入れは、国際厚生事業団が唯一の受入れ調整機関となっている。
1) 候補者受入れの要件
実務経験の要件は、インドネシアとベトナムが2年、フィリピンが3年と定められている(国際厚生事業団、2025b,p.12)。
日本語能力に関する要件はフィリピンとインドネシアが日本語能力試験N4程度以上(フィリピンは調整中)、ベトナムがN3以上の「合格」となっている。日本語能力試験のN1からN5は日本語理解力の習熟度を示す指標であり、各レベルで語彙や文法、読解、聴解のスキルが大きく異なる(国際交流基金他、「N1~N5:認定の目安」)。N1はニュースや論説文など幅広い場面における高い理解力が求められる。N2は幅広い場面で専門的ではない文章やニュース、やや速い会話が理解できるレベルとされている。N3はややゆっくりとした日常会話や簡単な説明文が理解できるレベルである。N4は基本的な語彙でゆっくりと話される会話を理解し、短い日常的な文章を読むことができるレベルである。N4の漢字は約300字、N3では約650字の読みと意味の習得が目安とされている。
看護師になるためには、最初の看護導入研修から看護の対象となる患者への理解まで、医療や看護専門用語への理解が必要であり、N2以上の知識やスキルを使いこなすコミュニケーション能力が求められる。
2) 候補者の研修
候補者は母国及び日本で日本語研修と看護導入研修等を受講する(国際厚生事業団、2025b,p21)。看護導入研修は、①生活適応、②職場適応、③自律学習を目的として総合日本語、社会文化適応、専門日本語、職場適応の研修が行われる(海外産業人材育成協会、「事業概要と研修内容」)。
訪日前日本語研修
インドネシア人及びフィリピン人の候補者は、受入れ機関とのマッチング成立後、日本語研修機関が実施する6か月間の訪日前日本語研修を受講する。ベトナムの候補者は日本語研修機関が実施する12か月間の研修を受講し、日本語能力試験N3以上を取得した者がマッチングの対象になる(国際厚生事業団、2025a,p.21)。
訪日後日本語研修
インドネシア人及びフィリピン人候補者は研修機関で6か月間、ベトナム人候補者は約2か月間の日本語研修を受講する。研修終了後、候補者は看護補助者として働きながら、原則3年以内の国家試験合格を目指す。
国際厚生事業団のEPA看護師候補者受入れの手引き(2025b,p.6)によると、受入れ病院は、「日本語の継続的な学習、職場への適応促進及び日本の生活習慣習得の機会を設けること。」とされている。日本語学習支援については、日本語教師が継続して指導する場合や勤務時間外での自己学習となっているなど、受入れ医療機関の方針によって異なっている。また、地域の日本語教室数で比較すると、東京都136、福島県28、徳島県15(文部科学省、2024)のように利用可能な地域資源に格差が見られる。
候補者の仕事は看護補助者の業務内容に限られており、医療補助業務は行うことができないため、申し送りや看護記録の読み書きなど看護現場の日本語運用力を学ぶ機会は得にくい。候補者をサポートしている看護師への聞き取り(長江他、2013)では、国家試験に合格しても看護業務ができることを意味しないという懸念が報告されている。EPA看護師からは「サポートされているのは分かるが、人間関係が難しい」といった声もあり(国際厚生事業団、2013,p.177)、人間関係の維持という面からもコミュニケーション力の向上が課題となっている。
1. 対象者
1) 研究協力依頼の経緯
研究協力を依頼するにあたり、次の要件を考慮のうえ医療機関を選定した。①2023年4月時点で国家試験に合格したEPA看護師が在職している。②日本語教室や日本語教師が比較的少ない地域の医療機関である。③EPA看護師(候補者)の事例報告を公表している。国際厚生事業団の受入れ説明会でこの3点に適っている[K第1病院](病床数 240 床)がベトナム人のEPA看護師の受入れ事例を報告されていたことから、研究協力を依頼するに至った。
研究協力に同意を得る際には[K第1病院]に出向き、教育担当看護師とEPA担当職員に本研究目的や意義、個人情報の保護、任意の研究参加と協力撤回の自由等を文書と口頭で説明し、同意書への署名をもって同意を得た。[K第1病院]EPA看護師への研究協力依頼は、教育担当看護師から任意参加で希望者を募集してもらい、実習の説明書(ベトナム語訳)も提示した。参加希望者の確定後、勤務調整を行った上で実施することとなった。実施当日に平易な日本語表現で研究の目的や研究協力は任意であること、個人情報の保護等について説明し、署名にて実習参加の同意を得た。
2) 研究参加者
研究参加者はEPA看護師7名、教育担当看護師1名、EPA担当職員1名の計9名であった。EPA看護師7名は国家試験合格後、病棟看護師として就労している。
表1 EPA看護師の参加者一覧
|
EPA看護師 (ベトナム出身) |
性別 | 国家試験合格年 |
合格後の就労期間 (実習参加時) |
|---|---|---|---|
| A氏 | 女性 | 2021年 | 2年4か月 |
| B氏 | 女性 | 2022年 | 1年4か月 |
| C氏 | 男性 | 2022年 | 1年4か月 |
| D氏 | 女性 | 2023年 | 4か月 |
| E氏 | 女性 | 2023年 | 4か月 |
| F氏 | 女性 | 2023年 | 4か月 |
| G氏 | 男性 | 2023年 | 4か月 |
2. データ収集期間
データ収集は2日間で行った。(2023年7月3日、8月1日の実習実施時)
3. 実践活動日程
実践活動は事前の打ち合わせから事後のふりかえりまで約3か月間で行った。事前の打ち合わせを2回(2023年5月22日、6月21日)、事後のふりかえり(8月24日)をオンラインにて行い、教育担当看護師およびEPA担当職員と話し合いの機会を持った。
4. 用語の定義
本研究におけるコミュニケーション実習とは、「ラボラトリー方式の体験学習理論」に基づく構造化された実習のことをいう。ラボラトリー方式の体験学習は、《体験⇒意識化⇒分析⇒仮説化》という循環過程があり(津村、2019,p.259)、参加者の体験をデータとしてファシリテーターと共に探求する学習方法(津村、2010)である。プロセスに着目してデータを解釈する点が特徴となっている。
5. 実習の目的と概要
1) 実習の目的
コミュニケーション実習のねらいは、共に働く人との対話を通してEPA看護師と日本人看護師・職員が課題解決の可能性に気づき、行動目標を立てることである。
2) 実習の概要
2日間の実習は、第1回を構造化された体験、第2回をふりかえり(意識化・分析・仮説化)と位置づけて一連の学習として設計し、筆者がファシリテーターを務めた。
第1回実習「メッセンジャーライン」の目的は、伝言活動を通してコミュニケーションの課題に気づくことであり、導入→伝言活動→ふりかえり→小講義の手順で実施した。ふりかえりは「話す・聞く際の留意点」についての話し合いであり、オリジナル実習「メッセンジャーライン」(グラバア・水嶋、2008)を参考に作成した。
第2回実習「こころの窓」の目的は対話を通して課題解決のための自己の行動目標を立てることであり、小講義→職場の課題の明確化→個人目標設定→行動計画の手順で実施した。小講義は心理学モデルの1つ「ジョハリの窓」をテーマとし、オリジナル実習「心の四つの窓」(グラバア・小山田、2008)を参考に質問用紙を作成した。この質問用紙には4つの窓があり、対人関係やコミュニケーションの気づきを記入するために用いた。
6. データ収集方法
実習「メッセンジャーライン」の記録用紙と実習「こころの窓」の質問用紙の記述内容をテキストに変換してデータとした。日本語で記入する状況に配慮し、記入時間を十分に取った。実習終了時に実習「メッセンジャーライン」の記録用紙と実習「こころの窓」の質問用紙9名分を回収した。
7. 分析方法
伝達プロセスと職場適応の視点で次の3項目、1)伝達内容、2)職場のコミュニケーション体験、3)参加者が考えた行動目標についてデータの解釈を試みた。
EPA看護師が書いた日本語の記述を解釈する際には、限られた語彙・文法で表現された内容を十分読み込み、関係的過程に関する内容に関してもデータの意味を見出すよう努めた。
8. 倫理的配慮
本研究は筆者の所属する大学の研究倫理審査委員会の承認を得て行った(受付番号:HM22-575、2023年4月3日承認)。研究協力者には研究の目的や個人が特定できないよう匿名性を保持すること、プライバシーの保護、研究協力への自由意志の尊重について説明し、同意書への署名をもって同意を得た。データは厳重に管理し、研究発表する際の方法も確認した。また、実習中においても安心安全な場を保持するよう、対話ではすべて自己開示する必要がないことや他の参加者が語ったことは外へ持ち出さないよう伝えた。
9. コミュニケーション実習の実際
参加者9名を2つのグループに分け、日本人とベトナム人がメンバーとなるように組み合わせた(グループ1:EPA看護師3名、EPA担当職員1名 グループ2:EPA看護師4名、教育担当看護師1名)。
使用言語においては、伝言活動や話し合い全般を日本語で実施した。EPA看護師は日常業務において日本語を使用しており、EPA看護師同士の会話も日本語で行うように指導されている。実習「こころの窓」の話し合いは感情や抽象的な語彙も必要となるためベトナム語の使用も可としたが、日本語でやり取りが行われた。
実習「メッセンジャーライン」の伝言活動は、伝達ルールの自由度が増すにしたがい、より詳しく伝え、やり取りが活発になった。メッセージ① ②の伝達は質問してはいけないルールだが、メッセージ③では2回質問することができる。メッセージ④は感情を伝える条件が加わり、2分間与えられる。最後のメッセージ⑤は2分間自由にやり取りが許され、聞き手による質問や確認の回数が増加した。
実習「こころの窓」では4つの問いかけ、[1の窓]職場のコミュニケーションはどんな様子か、[2の窓]自分の話し方や聞き方について気づいたこと、[3の窓] 1の話し合いの時、どんな気持ちだったか、[4の窓]仕事などで試みたいこと、それぞれの記入に十分時間を取り、グループで話し合った。
実習は2023年7月3日と8月1日に実施され、第1回は4時間、第2回は3時間であった。2日間で行ったコミュニケーション実習の活動内容を結果として示す。
参加者の記述内容は文法・文字を修正せず、原文のまま提示する。
1. 実習「メッセンジャーライン」
5回の伝達活動で伝達条件の自由度が高まることに伴い、聞き手からの聞き返しが増え、話し手はより詳細に伝えることができるようになっていた。
1) 伝達されたメッセージの実際
参加者が記録した伝達内容を表2・表3でグループ別に示す。メッセージの変化に着目した箇所を2重下線で示した。(HTML形式では斜体字)
メッセージ①の伝達は、聞き返しが許されない伝達条件のもと「七夕まつり」という行事名より、不正確ながらも「8月6日から」や「3日間」という時間軸に注目されていた。メッセージ③の伝達は、全員がイラストの患者名と転倒場面に注目していた。メッセージ④では「2つのお面」の情報に加え、それを見たときの気持ちを伝えることが指示されており、1番目のEPA看護師(F氏、A氏)は「こわい」「わるいきもち」と次の人に伝えている。グループ1の伝達は、2番目から「こわい」という気持ちの情報が落ちるものの、「あかいおめん/あおいおめん/2つ」という色と数には注目されていた。メッセージ⑤の伝達は「男の子」「8才と9才」という性別や年齢に注目され、さらにグループ2は「あしおと」にも意識を向け、5人のメンバー全員が足音を聞くことが大切なゲームをしていると伝えていた。
表2 実習「メッセンジャーライン」伝達内容 グループ1
表3 実習「メッセンジャーライン」伝達内容 グループ2
| メッセージ① | 教育担当看護師:<地名>七夕まつり8月6日から3日間 |
| ⇒D:<地名>はたばなおまつり8月6日みっかかん | |
| ⇒C:<地名>市はばなおまつり7月6日です | |
| ⇒A:<地名>しほなまつり7/3 | |
| ⇒E:<地名>しまちはなおまつり8月3日 | |
| メッセージ② |
D:9月にこくさいこうりゅう会があるので ふるさとのまちを しょうかいしてください 一度リハーサルがあるので 7月21日までにていしゅつしてください |
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⇒C:9月にこくさいこうりゅう あるので ふるさとのおまちを しょうかし してください いちどう8月21日ていしゅつしてください |
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⇒教育担当看護師:9月国際交流があるので、ふるさとのお祭りを紹介してください 8月21日出席してください(いいです) |
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⇒E:9日こうりゅうこくさいがあるので ふるさとのおまつり しょうかいしてください 7月21日出せき もいいです |
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| メッセージ③ |
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| メッセージ④ |
A:おまつりするときかけるもの おめんです あかい、あおい ものがあります おめんを みると わるいきもちがします |
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⇒教育担当看護師:お祭りの時につけるお面が2つあります 赤と青のおめんがあります お面を見ると気持ち悪くなります |
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⇒D:おまつりのときにつけるおめんがあります おめん2つがあります あかいとあおい おめんをみるときもちがわるくなります |
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⇒C:おまつりときにつけるおめんが2つあります あかいとあおいです おめんをみると きもちがわるくなっています |
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| メッセージ⑤ |
E:指で見るの本を見ました こどものだんせい9才と8才いる ゲームをしている 足の音が大事です 見つかけてからガームおわる おにごっこ かくれんぼ |
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⇒D:ゆびでよむえ本 8才9才おとこの子ゲームしている あしおときくことたいせつな ゲームです |
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⇒教育担当看護師:指で見る絵本を見ました 8才と9才の男の子が遊ぶゲームです 足音をきくことが大切なゲームです |
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⇒C:ゆびでよんんでいるえほん 8才と9才 おとこのこ ケームをやっています あしのおとをきくことがたいせつのケームです |
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⇒A:ゆびでよんでいるえい本 8才9才 ケームしている男子です あしのおとをきくことがたいせつなゲームです |
2) 伝達活動の難易度
メッセージの選定にあたってはオリジナル実習を参考に、日常会話(文字情報)や実物、写真を用いて難易度が次第に上がるように設定した。また、教育担当看護師のアドバイスを受け、状況報告として転倒場面のイラストを取り入れた。メッセージの日本語レベルは初級(N5、N4)文法で作成されており、難易度は情報量、語彙(既習、未習)、伝達の条件によって変化させた。
3) 「話す」「聞く」留意点について気づいたこと
伝達活動「話す」「聞く」で参加者が気づいた留意点を抜粋して示す。伝え方や相手を意識した記述に下線を施している。
大きい声でゆっくり話す(E氏)/ ジェスチャーを使える(E氏)/えがおではなして、じしんをもって日本語で伝える(C氏)/日付と時間と名前きっちんと確認する(E氏)/ 内容を具体的イ確認して わすれないようにメモをする(D氏)
このようにEPA看護師は非言語にも意識を向け、正確にコミュニケーションをしようとしている。一方、教育担当看護師とEPA担当職員は、相手の理解とその確認を意識していた。
伝わりやすい日本語を使って話す。相手の理解を確認しながら話す。何を伝えたいのか、前後の状況を把握して内容理解につなげる。/相手が分かりやすい言葉を考えて伝える。知っていると仮定しない。相手の理解を確認する。適切な質問をする。
2. 実習「こころの窓」
質問用紙 [1の窓] に記された職場の体験を表4に示す。電話対応について合格後3年目のA氏は「でんわかけるとき(中略)あたまのなかにまとめて、はなすことできるが、でんわでるとき(中略)むずかしい」、合格後1年目のD氏は「かぞくと(中略)まだへんじできない」と、患者家族との会話に困難を感じている。また、日本文化や曖昧な表現・冗談がわからない、人間関係による緊張からうまく話せない等、同僚とのやり取りに関する困難が挙げられた。
表4 職場のコミュニケーション体験
| EPA看護師 | |
|---|---|
| A | じぶで でんわかけるとき、はなしのないようを あたまのなかにまとめて、はなすことできるが でんわ でるとき、あいての 話のないようしか話しのスピードむずかしい |
| B | 相手が冗談を言った時、わからない |
|
C
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にんげんかんけいがよくない人はなすとき もっときんちょうして、ないよをうまくできない あいまい ことばをつかって いみがまちがやすいです かくにん ことがむずかしい |
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D
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日本人と勉強会さんかするとき一人しか外国人なので内容わかりづらい。せんぱいせつめいのときよく気になる因っている 患者のかぞくはなすとき自信もっていないのでナースセンターの電話まだ返事できない |
| E | 日本語ぶんかがわからないのでコミュニケションができない |
| F | はなしたいですけどことばとかぶんぽとかわからないので話しにくい |
| G | 同僚が意味不明な言葉を言ったとき、やるかどうか分からない |
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EPA 担当職員 |
相手の理解が確認できない 伝えたと思ったことが伝わっていなかった連絡がこない、遅い 誰も仕事の進め方を知らず、マニュアルもない業務がある やり取りの中で解決法を探る |
| 教育担当 看護師 | 日本語を理解しているというが間違っているときがある EPAが頑張っている事が言葉の問題で伝わりにくい (アピール下手でもある)と感じる |
次に、個人目標を考え、行動目標として記述した内容を表5に示す。対話を重ねたメンバーに自己の目標を表明したことで、目標を応援し合う関係性が生まれる場になっていた。EPA看護師と受入れ側の教育担当看護師・EPA担当職員が職場のコミュニケーション体験や困難を共有することにより、技術的課題に加え、人との関わり方や考え方といったプロセスに関わる適応課題に気づき、主体的に行動目標を立てていた。
表5 参加者が考えた行動目標 下線部(HTML形式では斜体字):関係的過程における適応課題
| EPA看護師 | |
|---|---|
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A
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かんじゃさんと かいわのなかでよく けいちょうし、ひつようがあれば、Dr、しゃかいしえんしゃに じょうほうていきょうし かいにゅうできるようにがんばりたいとおもいます でんわをかけるとき うまくききとれて、ただしいないよう つたえるように がんばりたいとおもいます |
| B | 相手に話す前、伝える内容をかんがえて、れんしゅうすることを がんばりたいですベトナム語を教えてあげます(かんたんなことばで) |
| C |
かんばりたいことは かんじゃさんと スタッフも コミュニケーションをとります ほうれんそうをやります |
| D | 電話で自信をもって返事したい 患者とスターフ コミュニケーション とき せんもんいがいは 言葉でられたいです |
| E | 数字を覚えたいと思います 会話の時に ふしょをしぜんに話したいと思います |
| F | スタッフさんにたくさん話したいです かんじのやり方をおぼえるように |
| G | 日本語を上達させるためによく人と話す |
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EPA 担当職員 |
相手の理解伝える内容と、それを伝えた結果どうなるかをよく考える 相手の理解を確認する 話しやすい雰囲気づくり |
|
教育担当 看護師 |
EPAのコミュニケーション能力upの評価周知方法 頂いた評価を本人(EPA)へフィードバック |
本章では、コミュニケーション実習の結果からEPA看護師と協働するための課題解決に向けた実習の改善点について考える。メッセージの伝達や職場の体験を「コンテント」、思考・感情などの関係的過程を「プロセス」と捉え、データの解釈を試みる。
1. 伝達内容の適切性
EPA看護師はメッセージ③④⑤(表2、表3)の情報量に難しさを感じていた。EPA看護師C氏が「あたまの中でないようがぜんぜんわからないので できません した」と記述していたことから、情報量の調整に改善が必要であることがわかった。
語彙の難易度について日本語能力試験の基準では「倒れる」より「転倒」のほうが難しいとされる。しかし、結果で示した伝達内容グループ2(表3)では、「てんとう」が用いられ、グループ1(表2)では、「たおるあった/たおれて見ます」のような誤用が見られた。難易度の判断は受入れ医療機関におけるコミュニケーション状況を詳細に聞き取った上で検討する必要があることがわかった。
転倒場面のイラストは医療現場のインシデント報告の体験として選定した。石井・森(2014)は看護師資格を取得したEPAインドネシア人看護師への望ましい指導として「療養上の世話に関する業務」、「インシデント報告」、「防災管理」について特に指導する必要があると指摘している。インシデント報告に関するメッセージは、何をどのように伝えるかという点で効果的なメッセージであった。また、防災教育を受ける機会のない国の外国人看護師には、防災管理に関するメッセージを選定することも検討が必要である。
2. 伝達条件の難易度
伝言活動では質問回数や制限時間を変えることにより、聞き返しへの意識づけが強まり、ある程度の効果があったと考えられる。EPA看護師D氏は、1度だけ聞いた場合は間違いやすく、質問して確認できると安心したと記していた。改善案としてジェスチャーやアイコンタクトなど、非言語コミュニケーションの条件を加えることも必要である。
3. EPA看護師に対する研修のあり方
外国人看護師の教育について成瀬・石川(2013)はイギリスにおける事例を次のように報告している。受け入れ機関がカリキュラムを作成し、認可を受けた大学が研修(状況に応じて臨地実習)を行うが、英語圏の外国人看護師でも文化的背景は様々で、コミュニケーションの問題は残るという。イギリスの事例からも継続してコミュニケーション実習を行うことが必要であるという知見が得られた。また、キャリア形成という点からも長期的に実習計画を立てることが必要である。合格後の研修とキャリア開発について浅井・箕浦(2020,p.405)は、合格後のキャリアを考える上で仕事のやりがいや挑戦欲が満たされることが重要であると述べ、日本語力と専門性を高める機会の提供を提言している。
宮田(2023)の報告には、EPA看護師が経験する苦難や電話対応へのサポート支援が必須であるという看護管理者の調査結果が示されている。支援を考える際には、困難ととらえている事象にどのようなプロセスが隠れているか、真の原因は何かを見極めることが重要である。例えば、電話対応マニュアルを示すことは技術的課題への短期的な対応であるが、職場適応の課題解決には、本報告で示したようにコミュニケーションや関係性にアプローチし、主体的な行動を促すことが根本的な解決につながると考える。
本実践ではEPA看護師と受入れ病院の看護師・職員が協働するための「対話の場」を創り出すことができた。「学び方を学ぶ」体験学習理論によりプロセスに働きかけ、自ら行動する力を引き出すという支援のありかたを示すことができたと思料する。
日本で受け入れられているEPA看護師は、ベトナム、フィリピン、インドネシアの看護師であるが、今回の対象者はベトナム出身者であり、サンプルサイズが少ない点は本研究の限界である。コミュニケーション実習をEPA看護師の実情に適ったものとするためには、インドネシアおよびフィリピン出身のEPA看護師も対象とすることが課題となる。
今後もEPA看護師の多様な職場環境に知見を深め、実践を重ねていく必要がある。
伊藤美保:データ収集、報告原稿作成・推敲、最終確認
本研究にご協力いただきました全ての皆様に感謝いたします。K第1病院の皆様には、お忙しい中ご尽力を賜り、EPA看護師と受入れ病院の方が対話する新たな研修モデルの実現に至りました。本研究の成果は、コミュニケーション実習に真摯に取り組んでくださった皆様のご協力によるものであり、ここに深く感謝申し上げます。
本研究はJSPS科研費 基盤(C)の助成を受けて実施しました(課題番号22K10667)。
本研究に関する利益相反はありません。