抄録
遺伝学的に非自己である受精卵が子宮内膜に着床し成長して行くためには,その受精卵の受容を可能とする精妙な免疫機能の調整機構が介在し,さらに胎芽の拒絶を阻止しその発育を保証できる機構の存在が必要である。妊娠の成立・維持においてNK細胞は,末梢血や子宮内膜に存在し,子宮内膜における免疫機構の維持に重要な機能を果たしている。NK細胞の調節異常は不妊や流産を引き起こすと考えられてきており,末梢血のみならず,子宮内膜,脱落膜中のNK細胞の絶対数の異常および構成比率の異常,あるいはレセプター発現やサイトカイン産生異常,遺伝子発現異常についての検討がなされ,妊娠の成立,維持における免疫系の関与,特にNK細胞の関与はほぼ確立された概念となっている。NK細胞の最大の機能は異物や腫瘍細胞に対する細胞傷害作用であるが,NK細胞は他にサイトカイン産生という重要な機能も有している。Natural cytotoxicity receptor(NCR)は,NK細胞に発現するレセプターのうち,活性性レセプターとして知られている。NCRは,NKp46,NKp30,NKp44が知られており,このうちNKp46とNKp30は活性化および非活性化NK細胞に発現し,NKp44は活性化NK細胞にのみ発現する[1]。またNKp46とNKp30は細胞傷害のみならずNK細胞におけるサイトカイン産生に関与することが知られている[4]。NCRのなかでも,私どもはこれまでNKp46に着目し,生殖異常において,様々な検討を行ってきた。NKp46は,活性性のレセプターであり,当初,不育症や着床不全などの生殖異常では,NK細胞の細胞傷害性が増加し,NKp46発現が増加するであろうとの仮説を立て,検討を開始した。しかし,当科における検討では,予想に反して,生殖異常ではNKp46の発現が低下していた。そこで,これまでの得られた私たちのデータを中心にNKp46と生殖との関連につき概説する。