Reproductive Immunology and Biology
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30 巻
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総説
  • 福井 淳史, 船水 文乃, 淵之上 康平, 千葉 仁美, 鴨井 舞衣, 當麻 絢子, 福原 理恵, 水沼 英樹
    原稿種別: 総説
    2015 年 30 巻 p. 1-6
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
    遺伝学的に非自己である受精卵が子宮内膜に着床し成長して行くためには,その受精卵の受容を可能とする精妙な免疫機能の調整機構が介在し,さらに胎芽の拒絶を阻止しその発育を保証できる機構の存在が必要である。妊娠の成立・維持においてNK細胞は,末梢血や子宮内膜に存在し,子宮内膜における免疫機構の維持に重要な機能を果たしている。NK細胞の調節異常は不妊や流産を引き起こすと考えられてきており,末梢血のみならず,子宮内膜,脱落膜中のNK細胞の絶対数の異常および構成比率の異常,あるいはレセプター発現やサイトカイン産生異常,遺伝子発現異常についての検討がなされ,妊娠の成立,維持における免疫系の関与,特にNK細胞の関与はほぼ確立された概念となっている。NK細胞の最大の機能は異物や腫瘍細胞に対する細胞傷害作用であるが,NK細胞は他にサイトカイン産生という重要な機能も有している。Natural cytotoxicity receptor(NCR)は,NK細胞に発現するレセプターのうち,活性性レセプターとして知られている。NCRは,NKp46,NKp30,NKp44が知られており,このうちNKp46とNKp30は活性化および非活性化NK細胞に発現し,NKp44は活性化NK細胞にのみ発現する[1]。またNKp46とNKp30は細胞傷害のみならずNK細胞におけるサイトカイン産生に関与することが知られている[4]。NCRのなかでも,私どもはこれまでNKp46に着目し,生殖異常において,様々な検討を行ってきた。NKp46は,活性性のレセプターであり,当初,不育症や着床不全などの生殖異常では,NK細胞の細胞傷害性が増加し,NKp46発現が増加するであろうとの仮説を立て,検討を開始した。しかし,当科における検討では,予想に反して,生殖異常ではNKp46の発現が低下していた。そこで,これまでの得られた私たちのデータを中心にNKp46と生殖との関連につき概説する。
  • 成瀬 勝彦, 大野木 輝, 佐道 俊幸, 小林 浩
    原稿種別: 総説
    2015 年 30 巻 p. 7-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
    プロテアーゼ系(インヒビターを含む)は生体に欠かせない重要な機構である。ヒト妊娠においては,この機構は絨毛細胞の浸潤,子宮らせん動脈の分解やその後の妊娠継続に欠かすことができない。本稿ではプロテアーゼ系(MMP,uPA,PAI)の妊娠初期における胎盤形成を中心とした役割について述べる。とくに我々が発表してきたプロテアーゼ・スイッチ(妊娠10週以前の絨毛細胞浸潤を妊娠12∼15週のらせん動脈分解に劇的に変化させる機構)はその後の妊娠合併症に密接に関連すると考えられており,関与する浸潤型絨毛細胞と子宮Natural Killer細胞の役割は重要である。プロテアーゼ研究の進展はこれまで謎に包まれてきた妊娠初期の母児間の交接を証明するためにも,ますます重要になるものと考えられる。
学会賞受賞論文
  • 小泉 花織, 中村 仁美, 松崎 高志, 黒田 俊一, 瀧内 剛, 熊澤 恵一, 木村 正
    原稿種別: Award Article
    2015 年 30 巻 p. 13-21
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
    Bio-nanocapsule(BNC)は約100nmの中空の粒子から構成され,30年以上臨床で使用されてきたB型肝炎ワクチンと同様の構造である。表面に肝臓に特異的な結合部位をもつpre-S1ペプチドがあるために全身投与したとしても肝臓に特異的に送達される。本研究ではこの肝臓に特異的な結合部位であるpre-S1領域のN末端をHIV-1 領域由来の 14 量体で ある細胞接着性のあるトランス活性化転写因子(TAT) ぺプチドに置換し,BNCを子宮局所への新しいdrug delivery system(DDS)として至適化,再構築を行った。Cy7にて標識したBNCをマウスの子宮腔内に注入し,BNC粒子の分布をin-vivo画像システムと免疫組織化学にて観察した。また,リポソーム(coastomeEL-01-D)を用いて,Luciferase強制発現プラスミドDNAをBNC内に封入し,子宮腔内に遺伝子導入を行った。遺伝子導入の効率はLuciferase assayを用いて解析した。TAT標識したBNC(TAT-BNC)が一過性に子宮に滞留する条件を設定し,BNCが子宮腔内に停留することを確認した。組織学的な検討において,子宮内膜上皮においてBNC粒子の局在が確認された。しかしながら,間質細胞および筋層にはBNC粒子が拡散しない事が確認された。TAT-BNCを用いた方法では,リポフェクション法に比べて有意に高い遺伝子導入効率が認められた。今回の結果から,BNCが子宮局所への新しいDDSとして提案できる事が示唆された。
  • 市川 麻祐子, 永松 健, 藤井 達也, 保谷 茉莉, 河合 希, 織田 克利, 川名 敬, 山下 隆博, 大須賀 穣, 藤井 知行
    原稿種別: Award Article
    2015 年 30 巻 p. 22-31
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
    【目的】リゾフォスファチジン酸(LPA)は細胞膜受容体を介して多様な生理機能に関与する脂質メディエーターであり,主に酵素オートタキシン(ATX)により産生される。妊娠高血圧症候群(PIH)では,正常妊娠と比較して胎盤におけるATX産生が有意に低下することを我々は過去に報告した。本研究ではATX産生低下の意義を調べるため,LPA受容体の一つであるLPAR3に着目した。LPAR3は,その欠損マウスにおいて着床遅延が生じることが報告されており,生殖分野への関与が示唆されている。我々は,LPAR3の胎盤における発現パターンを検討した。また絨毛細胞由来株にLPAR3を強制発現させた上でアゴニストによる刺激を行い,血管新生関連因子の発現を検討した。【方法】本研究は当院研究倫理委員会の承認の下,患者の同意を得て行った。免疫染色法によりヒト胎盤におけるATX,LPAR3の発現分布を確認した。絨毛細胞由来株HTR-8/SVneoにLPAR3を遺伝子導入し,強制発現されることを確認した。その上でLPAR3特異的アゴニストT13による刺激を行い,血管新生関連因子の発現を定量的PCR法を用いて同定した。【成績】ATXはすべての絨毛細胞に発現していたが,LPAR3の発現は分化したsyncytiotrophoblast,extra-villous trophoblastに限局していた。LPAR3を強制発現したHTR-8/SVneoをT13にて刺激すると,血管新生関連因子の中でCOX2,VEGF,IL8の発現が誘導された。【結論】ATX-LPA-LPAR3系は,分化した絨毛細胞における血管新生関連因子の発現を調節していることが示唆された。このことから,ATXの産生低下は胎盤局所の血管新生関連因子の発現低下を通じて妊娠初期の胎盤形成不全をもたらし,PIHの発症につながる可能性が示されたと考える。
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