Reproductive Immunology and Biology
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学会賞受賞論文
胎盤でのCD73依存的なアデノシンの過剰蓄積とA2Bアデノシン受容体の活性化が妊娠高血圧腎症の発症に関与する
入山 高行大須 賀譲藤井 知行
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2016 年 31 巻 p. 16-23

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抄録

〈目的〉アデノシン(Ado)は低酸素状態で誘導され、様々な疾患の発症において重要な役割を担うシグナル伝達分子である。我々は最近、妊娠高血圧腎症(PE)患者の胎盤においてAdoが過剰に蓄積しており、AMPをAdoに変換する酵素であるCD73の活性がPE患者の胎盤において亢進していることを報告した。しかしながら胎盤でのCD73の病態生理学的な役割については何も知られていない。そこで本研究では、アンジオテンシンII1型受容体に対する活性化型自己抗体(AT1-AA)により誘導されるPEマウスモデルを用いて、in vivoでのCD73の役割およびAdo受容体を介したシグナル伝達経路のPE発症における関与を検討した。

〈方法〉患者血清より精製したAT1-AAを妊娠マウスに投与するPEマウスモデルを施行し、野生型(WT)妊娠マウス、CD73欠損(Cd73-/-)妊娠マウス、およびA2B Ado受容体(ADORA2B)欠損(Adora2b-/-)妊娠マウスを用いて表現型の比較検討を行った。尚、本研究は所属研究機関の倫理委員会の了承と患者からの文書での同意を得て行われた。

〈成績〉AT1-AAの投与によりPE表現型を呈したWTマウスの胎盤においてAdoは過剰蓄積しており、Ado変換酵素であるCD73の発現および活性の上昇が認められた。Cd73-/-妊娠マウスにAT1-AAを投与した群ではAdoの胎盤への蓄積が抑制されており、PEの表現型も改善していた。このことは、活性の上昇したCD73を介する胎盤へのAdoの過剰蓄積がPE表現型の誘導に関与することを示唆している。また、4種類存在するAdo受容体のうちA2B Ado受容体(ADORA2B)のみがPE表現型を呈したWTマウスの胎盤で有意に発現上昇していた。そこでAdora2b-/-妊娠マウスにAT1-AAを投与したところ、WTマウスで見られたPEの表現型がほぼ消失していた。

〈結論〉胎盤でのCD73依存的なAdoの過剰蓄積およびADORA2Bの活性化が、AT1-AAにより誘導されるPEの発症機序に関与する可能性を明らかとした。

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© 2016 日本生殖免疫学会
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