抄録
本稿は代行返上の意思決定要因と退職給付制度の成熟化との関係を暗黙契約の理論の視点から検証したものである。サンプルは2001年3月期と2002年3月期の金融業などを除く東証1部上場企業を対象とし,総数は1,141となった。統計手法として,t検定,Mann-Whitney検定を用いた。本稿の結果から,終身年金が義務付けられている厚生年金基金を保有する企業は保有していない企業と比べて成熟度(加入者に対する受給者の割合)が高くなっており,暗黙契約の不履行を行うインセンティブが強くなっているということが明らかになった。さらに,そのインセンティブは早期に代行返上を行った企業の方が強いという結果が算出された。本稿の結果はPetersen (1992),D’Souza et al. (2006)などの先行研究の実証結果と一致し,代行返上に関する意思決定要因に退職給付制度の成熟化が影響していることが明らかになった。