抄録
本論文では,国際的な枠組みの中で金融規制と企業会計の両面で進む保険負債に対する経済価値ベースによる測定が,保険業に与える影響とその課題を明らかにする。本論文は,保険業全体において経済価値ベースによる測定が,機能しうるかどうかという点に着目している。国際的な潮流は金融規制の柱の一つに市場規律を掲げ,それを機能させるために企業会計の情報が利用されることが想定されている。しかし,経済価値ベースによる保険負債の測定要素の多くは,諸仮定や社内のみで利用されるデータが利用される。情報利用者がフィードバック可能な情報でなければ市場規律が機能せず,結果として企業の利益操作が生じることが懸念される。