抄録
近年,発生したサブプライムローンに端を発する金融危機の反省を踏まえて,システミックリスクの概念がより明確にされた。すなわち,システミックリスクとは,プロシクリカリティを悪化させるような金融機関の集合的な行動から生じる内生的なリスクと金融の安定や実体経済に脅威となる可能性がある金融機関や金融セクターが相互に依存し合うことによって発生する可能性のあるリスクから構成されるリスクのことをいう。このうち,前者のリスクをアグリゲート・リスク(Aggregate Risk)といい,後者のリスクをネットワーク・リスクという。アグリゲート・リスクに対処する手段としては,金融機関に一律に課され,景気動向に合わせて変動する追加的な資本規制が有用であると考えられている。他方,ネットワーク・リスクに対処する手段としては,特定の金融機関に対して課される加重的な資本規制が有用であると考えられている。ただ,このような資本規制が資源配分の効率性という観点から見て有用なものであるかどうかは,今後,実証的に検討する必要がある。