応用生態工学
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北海道琴似発寒川におけるサケおよびサクラマスの産卵床分布の比較
鈴木 享子原田 貴之有賀 望吉冨 友恭
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2021 年 23 巻 2 号 p. 349-356

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抄録

本研究では,琴似発寒川におけるサケとサクラマスの産卵床分布を調べるとともに,産卵床の物理環境を計測した.また,産卵期終了後に産卵床内の水温を測定し,冬季の河川水との水温差に着目して伏流水の有無を確認した.その結果,両種の産卵床分布は同一河川内で明瞭に分かれ,JR 函館本線高架下を境にサクラマスでは主に上流区間に分布し,サケでは下流区間にのみ分布していた.産卵床を構成する礫の粒径はサクラマスよりサケの方が有意に大きかった.伏流水の確認では,上流区間の河川水温とサクラマスの産卵床内の水温の間に有意差は認められず,伏流水は確認されなかった.一方,下流区間では河川水温に対しサケの産卵床内の水温が有意に高く,伏流水が湧出していることが確認された.本調査地は発寒扇状地と呼ばれる地形的特徴を有しており,サケの産卵床は発寒扇状地扇端部からの伏流水湧出箇所に形成されていることが明らかになった.一方,サクラマスの産卵床は主に扇端部より上流側でみられ,伏流水が確認されなかったことから,サクラマスの産卵場選択は伏流水の有無に左右されない可能性が示唆された.両種の産卵適地には地形的特徴や伏流水の湧出,河床材料組成など複数の環境条件が関連していることが考えられる.また,自然再生産には海洋から産卵場までの連続性が保たれていることが前提となるが,琴似発寒川では魚道の整備により産卵親魚が産卵場まで遡上可能になっているものと推察される.サケ科魚類の自然再生産には,産卵に適した生息環境と産卵場まで遡上可能な河川環境の保全や整備が不可欠である.都市部を流れる河川は人為的影響が大きいため,今後もモニタリングを続けるとともに,野生個体群の評価と保全に向けて知見を蓄積する必要があるだろう.

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