抄録
わが国において,農業者のためのセーフティネットとして,農業経営全体に着目し価格低下を含めた収入減少を補てんする農業収入保険制度の導入に向けての検討が行われている。本稿では,同制度の核心部分である「経営単位」という視点に留意しつつ,アメリカ及びカナダの農業経営安定対策における農業保険制度の位置づけについて整理・分析した。
アメリカでは,農業保険と作物別のプログラムを組み合わせることによって農業経営の安定化が図られている。また,経営単位の収入保険WFRPは,これまで農業保険による補てんが必ずしも十分ではなかった果樹・野菜生産者等を主たる対象として実施されている。カナダにおいては,作物別の農業保険により第一次的にキャッシュフローを確保し,所得の大幅な減少に対しては経営単位の農業所得安定制度が最終的に機能するように仕組まれている。このように,アメリカ及びカナダでは,農業保険をベースにいくつかのプログラムを組み合わせることによって,セーフティネットとしての農業経営安 定対策が構築されている。