本稿は未だに議論が錯綜している保険契約法学における因果関係について考察を加えることを目的とする。
保険契約法学における因果関係についての学説である相当因果関係説と近因説は本質的に対立しているとすらいえず,具体的な事実の下で因果関係の有無について判断を行う前提として,必ずどちらの見解を採用するかを決定しなければならないわけではないと考える。
保険金は保険契約に基づき支払われるものであり,ある場面において保険金が支払われるか否かは保険契約の内容によって決定される。そうすると,因果関係の有無を判断するに際しても,保険契約の内容ひいては契約当事者の意思が考慮されなければならない。もっとも,保険者側において適切な限定を付すことができていなければ,極めて偶然的な因果経過を辿ったときを除いて,因果関係が肯定されることになると考えられる。
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