抄録
自由化によって「効率化」「利便性」が図られるとされた。料率自由化と人件費・募集関係費の削減は「効率化」とみえるが,内実は,保険事業の原理原則からの乖離,営業拠点の縮小,事業の担い手の削減と不安定化である。金融同質化で保険産業の社会的責任である保障機能が劣化するとともに,保険とは何かへのこだわり,拠りどころとなる保険学もまた稀薄化し存続の危機を迎えている。伝統的保険学である保険本質論は,非歴史的,非社会的,非科学的な保険技術論であった。諸学もこれを踏襲し独自の視点をもたないできた。自由化がもたらした社会問題としての保険問題に対処するためにも,諸学の課題として人類史・社会経済史に保険を位置づけることが求められている。「歴史的範疇としての保険」論の復権,「社会の協同業務」としての保険(本質)と歴史的形態(疎外形態)への視座である。