2018 年 2018 巻 642 号 p. 642_173-642_201
本稿はヨーロッパの商人たちが活躍した大航海時代の遠隔地交易において,海上危険の「リスク対策」の一手段となった海上保険の取引実態を,ポルトガルとスペイン両国の一次史料を使い,インド航路ではそれがどのように活用されていたのか,また同航路の延長線上にあった我が国との交易の中で活用されていた「投銀(抛銀)」との接点について,一人の冒険商人の貿易活動の軌跡を追い検証を試みたものである。同航路で活躍したこの改宗ユダヤ人商人の一族は,強い親族関係の絆で結ばれたグローバルなネットワークを活用し,東アジアだけでなくブラジルなど中南米で得られた産品を,メキシコから太平洋航路を経てマニラの市場に齎す広範な国際貿易を行っていたことが判明した。更にインド航路と日本航路では,海上保険と投銀を彼らのニーズに合わせ夫々をうまく使い分けていた実態も明らかにした。