2018 年 2018 巻 643 号 p. 643_117-643_137
近代法の下,自然人は,土地に縛られた封建制度の身分的拘束から解放されて人権を勝ち取り資本主義社会における経済活動の主体として権利能力が生まれながらに付与された。さらに権利義務の統一的帰属主体として法的価値判断を経た実体にも法人格が付与され資本主義社会の経済活動の主体として登場した。法人の誕生である。このような「人」に対し,「物」は物権の客体であって財団等の例外を除いては法人格が与えられることはない。このように近代法の建前では,「人」と「物」は厳格に区別されるのが原則である。しかし,近年,特定の事項については人間と同様に「認知→判断→操作」する人工知能が,銀行,証券会社及び保険会社のような金融機関,医療現場,工場及び建築現場等でも活用されている。人工知能はそれ自体「人」ではなく「物」でもない。それと平仄を合わせ,保険法上,人工知能は,物保険としての「保険の目的物」であると割り切ることは実態に合わないし,自然人である「人」であると認めるわけにはいかない。このような両者の中間形態としての人工知能に保険保護を与えるべきであろうか。また,複雑な仕組みにより機能する人工知能が誤作動を惹き起こして被害者に損害を与えた場合,責任保険は適用されるであろうか。被害者の損害賠償責任の発生が明らかにされなければ,責任保険は適用されない。そのためには,事故時とその前後の記憶媒体装置設置義務が法定化される必要があるといわれているが,どの法律に義務規定を新設すべきかが問題となる。