2018 年 2018 巻 643 号 p. 643_25-643_49
保険法は,保険契約締結の際の告知義務に関し,改正前商法の規律から様々な変更を行っている。そのうち,自発的申告義務から質問応答義務への変更は,何を告知すべきかの判断を保険契約者側にゆだねるのではなく,保険者からの質問に答えればよいとするものであり,告知義務の基本的な考え方を変更するものである。これに伴い,保険法の下では保険者からの質問の内容に着目した解釈が行われるため,いわゆる重要性の要件に関する考え方や,故意・重過失の対象となる事実は何かについても,改正前商法の下での解釈論に影響が生じている可能性がある。
このほか,告知妨害の規定の新設や解除の将来効に伴う新たな解釈上の問題も生じるなど,保険法と改正前商法との規定の違いから,様々な論点について従来の改正前商法の下での解釈に変容が生じている可能性もある。改正前商法の下での解釈を当然のものとするのではなく,保険法の規定の文言を踏まえた理論的な分析を行うことは,保険法の新たな研究の可能性を探るためにも重要な意義を有するものである。