2020 年 2020 巻 649 号 p. 649_57-649_83
保険金請求権が保険金受取人の固有の権利として原始取得されるという通説・判例の考え方を前提とすれば,保険事故発生前の抽象的保険金請求権はどのように帰属していると考えるべきか。保険事故発生前において,保険契約者(兼被保険者)は保険金請求権を遺贈の対象とすることはできず,質権設定もできないと考えるのが整合的であるように思われるが,保険契約者は保険金受取人変更による絶対的な処分権限を有しており,保険金受取人はあくまでその変更が行われないことを前提とする弱い権利を有しているに過ぎないことから,保険金請求権の譲渡・質権設定,そして放棄という各処分行為を俯瞰すると,保険契約者による処分を相当程度認めることとなっており,必ずしも理論的に一貫していない。
同様に,保険法は保険金受取人の変更に関して,法的安定性を重視して形式要件を明確化しているが,保険金受取人の変更,とりわけ遺言による変更が行われた場合の有効性をめぐる紛争では,保険契約者の意思を尊重する観点から柔軟な解決を図る余地も残されていないわけではなく,両者のバランスをいかに図るかは依然として重要な課題である。