保険学雑誌
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【最新海外保険事情】特集
オーストラリアにおける保険業界自主規制の発展史
—消費者行政法の視点から—
泉 裕章
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2020 年 2020 巻 651 号 p. 651_139-651_170

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抄録

日本の生損保険業界は,近年,家計保険に係る多数の自主ガイドライン(保険業界自主規制)を整備しており,家計保険事業を巡る今後の消費者行政は,こうした業界自主規制なくして語れない。そうすると,この分野における消費者行政の健全かつ体系的な発展のためには,業界自主規制につき,理論的・歴史的・比較法的な側面から考察する機会を持っておくことが,学問的・実務的に有益であると考えられる。本稿は,こうした問題意識に応えるべく,比較的早くから自主規制を用いた行政手法が活用されてきたオーストラリアにおいて,消費者行政分野の先駆け的存在とされるビクトリア州に着目した考察を加える。具体的には,同州の消費者問題アニュアルレポートを素材として,保険業界自主規制の発展の経緯を辿ったうえ,その位置付け等について理論的・歴史的・比較法的な側面から考察し,日本への示唆を得る。その結果,本稿は次のような見解を示した。すなわち,規制のターゲットの3分類(極悪層,中間層,従順層)のうち,日本の生損保険業界は従順層,オーストラリアの保険業界は中間層に位置付けられ,このことが,それぞれの業界自主規制の実効性評価に差を生じさせている。しかるに,両者の位置付けの差については,①オーストラリアの業界は,保険に限らず,一般に中間層に位置付けられている,②日本の生損保険業界は,保険金支払問題を契機として従順層に変わった,という複合的な理由によるものと考えられる。

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