2022 年 2022 巻 656 号 p. 656_213-656_239
第三者のためにする生命保険契約の保険契約者と保険金受取人との間には,民法の第三者のためにする契約で予定されている「対価関係」が当然に必要なはずである。しかも受益の意思表示というシステムが存在しないため,この種の保険契約では,保険契約者は被保険者存命中である限り自由に受取人を変更することが可能である(指定変更権の持つ第1のフレキシビリティー)。その意味で,受取人指定変更権は,一方的にこの対価関係を形成する権利であり,保険契約者の有する財産権としてこれを評価しなければならない。かつて旧商法675条2項は,保険契約者死亡によって新たな対価関係形成はできなくなると規定していた。ところが,同項の廃止によって,受取人指定変更権を相続した者が自らの利益のために自由にこの形成権を行使できるようになった(この権利の持つ第2のフレキシビリティー)。もっとも,受取人指定変更権のこうした本質について,従来必ずしも明確に自覚されてきたとはいえないように思われる。本稿は,指定変更権の保険契約者にとっての財産的価値と,この二つのフレキシビリティーについて再検証・再確認を行うことを目的とする。