保険学雑誌
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COVID-19と事業中断保険
—[2021] UKSC 1 FCA BI Test Case—
森 明
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2022 年 2022 巻 658 号 p. 658_69-658_92

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抄録

2021年1月15日に英国最高裁判所でCOVID-19(非損害賠償型)事業中断保険について大凡保険者敗訴の判決が言い渡された。本件は主として中小企業の保険契約者を代表して英国金融行為規制機構(Financial ConductAuthority:FCA)が主な保険者8社を相手に起こした「試験訴訟」(testcase)である。そしてこれは本件の担当判事らが関与した自らの先例(審理日数3週間の仲裁と高等法院商事法廷)を否認した極めて珍しい事案である。更に驚くべきは「準備書面」と「公判記録」がFCAから「公開」されたことである。これは前代未聞の出来事で,筆者がこれらを試算した処,合計で1,938頁もあった。公法でもなく民法で,それも商法の中の一保険判例でありこれは「空前絶後」のものである。保険金請求金額の算定~協定には判決言渡し後に関係者に諮問を行ない,最終的に2021年3月3日にFCAが発表した「指針」(全30頁)に基いて処理されることになったが,個々の別事件では争いは可能である。183の接客業者が英国中國太平保險を相手に「仲裁」に持ち込み,その裁定がLord Manceにより2021年9月10日に出され同日それが「公開」されたのが最新のものである。更に本件絡みで「再保険者」はどう対応するか?即ち,保険金勘定を最後に支払う危険(Tail Risk)を誰がどれだけ負うか不明である。従って本件は現在進行形の事案でもある。尚,高等法院と最高裁で44名の法廷代理人が関与した事例で,その判決文は合計313頁にも上る大作である。判例の射程範囲も多岐に亘るので今回は主として「因果関係論」-特に海上保険と共同海損の判例法と実務-に絞り報告する。

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