保険学雑誌
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【一般論文】
ドイツにおけるD&O保険の進化と展望
—純粋財産損害の概念を中心として—
内藤 和美
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キーワード: D&O保険, 純粋財産損害, ESG
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2023 年 2023 巻 662 号 p. 662_1-662_22

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抄録

わが国のD&O保険は,純粋経済損害を補償の対象とする賠償責任保険として発展してきた。純粋経済損害は保険契約上の概念であり,対人・対物損害を補償する一般賠償責任保険とD&O保険の補償範囲を区別する概念として,理論と実務の両面で重要である。一方,ドイツでは,純粋経済損害に相当する純粋財産損害という概念があり,ドイツのD&O保険約款は純粋財産損害に関する明確な定義を規定する。もっとも,近年,サイバーリスクやESG分野の賠償責任リスク等,新たなリスク・エクスポージャの増大に伴い,純粋財産損害概念が拡張する傾向があり,これによって,保険者の意図に関わらずD&O保険のカバー範囲が拡大する可能性について議論となっている。こうしたドイツにおける純粋財産損害概念を巡る議論の動向を踏まえ,わが国でも,純粋経済損害の概念が役員を取り巻くリスクの変容や新たなリスクの出現によって拡張する可能性も考慮しつつ,D&O保険を一層進化させていくことが重要である。

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© 2023 日本保険学会
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